同性婚訴訟、新たに8人が提訴。トランスジェンダーやパンセクシュアルの人も婚姻の平等を訴える

性的指向だけではなく、性自認に基づく差別も憲法違反だ。大きな注目を集める訴訟に、新たな原告が加わりました
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「結婚の自由をすべての人に」訴訟で新たに8人が提訴した
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

法律上同性の者同士の結婚、通称「同性婚」が認められないのは憲法違反だとして、日本各地の性的マイノリティが国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」訴訟に、新たに8人の原告の集団提訴が加わった。    

8人はいずれも都内在住で、3月26日に東京地裁に提訴した。

東京地裁に対しては2019年2月、第一次の集団提訴があった。今回の第二次訴訟とこれまでの訴訟との大きな違いは、原告に多様なセクシュアリティの当事者が加わったことだ。  

これまで進んできた訴訟の原告は主に同性愛者だったが、追加訴訟の原告には、性自認と身体的性が一致していない「トランスジェンダー」や、相手の性別に関係なく恋愛対象とする「パンセクシュアル」の人たちもいる。

第一次訴訟との違い

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訴状などを裁判所に持ち込む弁護団
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

「結婚の自由をすべての人に」訴訟で原告は、法律上同性のふたりの結婚が認められないのは、憲法24条1項が定める結婚の自由や、憲法14条が定める法の下の平等に違反すると主張している。

今回の第二次訴訟も、訴訟内容は基本的に同じであるものの、「性的指向だけではなく、性自認に基づく差別も憲法14条1項が定める平等原則に違反しているという主張している点で第一次訴訟と違う」と、沢崎敦一弁護士は説明する。

「第一次訴訟では性的指向に基づく差別が憲法14条1項違反であると主張をしていましたが、第二次訴訟では、性自認に基づく差別というのも憲法14条1項違反であると主張しています」

「どのような性自認を持つのか、あるいはどのようなセクシュアリティを持つのかというのは、多様な人としての性あり方の一つにすぎず、異性愛規範を正当としそれに当てはまらないセクシュアリティを持っている人を差別することはいけない、という主張を組み立てています」

新たな原告の思い

新規訴訟に加わった人たちはどんな思いで原告になったのか。提訴の後に開かれた記者会見で、8人がそれぞれの思いを語った。

一橋穂さんと武田八重さん

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一橋穂さん(左)と武田八重さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

異性愛カップルとして初めて原告になったのは、一橋穂(いちはし・みのる)さんと武田八重(たけだ・やえ)さんだ。

一橋さんはトランスジェンダー男性で性自認は男性だが、法律上の性別は女性であるため、女性パートナーの武田さんと結婚ができない。

「トランスジェンダーである私にとって、パートナーと作る家庭は、心の底から安心できる場所であり、私が自分らしく生きるために必要不可欠な場所です」

「私たちも、他の異性カップルと同じように婚姻を認めて欲しいと思い、提訴する決意をしました。私たち二人のためだけではなく、未来を描けずに絶望しかけている次の世代のためにも訴えたいと思っています」と、一橋さんは語った。

河智志乃さんと鳩貝啓美さん

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河智志乃さん(右)と鳩貝啓美さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

河智志乃(かわち・しの)さんと鳩貝啓美(はとがい・ひろみ)さんは、連れ添って15年目のレズビアンカップル。

ふたりは2019年2月に婚姻届を提出しているが、受理されなかった。また、結婚できないことで、様々な不平等や不利益を被ってきたという。

「ふたりで家を建てた時には、ローンを組むためにも『任意後見契約』の公正証書を作成することが必要でした。また、片方に財産を残すために遺言公正証書も作りました」と、鳩貝さんは振り返る。

性的マイノリティの若者たちに自分たちと同じような苦労をさせないためにも、原告になる決断をした。

ケイさん

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ケイさん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

パンセクシュアルで、同性パートナーと22年間をともにしてきたケイさんは、「早く結婚しないのか」という周囲からの圧力から逃れるために、同じ悩みを持つゲイ男性と結婚した経験があるという。

しかし本当のパートナーとの関係が認められないことや、自分の大切な人たちに嘘を付いている罪悪感に苦しみ、うつと診断されたと語った。

原告になった気持ちを、「人生の半分以上、大切な人のことを隠し、多くの不本意な嘘を重ねて生きてきました。これからの世代には私のような窮屈な人生を歩んでほしくありません」と語った。

福田理恵さんと藤井美由紀さん

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福田理恵さん(右)と藤井美由紀さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

福田理恵(ふくだ・りえ)さんは40歳の時にがんを患った。その時に全力で支えてくれたのがパートナーの藤井美由紀(ふじい・みゆき)さんだった。

しかし闘病中、病院から家族しか手術に付き添えないと言われたため、藤井さんのことを「いとこ」と偽らざるをえなかったという。

「伴侶という言葉以外では言い表せない絆があるパートナーのことを、病院にはずっと『いとこ』と嘘を付いてきました」

「嘘をつくことで、私自身も、セクシュアルマイノリティが嘘をつかなくてはならない社会の一員となっていることに、息がつまりました」と福田さんは声を詰まらせながら会見で語った。

同性カップルの結婚が認められて日本で安心して暮らせるようになって欲しい、という気持ちから原告になったと福田さんは述べた。

山縣真矢さん 

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山縣真矢さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

付き合って23年目の同性パートナーがいる山縣真矢(やまがた・しんや)さん。日本最大級のLGBTQイベント「東京レインボープライド」の運営に、長年携わってきた。

東京レインボープライドは大きなイベントに成長した一方で、「私自身の人生に目を向けてみると、私とパートナーとは、法的に赤の他人で、病気や失業、死などに直面した時に、結婚していれば当たり前に享受できる法的保障が得られないという理不尽な現実がありました」と振り返る。

自分たちのような同性カップルを日本の家族制度から排除してほしくないという切実な思いから、山縣さんは原告になった。

東京でも違憲判決を 

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「結婚の自由をすべての人に」第二次訴訟の原告ら
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

2019年2月14日に13組の同性カップルが国を提訴して始まった「結婚の自由をすべての人に」訴訟。

今回の追加提訴の前までは、北海道・東京・大阪・名古屋・九州の地方裁判所で29人(うち1人は2021年1月18日に死去)が国を訴えていたが、今回の追加提訴により原告の数は37人に増えた。

今回の新規提訴の約一週間前の3月17日には、本訴訟最初となる判決が札幌で言い渡され、「同性同士の結婚を認めないのは、憲法14条1項が定める平等原則に違反している」という大きな違憲判断を勝ち取った

この判決を聞いて藤井さんは「泣いた」と振り返る。

「ふたりで泣きました。結婚が近づいたと思え、泣いてTwitterとかで繋がっている人とみんなで『よかったね』と喜び合いました。これを東京につなげたい、他の地方にもつなげたいと思っています」

判決の日に札幌まで足を運んだ山縣さんは、傍聴券を求めて並ぶ列を見て涙が込み上げたという。

「抽選で153人も、それも結構若い子が並んでいて、ここまできたかと思いました。そして違憲という言葉が判決の中に書かれ、差別ということもちゃんと言われて、ここまできたかと思いました」

鳩貝さんも「画期的な判決が出て喜ばしかった」と語る一方で、憲法24条の婚姻の平等違反だと判断されなかったのは残念だったと述べた。

「なんで憲法24条の『両性』という言葉が同性同士では認められないんだろうと思いました。それを(自分たちの)訴訟でもっと求めていきたいなと思います」