30人以上の性的マイノリティが「結婚の平等」を求めている「結婚の自由をすべての人に」裁判。このうち、3組の同性カップルが原告となる訴訟の判決が6月20日、大阪地裁で言い渡されます。
結婚の平等とは、法律上の性別が同じふたりの婚姻の実現です。
この訴訟は、全国5つの地裁・高裁で裁判が進んでいて、2021年3月には、札幌地裁で「法律上の性別が同じ2人の結婚を認めないのは違憲」という判決が言い渡されました。
2件目となる大阪地裁の判決でも、同じように違憲判断が示されるのかどうか、注目されています。
この裁判には2つ争点があります。判決を前に解説します。
【争点1】結婚の平等を認めないことが「憲法違反」か
訴訟の1つ目のポイントになるのは、「結婚の平等」を認めないことが「憲法24条1項」と「憲法14条1項」に違反するかどうかです。
それぞれの条文には、次のようにうたわれています。
・憲法24条1項
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」
・憲法14条1項
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
この2つの憲法をめぐり、原告はこのように主張しています。
👉 憲法24条には「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と書かれていて、人は「いつ誰と結婚するか」を自由に決められると定めている。それなのに同性同士の結婚が認められていないのは結婚の自由の侵害だ
👉 憲法24条の「両性」というのは、保障の対象を「男女に限定する」という意味ではない。憲法24条が作られる前の旧民法は、結婚するには、家長である戸主の同意が必要と定めていた。それが、結婚するかしないかを当事者2人の合意で決められるようになったという意味だ
👉 憲法14条は差別を禁止し、法の下の平等を定めている。それなのに異性と結婚したい人は結婚できて、法律上の性別が同じ相手と結婚したい人は結婚できない。これは性的指向に基づく不当な差別だ
この主張に対し、国は次のように反論しています。
▶️ 憲法24条の「両性」は男女を意味する。だから憲法は同性カップルの結婚を想定しておらず、憲法違反ではない
▶️ そもそも憲法24条は(男女間の)結婚の自由を定めたもので、結婚の平等を想定していないのだから、同性同士が結婚できないのは差別ではなく合理的な区別。憲法14条1項が保障する平等原則に反しない
国は、次のような主張もしています。
▶️ 結婚は子を産み育てるための制度であるから、異性カップルと別の取り扱いをしても問題ない
▶️ 法律は、異性愛者も同性愛者も、異性とは結婚できるのだから、性的指向に基づく差別にはあたらない
2021年3月の札幌判決では、この2つのうち、憲法14条1項について「違憲」という判決が言い渡されました。
裁判所はその理由を「異性カップルが使える結婚制度を、同性カップルでは一切使えないようにしている現在の民法は、差別を禁じた憲法14条1項に違反し、差別にあたる」としています。
ただし、憲法24条1項については「同条は異性婚について定めたもので、同性間の婚姻について触れていない」という理由で、違憲判断は示しませんでした。
【争点2】「違憲状態を放置していた責任があるか」
もし「憲法24条1項」と「憲法14条1項」のいずれか、もしくは両方で「違憲」と認められた場合、次に争点になるのが「国が憲法違反の法律を放置していたことが、違法か」という点です。
原告は次のように主張しています。
👉 海外での結婚の平等実現や、日本国内での地方自治体でのパートナーシップ制度の導入、国連の人権機関からの勧告などから、結婚を認めないことによる人権侵害はずっと前からわかっていた。
それなのに、国は法律上の性別が同じ相手との婚姻を認める法律の整備を怠ってきた(「立法不作為」といいます)。これは国家賠償法上違法だ。
この原告の主張に対して、国は次のように反論しています。
▶️ 現在の法律は、憲法24条1項と憲法14条1項に違反していない。そのため、国家賠償法違反ではない。
「現在の法律が憲法違反ではないので、法整備してこなかったことも違法ではない」という主張です。
ちなみに、原告は「国が法整備を怠ったことで、望む相手との婚姻を妨げられ、それによって精神的損害を被った」として、1人あたり100万円の慰謝料請求をしています。
ただし原告弁護団によると、裁判の目的は慰謝料の支払いではありません。
現在の法律では「違憲」という判断を導き出すことだけを目的にした裁判は起こせないために、慰謝料支払いを求める「国家賠償請求」という形を取っているといいます。
弁護団は「原告が真に求めているのは尊厳の回復であり、『同性間の婚姻を認めない法律は違憲』という司法判断だ」と強調します。
そのため、賠償請求が認められなくても、違憲判決が言い渡されれば、原告側は「実質的勝訴」と捉えているといいます。
しかし賠償請求が認められれば、国会に対して、結婚の平等のための法律整備をさらに強く促す後押しにもなります。
札幌地裁は、この2つ目の争点について「結婚の平等の議論がされるようになったのは最近のことだから」という理由で、違法ではないと判断しました。
しかし原告らは、今回の大阪地裁判決ではこの争点についても違法という判断が示されることを望んでいます。
1日も早い結婚の平等の実現を求めて
20日の大阪判決では、
・札幌に続いて「違憲」判決が言い渡されるのか、もしくは反対に「合憲」という判断になるのか
・「違憲」と認められた場合、国が法整備を怠ってきたことに対する責任まで認めらるのか
という点が、注目されます。
また違憲判決が言い渡された場合、必要なのは憲法改正ではなく、法律の改正です。
現在、法律(民法や戸籍法)に「夫婦」という言葉が使われていることから、法律上の結婚は、男女間に限られるものと解釈されています。
そのため、法律上同性のカップルは、婚姻届を提出しても「法律の規定にそぐわない」として、受理されません。
原告も国側も「結婚の平等実現には憲法改正が必要」という姿勢を取っていません。
2001年にオランダで初めて実現した「結婚の平等」は、これまでに30の国や地域に広がり、2022年7月にはスイスも加わる予定です。主要7カ国で、国レベルで同性パートナーへの法的保護はないのは日本だけで、遅れをとっている状態です。
地方自治体では急速な勢いでパートナーシップ制度が広がっていますが、法的効力はありません。そのため、法律上の性別が同じカップルは、共同親権を与えられない、配偶者ビザが認められない、相続権がないなど法的保障から排除されています。
さらに、結婚が認められないことで「二流市民」扱いをされた原告たちの尊厳が奪われています。
大阪地裁の判決は、こういった現状を解消するための、重要な司法判断となります。