国に対し、法律上の性別が同じふたりの結婚を認めるよう求める裁判(飛澤知行裁判長)が7月8日、東京地裁で始まった。
この裁判は全国5つの地裁と高裁で進む「結婚の自由をすべての人に」と呼ばれる訴訟の一つで、東京では2つ目の訴訟となる。
通称「同性婚訴訟」として知られる同裁判では、3月に札幌地裁で「同性同士の婚姻を認めないのは違憲」という判決が言い渡された。
東京第2次訴訟では、トランスジェンダーやパンセクシュアルといった多様な性的マイノリティの当事者も原告となり、平等な結婚の実現を求めている。
8日の第一回口頭弁論では、8人の原告のうち2人が意見陳述に立ち、これまでの経験や結婚の平等を求める想いなどを語った。
日々の生活で隣り合わせの不安
その1人が武田八重さん。武田さんの性自認は女性で、パートナーの一橋穂さんは男性。ふたりは異性カップルだ(ともに仮名)。
しかし、トランスジェンダー男性である一橋さんの法律上の性別が「女性」であるため、ふたりは結婚できない。
武田さんと一橋さんは娘との3人家族だが、結婚できないために様々な困りごとや不安と隣り合わせで生きている。
例えばふたりには、結婚した夫婦のように、事故にあって救急搬送された場合など、お互いに万が一何かあった場合に相手に財産を残せる法的保障はない。
また武田さんに何かあった場合は、娘との法律上の親子関係がない一橋さんが、親として娘を支えられない可能性もある。
さらに、病院で家族として扱われない不平等さにも直面してきた。
数年前に一橋さんが入院した時、武田さんは「万が一の時には、家族でないと連絡ができない」と言われたという。
「安心して病院にかかりたいのに、家族ではないということを繰り返し突き付けられ、いつも心がすり減っていました」と武田さんは述べた。
子育てで感じた偏見への不安
武田さんと一橋さんが、子育てする中で何より心配だったのは、「娘が嫌な思いをしないか」ということだった。
「娘の学校の緊急連絡先には、私と一橋の名前を書きました。学校から私と一橋の関係について聞かれたどうしよう、私たちの関係を学校に伝えることで、娘が嫌な思いや居心地の悪い思いをするのではないか、そんな心配がずっとありました」
偏見を持つ方がいけないのだと頭ではわかっていたが、それでも「娘が傷つくことは避けたい」と、娘を守るための小さな嘘を重ねた。
親たちだけではなく「娘自身にも親に見せない苦労があったと思います」と、武田さんは苦しい思いを振り返った。
この「行ってきます」が最後になるかもしれない
意見陳述をしたもう一人の原告・藤井美由紀さんは、仕事で家を出る時にパートナーの福田理恵さんをハグして「愛しているよ、行ってきます」と伝える。
気持ちを言葉にするのは、大きな病を乗り越えた経験からだ。福田さんは数年前に乳がんと診断され、手術を受けた。
「『行ってきます』と言った日が最後になるかもしれない。そんなときに後悔をすることがないように『愛しているよ』という気持ちをしっかりと言葉にして伝えるようにしています」と、藤井さんは語った。
がんと診断された時、家族と疎遠だった福田さんに藤井さんが寄り添い、支え続けた。
しかし病院には「手術前後の説明は家族でなければ受けられない」という規定があったために、藤井さんはふたりの関係を「いとこ」と言わねばならず、そのことに心苦しさを感じた。
心苦しい「嘘」は、親族にもつかなければならなかった。
藤井さんの父親が亡くなった時に、藤井さんは「親族に拒絶されるのではないか」「差別や偏見を受けるのではないか」「二人の関係をうまく説明する言葉がない」という気持ちから、福田さんに葬儀に参列してもらえなかった。
ひとりで父の葬儀に出なければいけなかった悲しみの中、藤井さんは結婚できない不平等さを身をもって感じた。
「兄の隣にはいつも奥さんがいましたが、私はいつもひとりでした。父の亡骸に付き添うのもひとり。お線香を絶やさないようにしたのも私ひとり。私の隣は誰もいませんでした」
「悲しみのどん底にいた時に、心の支えである理恵がいないことはとてもつらく、配偶者として認められないのだということを実感し、結婚ができないことに理不尽さを感じました」
結婚するしないを選べないのは「不合理で差別的」
結婚は、相続権や親権などの重要な権利が結びついた制度だ。
しかし現在の法律では、その結婚制度を選択できるのは法律上の異性カップルだけで、原告を含む法律上同性のカップルにはその選択肢がない。
そして武田さんや藤井さんたちのように、家族として支え合って生きているにも関わらず「病院で家族として扱われない」などの取り扱いを受けている。
弁護団の沢崎敦一弁護士はこの状態は「不合理で差別的」であり「結婚の自由を定めた憲法24条や、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」と主張。結婚の平等を実現するよう求めた。
原告はさらに、こういった法律による差別的な取扱いが、社会の中で偏見を助長する、とも訴える。
弁護団の溝田紘子弁護士は、法律上同性のカップルに結婚を認めないのは差別的取扱いであり、「原告を含む性的マイノリティに負のイメージやスティグマや偏見を与え、法律上同性のカップルの関係性が異性カップルと比較して『正常ではない』『尊重に値しない』かのような、誤った評価を生み出し、強めている」と指摘した。
武田さんは証言台で「皆さんが大切な人を守りたいと思うのと同じように、私も大切な人を守りたいと願っている、それだけなんです」と述べた。
「一橋と出会って自分を大切にできるようになり、娘のためだけでなく自分のためにも生きていきたいと思えるようになりました」
「40年近く生きてきて、やっと自分の帰れる場所を見つけることが できました。戸籍上の性別がどうであれ一橋は私の人生を変えてくれた大切な人なんです。戸籍上同性だという理由で結婚をあきらめなければならないのでしょうか」
藤井さんは若い世代のためにも、性自認や性的指向に関係なく、平等に結婚するしないを選択できる社会にして欲しいと訴えた。
「私たちが安心して社会の一員としてふたりで暮らしていけるよう、 ふたりの関係性を社会的に承認してもらいたい。私たちのように不安定な関係は私たちの世代で終わりにしたい。次の若い世代には暮らしやすい世の中になって欲しいと切に願います」