「AIやVRが進化しても、やっぱり人としたい…」 紗倉まなさんがこう語る理由

「私にとってセックスって快感とは遠いところにあって、もっと愛とかアイデンティティに近いものなんだと思います」
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紗倉まなさん
川しまゆうこ

セックスってほんとうに必要?

そう聞かれて即答できる人は、どの程度いるのだろうか。

若者の「セックス離れ」や、男性の「草食化」が指摘されて久しい。相手とコミュニケーションを取る方法はたくさんあるし、そもそもセックスなんてしなくてもいいのでは…?

ましてやこの先、VRと呼ばれる仮想現実を駆使したアダルトコンテンツが登場したら、ますます自己完結でオーケー、とならないだろうか。

こうした問いに声をそろえて「諦めないで」と呼びかけるのは、男性向けAV女優の紗倉まなさんと、女性向けAV俳優の一徹さんだ。

一徹さんの新刊『セックスのほんとう』の発売に際して、ふたりが「これからのセックス」について語り合った対談の後編をお届けします。

ネット時代、性も”タコツボ化”している?

スマートフォンひとつあれば、いくらでも好みのアダルトコンテンツを見ることができてしまう時代。AV出演者として活躍する二人は、ネットによってセックスの考え方も少しずつ「狭まっていく」可能性があることをまず指摘した。

一徹さん(以下「一徹」):AVが雑誌やビデオという形で流通していた頃は、友だちと一緒に見たり、貸し借り合ったりすることで、多少なりとも誰かとセックスに関して会話をする機会がありました。でも今はネットでAVを検索して一人で楽しむことができますよね。個々人が自分の趣味に基づいて、同じようなコンテンツばかり見続けることができるので、どんどん閉じた世界に入っていっているのかな? という印象はあります。

結果として、セックスにまつわる「こうあるべき」「これが正解」という“思い込み”も加速しているような気がしますね。

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(左から)紗倉まなさん、一徹さん
川しまゆうこ

紗倉まなさん(以下「紗倉」):確かにネット上ですべてが完結してしまうことで、誰にも邪魔はされないけれど、たとえ間違った情報を受け取ったとしても、それも自己責任だから怖いですよね。

一徹:AVだけに限った話ではありませんが、今の時代、嫌なものは全てシャットアウトできるようになっているじゃないですか。Twitterもミュートやブロック機能を使えば、自分が好きな世界だけを作りあげることができますし。

昔、『ホットドッグ・プレス』という雑誌を読んでいたんですね。そうすると、最初はファッションに興味があって雑誌を手に取っているのに、全然関係ない小説家の北方謙三さんが、大人の立場から、悩める童貞たちにエールを送っている記事が目に入ったりする。

自分から求めてこの情報に出会ったわけじゃないんだけれども、「こういう考え方もあるんだ」と気づけたり、もっと生きやすくなる知識を知ることができたりするチャンスが、ちゃんと世の中に散らばっていたんですよね。これは検索では出会えないですよね。目先にある手軽な幸福を追求していたら、どんどん“タコツボ化”していくいくというか…。

紗倉:それはすごくありますね。例えばAmazonでも、ひとたび何かの商品を調べると関連商品が次々と出てきますよね。1つダンボールを買ったら、ダンボール10枚セットや別の収納用品などが表示されて、「あなたが欲しいものはこれです」と延々と出てくる。こんな風に知らず知らずの内に私たちは情報化されていて、「オススメ」の中に取り込まれているんだと思います。

性的趣向も同じで、ネットで検索することが当たり前になってきたことで、どんどん視野が狭まってきているかもしれません。自分が好きなものは「もうこれでしかない!」という断定や思い込みも、昔に比べて強くなっているような気がするし、「こういう考え方もあるんだ!」「こういうジャンルもあるんだ!」などといった多角的な視点との出会いが難しくなっているのかもしれない、とは思いますね。

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奥:紗倉まなさん、手前:一徹さん
川しまゆうこ

性の違いを「わかりあう」ための、よいテクノロジーとは?

ネットによって”タコツボ化”する性的趣向。時代の変化やテクノロジーの進化は、ネガティブな影響ばかりなのか。「よいテクノロジーの使い方」ってなんだろう?

