同性婚は同性カップルだけの問題じゃない。トランスジェンダーの人にとっても重要な理由

結婚の平等は同性カップルだけの問題?いえ、トランスジェンダーの人たちにとっても大事なことなんです

法律上の性別が同じふたりの結婚、通称「同性婚」は、同性カップルだけの問題だと思われがちだが、そうではない。

7月8日に始まる「結婚の自由をすべての人に」裁判の東京第2次訴訟では、シスジェンダーのレズビアンとゲイだけでなく、パンセクシュアルの当事者やトランスジェンダーといった多様な性的マイノリティが原告となる。

原告に加わったのは、トランスジェンダー男性の一橋穂(いちはし・みのる)さんとパートナーの武田八重(たけだ・やえ)さんだ(ともに仮名)。 

Open Image Modal
一橋穂さん(左)と武田八重さん(2021年3月26日)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

性自認は一橋さんが男性で、武田さんは女性。

ふたりは異性カップルだが、一橋さんの法律上の性別が女性であるため、武田さんとの婚姻届を提出しても受理されない。

異性カップルでも結婚できない

一橋さんと武田さんが結婚できない背景には、法律上の性別を変更する要件が厳しいという問題が存在している。

日本では、「性同一性障害特例法」によって法律上の性別を変更することができるが、そのためには「成人していること」「結婚をしていないこと」「未成年の子どもがいないこと」「生殖腺を取る手術を受けること」「変更する性別の身体の性器に近似する外観を備えること」という5つの要件を満たさなければならない(さらに、医師2名以上による性同⼀性障害の診断書が必要で、要件を満たす書類をもとに、家庭裁判所に申し立てることによって、性別の変更が可能になる)。

このうちの一つ、生殖腺を取る手術は、身体への負担があることなどから、望まない人もいる。また、経済的な負担も大きいため、望む人すべてが手術を受けられるわけでもない。

一橋さんは、身体に対する違和感があるが、ホルモン治療や手術は行っていない。あまり気にしなくて済む日もあれば、違和感に襲われ自分の体に触れることすらつらく、明かりをつけて風呂に入ることができない時もあるという。それでも手術を受けることに慎重なのには、様々な理由がある。

1つは、手術に伴うリスクや負担だ。

ホルモン治療や手術をすると、体が変化して自認する性別に一定程度近づくことができる。その一方でホルモン治療による副作用や、卵巣摘出による健康状態の変化、全身麻酔下での手術、経済的負担などのリスクや負担が発生する。

「色々なリスクや負担との兼ね合いをみて、実際に治療を進めるかどうかを考えています」と一橋さんは話す。

また、武田さんとは、法律上の婚姻ができないために法律上の夫婦ではないために、手術で万が一のことがあった時に家族が困らないようにするための備えをするのが難しく、そういった状態で手術を受けることへの不安もある。

さらに、一橋さんの母は手術に反対しており、地元の親戚にも自分が男性であることは話していない。そのため「外見が変わっていくホルモン治療にもなかなか踏み切れない」と、一橋さんは言う。

こういった様々な事情から治療をしておらず、現状に「何とか折り合いをつけて」社会生活を送っているが、手術を受けて法律上の性別を変更しない限り、武田さんと結婚できない。

法律上の性別が同じであっても、結婚を認めて欲しいとふたりは願っている。

結婚できても法律上の性別を変更できないケースも

一方で、同性カップルであるのに「異性カップル」として結婚しなければいけなかった人たちもいる。

沖縄に住むトランスジェンダー男性のブライアント・レイさんとシスジェンダー男性の船橋祐二さんはともにゲイの男性。同性カップルだが、ふたりは2021年4月に法的に結婚した。 

結婚できたのは、トランスジェンダー男性のレイさんの法律上の性別が「女性」だからだ。レイさんはホルモン治療と乳房摘出をして、子宮と卵巣摘出はしていない。

法律上の性別が異なるため結婚できたものの、レイさんは「女性」と扱われた状態で結婚することに強い違和感を感じたという。

「正直、『女性』で扱われることに慣れている方ではあるのですが、婚姻届の用紙に記入しているときには、今までにない違和感を感じました。私は女性ではないのに妻欄に記入しなきゃいけない。そしてわざわざ男女に分けて記入しなきゃいけない」とレイさんは振り返る。

