【判決要旨全文】「結婚平等が認められないのは合憲」大阪地裁が判断

大阪地裁はなぜ、法律上の性別が同じふたりの結婚が認められないことを「合憲」と判断したのか。判決要旨の全文を掲載します。
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大阪地裁判決を報告する原告ら
Jun Tsuboike / Huffpost Japan

「法律上の性別が同じふたりの結婚が認められないのは憲法違反だ」として、複数の同性カップルらが国を訴えた裁判で、大阪地裁の土井文美裁判長は6月20日、合憲判決を言い渡した

2021年3月に「違憲」とした札幌地裁判決と、判断がわかれた今回の判決。なぜ「合憲」という判断を示したのか。裁判の判決要旨を全文掲載する。

平成31年(ワ)第1258号

【判決骨子】

1 憲法24条1項、13条に基づいて同性間で婚姻をするについての自由が保障されているとは認められないから、同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の諸規定(本件諸規定)が憲法24条1項、13条に違反するとは認められない。

2 個人の尊厳の観点からは、同性カップルに対しても、公的承認を受け公証されることにより社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができることについての利益(公認に係る利益)を実現する必要があるといえるものの、そのためにどのような制度が適切であるかの国民的議論が尽くされていない現段階で本件諸規定が立法裁量を逸脱するものとして憲法24条2項に違反するとは認められない。

3 本件諸規定によって生ずる差異は憲法24条1項の秩序に沿ったものであり憲法14条1項の許容する範囲を超えるものとはいえないから、本件諸規定が憲法14条1項に違反するとは認められない。

4 本件諸規定は、憲法の規定に違反しないから、本件諸規定を改廃しないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められない。

大阪地方裁判所第11民事部
裁判長裁判官 土井 文美
裁判官 神谷 善英
裁判官 関 尭熙

 

平成31年(ワ)第1258号 損害賠償請求事件

【事案の概要と主な争点】

本件は、同性の者との婚姻届を不受理とされた原告らが、同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規定(本件諸規定)は、憲法24条、13条、14条1項に違反するとして、被告が必要な立法措置を講じていないことが国家賠償法1条1項の適用上違法である旨主張して、慰謝料の支払を求める事案である。
本件の主な争点は、①本件諸規定が憲法24条、13条、14条1項に違反するか、②本件諸規定を改廃しないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるかである。

【主文】

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

【判決の要旨】

1 原告らの主張する、同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の諸規定(本件諸規定)が、憲法24条1項、13条に違反するかについて

(1)憲法24条1項に違反するかについて

 憲法24条1項においては、婚姻について「両性の合意」や「夫婦」との文言が、2項においても「両性の本質的平等」との文言が用いられており、これらの文言は、婚姻が男女から成ることを意味するものと解するのが通常の文理解釈である。明治民法の起草過程においても、婚姻は異性間でするものであることが当時から当然の前提とされ、同性間で婚姻をすることができないことはあえて民法に規定を置くまでもないものと考えられていた。憲法24条の起草過程でも「男女両性」等の文言が用いられ、同条の要請を受けた民法改正においても、その起草過程で同性間の婚姻について議論された形跡はない。このような憲法24条の文理や制定経緯等に照らすと、同条1項における「婚姻」は、異性間の婚姻のみを指し、同性間の婚姻を含むものではないと認めるのが相当である。

 よって、憲法24条1項から導かれる婚姻をするについての自由は、異性間についてのみ及ぶものと解されるから、本件諸規定は憲法24条1項に違反するとは認められない。

 もっとも、憲法24条1項が設けられた趣旨は、明治民法における旧来の封建的な家制度を否定し、個人の尊厳の観点から婚姻が当事者間の自由かつ平等な意思決定である合意にのみ委ねられることを明らかにする点にあることに加え、誰と婚姻をするのかの選択は個人の自己実現そのものであって、同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものでないことからすると、憲法24条1項が異性間の婚姻のみを定めているからといって、同性間の婚姻又はこれに準ずる制度を構築することを禁止する趣旨であるとまで解すべきではない。すると、後記の本件諸規定についての同条2項適合性の検討は、上記の解釈を前提として検討すべきである。

(2)憲法13条に違反するかについて

 婚姻をするについての自由は、憲法の定める婚姻を具体化する法律に基づく制度によって初めて個人に与えられるか、又はそれを前提とした自由であり、生来的、自然権的な権利又は利益であるということはできない。異性間の婚姻のみを前提とする婚姻制度しか存在しない現行法の下では、同性間で婚姻をするについての自由は憲法13条で保障されている人格権の一内容であるとはいえないから、本件諸規定は憲法13条に違反するとは認められない。

(3) 憲法24条2項において考慮すべき権利利益について
 既に述べたとおり、同性間で婚姻をするについての自由が憲法24条1項や憲法13条から導かれるとはいえない。

 しかし、婚姻によって享受し得る利益には、相続や財産分与等の経済的利益のみならず、当該人的結合関係が公的承認を受け、公証されることにより、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができることについての利益(公認に係る利益)も含まれ、このような利益は、婚姻した当事者が将来にわたり安心して安定した共同生活を営むことに繋がるもので、自己肯定感や幸福感の源泉といった人格的尊厳に関わる重要な人格的利益であるといえ、異性愛者だけでなく同性愛者にもこのような利益が認められる。そして、この人格的利益(公認に係る利益)は、本件諸規定が憲法24条2項で認められている立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると解される。