紗倉:女性が出産するときの痛みを男性が体感できる海外の機械が、以前話題になったことがありましたよね。それと同じように、セックスにおける男女の快感や痛みをお互いが体験できる機械があったら、もっと相互理解をした上での心地よいセックスが可能になる気がします。

一徹:男性はもっと女性ならではの痛みを疑似体験できるようになるといいですよね。出産もそうだけど、生理痛やPMS(月経前症候群)など、男性はわからないですからね。以前、ある女性が生理痛を我慢できなくて救急車を呼んだことがあるのですが 「どれくらい痛いの?」って聞いたら、「痛みをごまかすために果物ナイフでお腹をぐさっと斬りたいくらい」と言うんです。それを想像すると本当に痛くて辛いんだなって…。

紗倉:かわいそうに…。でもそんな風に、女性にしかわからない痛みを男性もわかってくれたらすごく嬉しいし、男性にしかわからない辛さも女性がわかるようになれたらいいですけどね。良いテクノロジーの使い方ですよね。

セックスも、挿入する感覚、される感覚って絶対お互いにわからないものじゃないですか。VRなどを使ってそれぞれが疑似体験できる機会やスペースがこれから増えていくといいですね。

一徹:そういうのを面白がれる感性や信頼関係がこれからはますます必要になっていくかもしれません。 

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VRのイメージ写真
Westend61 via Getty Images

 AV女優がテクノロジーに「負ける」?

VR技術の進化によって、より”没入感”のあるアダルトコンテンツが作られ、人気を集め始めている。たとえば10年後には、もっとVRが一般化し、AIが自分の好みをより的確に予測してくれるようになるかもしれない。

紗倉:10年後のセックス、どうなっているんでしょう。以前、『未来のセックス年表』という本を書かれている坂爪真吾さんとお仕事でご一緒したことがあるのですが、その未来予測がすごく面白くて驚きました。坂爪さんいわく、近い将来、自分が好きな女性の顔や体のパーツをセレクトして作った“理想の女の子”と、疑似セックスできるサービスが本当に実現するんだそうです。昔好きだった女の子や元カノ、漫画やアニメのキャラクターの写真などを組み合わせるんだとか。

それを聞いて、「これはAV女優いらずの未来がくるのかな」とハッとしました。AV女優は需要がなくなるか、あったとしても、顔や体のデータを”素材”として提供する形になってしまうのかもしれません。素材として皆さんにカスタムして使ってもらう未来…。そしたらどうやって食べていこう…。印税生活かもしれません(笑)。

一徹:実は以前に、似たような取り組みに挑戦したAV監督さんがいたんですよ。顔は誰で、ボディは誰で、みたいな感じで、考えられる最強の組み合わせを作ったらどうなるんだろう?って。 でも死ぬほど売れなかったみたいです(笑)。当時はまだまだ技術が足りなかったんですね。

紗倉 :でもどんなにVRやAIが進化しても、私はやっぱり生身の人間派ですね。男性に比べて女性はまだまだ、リアリティのある疑似セックスがしにくいと思います。例えば男性は、TENGAとローションを組み合わせたりすることで、すごくリアルな感覚に近い体験ができるとも聞きます。男性が疑似セックスを楽しむための選択肢や代替品はすごく進化している。でも、逆はそうではありません。なぜか女性の擬似セックスは選択肢が少ない。だから私はやっぱり生身の相手とのセックスを求めてしまいます。

そう考えると、女性の方がセックスできる男性を必死に探すような時代になるのかもしれないですね。

一徹:選択肢の差は確かにありますね。もちろん女性向けのグッズもありますが、リアリティ追求型のものはそう多くはない気がします。でも、女性も男性と同じようなリアリティのある疑似セックスができるとしたら、まなちゃんはVR上でのセックスで満足するのかな?

というのも一般的な話として、女性は行為そのものを求めているというよりも、好きな人とセックスがしたい、ときめきたい、というニーズが大きいような気がするから。技術だけの問題でもないのかな、と。

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イメージ写真
Tijana87 via Getty Images

 紗倉:確かに。やっぱり生身の相手とセックスしたいと思うでしょうね。

思い切った言い方をすると、男性のセックスには射精というひとつの明確なゴールがありますが、女性にはそういう区切りがないので、セックスに“句読点”を置きにくい。だからこそ、女性の方がムードを大事にしたり、誰とするのかということを重視したりするんですよね。

やっぱり私にとって、セックスはコミュニケーション。性欲どうこうというよりも、好きな人ともっと長く近くにいることや、自分は相手にどれくらい必要とされているかを確かめたいかを実感したり、そういうことが重要なんです。決して誰とでもいいわけではない。

突き詰めて考えると、意外と快感とは遠いところにあって、もっと愛とかアイデンティティに近いものなんだと思います。

一徹:「セックスに句読点を置きにくい」って面白いですね。言われてみれば「ゴール」の違いはある気がします。お互い違う性別なんだから、分かち合える部分とどこまでいっても分かち合えない部分があるのが当たり前ですよね。そうした違いをどう楽しむか。

とても難しいし当然答えはないけれど、お互いに失敗を許容し、許し合うしかないんでしょうね。大切な人との会話を何とか諦めないで欲しいな、と思いますね。

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(左から)紗倉まなさん、一徹さん
川しまゆうこ