さらに、結婚したことで、性同一性障害特例法が課している「結婚していない」という要件を満たさなくなり、法律上の性別変更ができなくなった。

そのことを「間違っている」とレイさんは感じている。

「同性婚ができないのも理解できませんし、結婚したから法律の性別を変えることができないというのも理解ができません」

レイさんが手術を受けないと決めたのは「子宮卵巣を取らないと法律の性別を変えられない、陰茎形成をしないと変えられないという事が嫌だった」からだ。

「性器の有無でしか性別を決める事ができないのか。私の場合は、どんなに頑張っても『作り物』という感覚があったので、リスクを負って手術してもそれで幸せになるか?と自分に問いただした時、そうじゃないと思った」と話す。

「妻」を「縁故者」にするよう求められた

結婚した「妻」を「縁故者」に変えられるよう求められたトランスジェンダー当事者もいる

東京都で暮らすエリン・マクレディさんとパートナーのマクレディ・緑さんは2000年に結婚。

幼い頃から性別に違和感を感じていたエリンさんは、2018年に出身国のアメリカで、性別を「男性」から「女性」に変更した。

Open Image Modal
エリンさん(左)と妻の緑さん(2021年6月21日)
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

ところが、日本で住民票の性別変更を申請したところ、妻との続柄を「縁故者」にする必要があると言われた。

さらに転居先の自治体では、住民票上の性別変更が受け入れられなかった。

性別変更を受け入れられないのは、エリンさんが性別を変更すると、二人は“同性婚“の状態になってしまうため、性同一性障害特例法が求める「結婚していない」という要件にあてはまらなくなってしまうことなどが背景にあると原告側弁護団はいう。

ふたりは6月、こういった取り扱いは憲法が保障する人格権や婚姻の自由に反するとして、国や自治体を相手取り提訴した。

家族は多様。「性別」にとらわれない結婚の権利が必要

一橋さん、レイさん、マクレディさんたちのように、トランスジェンダーのカップルの中には、「同性婚」が認められていないことや、法律上の性別変更に「生殖腺を取る手術」が要件となっていることから、結婚か手術を受けて性別を変更するか、どちらかしか選べないという状況に直面している人もいる。

また、法律の性別変更に必須となっている「生殖腺を取る手術」は、海外では無くす動きが進んでいる。

人権団体ヒューマンライツウォッチは2019年、日本で未だに手術が求められていることを「時代後れで侮辱的な考え方に基づいており、人権侵害にあたる」と批判。性別変更要件から手術を取り除くよう求めた。 

もし手術要件がなくなっても、医師による診断や家庭裁判所への申し立てなどは残る可能性が高く、こうした点も国際的に議論されている。

危険を伴う手術を受けなければいけないことに、トランスジェンダー当事者のパートナーも苦しんでいる。

一橋さんのパートナーの武田さんは「手術は失敗することだってあり得ますし、災害が多いこの国で被災した時にホルモン治療を受け続けられるのかということもすごく不安です」「(手術をしてもしなくても)彼の存在は全く変わりません。なのに、なぜそこまでしなければいけないのでしょうか。そんな不安なことを押し付けられるというのは、すごく悲しいし憤りを感じます」と2020年のハフポスト日本版の取材に話している。

一橋さんと武田さんが原告に加わった東京第2次訴訟では、こういったトランスジェンダーの当事者が直面している困難にも光を当てて、結婚の平等の早期実現を求めていく。

目指しているのは、誰もが、性自認、性的指向に関係なく平等に、結婚するしないを自由に選択できる社会だ。

弁護団は「現行法上、婚姻が認められないという問題は、同性愛者やパンセクシュアルの方々だけでなく、トランスジェンダーにも生じる問題であり、婚姻の自由があらゆる性の在り方にかかわる問題であることを引き続き訴えていきたい」と述べる。