2 本件諸規定が憲法24条2項に違反するかについて

(1) 憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえ、その要請、指針は、単に憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害してはならないことのみならず、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものである。

 そこで、本件諸規定の憲法24条2項適合性について、本件諸規定による現行婚姻制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、本件諸規定が個人の尊厳等に照らし合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとしてみざるを得ないような場合に当たるかという観点から判断すべきである。

(2)ア 人類には、男女が共同で生活を営み、自然生殖により子が生まれることにより子孫を残し、次世代へと承継してきた実態が歴史的・伝統的に存在しており、婚姻制度は、このような関係に対し、社会の自然かつ基礎的な集団単位として識別、公示する機能を持たせ、法的保護を与えるものである。このような婚姻制度の趣旨は、我が国で法律婚が定められた明治民法から現行民法に受け継がれ、歴史的、伝統的に社会に定着し、社会的承認を得ている。よって、その趣旨には合理性がある。

 他方、本件諸規定により、異性愛者は自由に異性と婚姻ができるのに対し、同性愛者は望みどおりに同性と婚姻をすることはできないという重大な影響が生じている。本件諸規定の下でも、同性愛者が望む同性のパートナーと婚姻類似の結合関係を構築、維持したり、共同生活を営んだりする自由が制約されるものではなく、契約や遺言など他の民法上の制度等を用いることによって一定の範囲では婚姻と同等の効果を受けることはできるとしても、このような方法は、異性カップルが享受し得る婚姻の法的効果に及ぶものではないし、このような対応では同性カップルが社会の中で公に認知されて安心して安定した共同生活を営むために必要な人格的利益である公認に係る利益が満たされないという問題は残される。

イ しかし、同性カップルについて公認に係る利益を実現する方法は、現行の婚姻制度の対象に同性カップルを含める方法に限られず、新たな婚姻類似の法的承認の制度を創設するなどの方法によっても可能である。そして、本件諸規定は、単に異性間の婚姻制度を定めたにすぎないものであるから、同性間について婚姻類似の公的承認の制度を創設することを何ら妨げるものではない。このように、個人の尊厳の観点からは同性カップルに対しても公認に係る利益を実現する必要があるといえるものの、その方法には様々な方法が考えられるのであって、そのうちどのような制度が適切であるかについては、現行法上の婚姻制度のみならず、婚姻類似の制度も含め、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因や、各時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた上で民主的過程において決められるべきものである。国民の間でも、同性愛者に法的保護を与えるべきとの意見が高まっているということはいえるものの、これらの意見は現行法上の婚姻制度をそのまま認めるのか、婚姻類似の制度を新たに設けるべきであるかについて必ずしも区別がされていない可能性がある。

 以上によれば、今後の社会状況の変化によっては、同性間の婚姻等の制度の導入について何らの法的措置がとられていないことの立法不作為が将来的に憲法24条2項に違反するものとして違憲となる可能性はあっても、同性間の人的結合関係にどのような保護を与えるのかの議論が尽くされていない現段階で、本件諸規定自体が、立法裁量を逸脱するものとして憲法24条2項に直ちに違反するとは認められない。

3 本件諸規定が憲法14条1項に違反するかについて

(1) 本件諸規定により異性愛者は婚姻ができるのに同性愛者は婚姻ができず、婚姻の効果を享受できないという差異が生じ、これは、性的指向という本人の意思や努力によっては変えることのできない事柄によって、婚姻という個人の尊厳に関わる制度を実質的に利用できるか否かについて区別取扱いをするものであるから憲法14条1項適合性については、このような事柄の性質を考慮してより慎重に検討される必要がある。

(2) しかし、憲法24条1項は、異性間の婚姻についてのみ定めたもので、同性間の婚姻を禁止するものではないとはいえ、異性間の婚姻と同程度に保障しているとまではいえないことからすると、本件諸規定が異性婚のみを定めているのは憲法上の秩序に沿ったものである。

 また、異性間の婚姻は、男女が子を産み育てる関係を社会が保護するという合理的な目的により歴史的、伝統的に完全に社会に定着した制度であるのに対し、同性間の人的結合関係にどのような保護を与えるかについてはなお議論の過程にあること、同性カップルと異性カップルの享受し得る利益の差異は相当程度解消ないし緩和されつつあることをも踏まえると、現状の差異が憲法14条1項の許容する立法裁量の範囲を超えたものであるとは直ちには認められない。仮にその差異の程度が小さくないとしても、その差異は、既に述べたように、本件諸規定の下においても、婚姻類似の制度やその他の個別的な立法上の手当てをすることによって更に緩和することも可能であることからすると、国会に与えられた裁量権に照らし、そのような区別に直ちに合理的な根拠が認められないことにはならない。

 したがって、いずれにせよ本件諸規定が憲法14条1項に違反するとは認められない。

4 立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について
 本件諸規定は、憲法の規定に違反するものではないから、本件諸規定を改廃しないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められない。

大阪地方裁判所第11民事部

裁判長裁判官 土井 文美
裁判官 神谷 善英
裁判官 関 尭熙

 

※判決の要旨(弁護団提供による)はこちらから読めます。