マレーシア航空機、消息不明から1週間 各国の防空能力「格差」が浮き彫りに

消息不明から1週間が経過したマレーシア航空370便。謎は深まるばかりだが、同機は各国のレーダーに捕捉されることなくアジア上空を飛行したとみられており、今回の問題は航空防衛能力の地域間格差を浮き彫りにした。
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Reuters

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消息不明から1週間が経過したマレーシア航空370便。謎は深まるばかりだが、同機は各国のレーダーに捕捉されることなくアジア上空を飛行したとみられており、今回の問題は航空防衛能力の地域間格差を浮き彫りにした。

マレーシアのナジブ首相は15日、不明機が8日未明に消息を絶ってから約7時間飛行したとの見方を強めていると説明。乗員か機内にいた何者かが、トランスポンダと呼ばれる自動信号送受信機のスイッチを切った可能性が高いという。

同機は南シナ海で針路を変え、マレーシア北部を横断し、インド方面に向かったとみられている。南シナ海は領有権問題で緊張が高まっており、各国の軍の行動も活発な地域。

今回の問題を受け、アナリストや当局者らは、海上の空域のほとんどで、適切な監視を行えるレーダー探知システムが整備されていないという現実が突き付けられたと口をそろえる。

アナリストらは、東南アジアにおける防空能力の格差は他の発展途上国地域の現状と似ているとし、地政学的な緊張が比較的低い地域ではその格差は大きいと分析している。

<コスト>

航空管制システムは、航空機の探知・監視に使用されるトランスポンダにほぼ完全に依存している。今回の場合、マレーシアからベトナムに管轄が移る地点を飛行中に、そのシステムが停止したとみられる。

一方、軍のシステムは、範囲を自国の領空に限定するか、通常の民間航空機だと判断できる場合は無視する傾向にある。訓練中あるいは、脅威が迫った場合を除いてはスイッチを切っていることもある。

インド当局者によると、この点が同国のアンダマン・ニコバル諸島で不明機が捕捉されなかった要因として挙げられるという。両諸島付近では、14日に続いて15日も捜索が行われている。

アンダマン・ニコバル諸島を管轄するインド海軍のトップ、SudhirPillai氏は、「この地域には多くのレーダーがあるが、何も捉えなかった」とし、「われわれは、必要に応じて任務に当たっているため、軍のレーダーはスイッチが切られることがある」と語った。

別の国防関係者は、インドはレーダー施設を常時稼働させてはいないと明かし、理由を尋ねられると「(コストが)高すぎるからだ」と答えた。

<危険度>

自国の防衛能力をさらすことになるとの懸念が、不明機の捜索において、国家間の協力、特にマレーシア・中国間の協力を遅らせたとの声も聞こえる。中国は捜索に軍の部隊を投入し、衛星・艦船・航空機を活用。マレーシアの対応には批判的な態度を示してきた。

マレーシア軍のレーダーは不明機の機影を捕捉したとされるが、軍はその時点で対応に出たとはみられていない。当局者らは、このミスは驚くべきことで、世界の対空監視能力には比較的大きな格差があり、軍のレーダーシステムに限界があることが露呈されたと話す。

英王立統合防衛安全保障研究所のエリザベス・キンタナ氏は、「彼らがなぜ気付かなかったのか正確な理由を特定するのは難しい」とコメント。「低空を飛行した可能性や、軍が民間航空機は自分たちの問題ではないと判断したとも考えられる」と付け加えた。

当局者らは、今回のような問題が北米や欧州の空域で起きていれば、早期に解決できていたはずだと希望も込めて発言している。そうした空域では、軍と民間機関が常時、ハイジャックや領空侵犯を警戒し、レーダーを監視しているからだ。

米国や北大西洋条約機構(NATO)は、未確認の航空機が領空に接近してきた場合、軍用機をスクランブル発進させている。その一方、警戒態勢を維持する価値がないとされる地域もあるほか、レーダー探知が行われていない場所もある。

不明機が向かった可能性があるとされるアンダマン諸島では、国防当局者が記者団に対し、常にレーダー探知を行う態勢は整っていないとした上で、不自然なものは何も発見されなかったと言明。

また、同当局者はこの地域は、洗練されたレーダーが常時監視しているパキスタンとの国境付近に比べると、危険度ははるかに低いと説明した。

「夜間は特に何も起こらない。レーダーを使用して、訓練も行っているのは事実。ただ、警戒することがほとんどない地域であることも事実。私の見解では、ここはとても平和なエリアだ」

[ロンドン/ニューデリー 15日 ロイター]

(Peter Apps記者 Frank Jack Daniel記者、翻訳:野村宏之、編集:橋本俊樹)

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