マレーシア航空機の捜索 中国軍が存在感を誇示、周辺国は警戒

8日に消息を絶ったマレーシア航空機の捜索が難航する中で明らかになったのは、高解像度の衛星画像や新型艦船といった中国が増強する軍事力の一端だ。同国が今後、アジア地域で存在感をさらに誇示する可能性があると、周辺国は警戒を強めている。
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Reuters

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8日に消息を絶ったマレーシア航空機の捜索が難航する中で明らかになったのは、高解像度の衛星画像や新型艦船といった中国が増強する軍事力の一端だ。同国が今後、アジア地域で存在感をさらに誇示する可能性があると、周辺国は警戒を強めている。

乗客乗員239人を乗せた370便ボーイング777―200型機が消息を絶って6日が経過。中国当局者からはマレーシアの危機対応を批判する声も上がっており、両国の緊張は高まりつつある。中国側はマレーシアに関係者や調査官を派遣し、関与を深めている。

不明機には中国人150人が搭乗しており、こうした中国側の動きは、乗客の安否を心配する国内の声を一部反映している。その一方、同国が領有権を主張する南シナ海と東シナ海でその軍事力を誇示しつつある中で、今回の不明機捜索は行われている。

同地域に詳しい航空宇宙・防衛産業のある関係者は、中国の対応は近隣諸国に強い印象を与えるだろうと分析。「これは平和的な状況で力を見せつける行為だ」との見方を示した。

中国は艦船4隻と沿岸警備船4隻に加え、航空機8機と人工衛星10基を投入し、中国本土から遠く離れた捜索を支援している。同国メディアによると、救助活動のための船舶派遣としては過去最大だという。

不明機と航空管制官との最後の交信が確認されたのは、マレーシアのコタバル沖120カイリ(約220キロ)の位置。同機はクアラルンプールから北京に向かっていた。

中国外務省の秦剛報道局長は10日、不明機の捜索とその後の調査についてはマレーシアが「主要な責任」を負っているが、中国政府もこれに関与するだけでなく、マレーシア側にさらなる努力を要請する責任があると指摘した。

<マレーシアとの対立>

皮肉なことに、中国とマレーシアは南シナ海での領有権問題にもかかわらず、この地域では最も友好な関係にあった。

しかし、今年1月、マレーシア領のボルネオ島サラワク州から沖に約80キロ離れた場所にある暗礁、ジェームズ礁(中国名・曽母暗沙)で、中国艦船が主権宣誓活動を実施。同暗礁は中国本土から約1800キロの位置にある。

この暗礁は、中国が南シナ海の9割の海域で領有権を主張するために地図上に引いた9本の境界線「九段線」の最南端に含まれる。この問題をめぐっては、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、台湾も中国と領有権を争っている。

ジェームズ礁には、中国人民解放軍海軍が3隻保有する最新鋭揚陸艦1隻などが派遣されたが、このうちの2隻は不明機の捜索にも参加している。

米ワシントンの戦略国際問題研究所で東南アジアを専門にするアーニー・バウアー氏は、捜索をめぐるマレーシア側の不手際に触れ、「中国側は、彼ら(マレーシア)が重大事に対応する体制になっていないと判断しつつある」と見る。

捜索の成果が出ないことから、マレーシア当局の不慣れな記者会見に注目が集まっているほか、不明機が飛行ルートを大きく離れて飛行していた可能性についての発表が遅れたことも問題になっている。

同地域の海軍当局者やアナリストが、現時点で大きな問題の1つとするのは、難航する捜索とマレーシアの対応に中国が懸念を増幅させることが、将来的な中国側の行動につながるのかという点だ。

海外の多くの専門家は中国が捜索に艦船を派遣したことを力強い援軍と見るが、国営テレビなど中国メディアは、本土沿岸から離れた大規模な捜索や救助作戦の能力が自国には不足していると報じている。

中国はすでに、領有権を主張する西沙諸島と南沙諸島の施設で聴音哨や港湾、滑走路の整備を進めているが、中国のある専門家は、災害時の人道支援にはさらなる装備が必要になるだろうと指摘する。

政府系シンクタンク、中国国際問題研究所の阮宋澤氏は「これが最後にはならない。中国には責任があり、関与したいという希望がある」と語る。

こうした中国の動きを受けて、長年の領有権問題を抱えるベトナムでは、市民らが早くも懸念を強めている。

ソーシャルメディアでは、中国の航空機や艦船がベトナム沿岸近くで活動することについての投稿が盛んで、中には強い疑念を示す書き込みも見られる。

ベトナムの捜索・救援活動を率いるファム・クイ・ティエウ運輸次官はロイターに対し、中国の船舶や航空機がベトナムの領海や領空に入る際に許可を求めてきたと明かした。

同次官は「捜索に当たり、中国機は高い高度しか飛行せず、船舶も領海深くに侵入することはない。このため、主権の侵害については懸念していない」と話した。

<中国海軍の新たなミッション>

中国と東南アジアとの関係の専門家である東南アジア研究所(シンガポール)の上級研究員、イアン・ストーリー氏は、今回の中国による艦船派遣について、同地域での軍事力増強と海外の自国民保護などを含む中国海軍の新たなミッションを反映しているとの見方を示す。

また同氏は今回の問題が、海外での国益が拡大するにつれ、その利益を守るために防衛費を増加させるべきだという一部の中国人の考えを助長させると指摘する。

中国政府は今月5日、2014年の国防予算が12.2%増の8082億3000万元(約13兆4080億円)になると発表。しかし、その内訳の詳細には触れなかった。

中国の国防費は米国に次ぐ世界2位の規模。これにより、今や東シナ海、南シナ海のみならず、西太平洋やインド洋まで軍事力を示すことができる近代的軍隊の整備が可能になった。

前出のバウアー氏は、不明機の捜索をめぐる混乱でアジアの軍事協力のぜい弱さが露呈し、米政府とアジアの同盟国との協力強化の必要性が高まったとする。

南シナ海での緊張緩和に向け、東南アジア諸国連合(ASEAN)が中国との締結を目指す合意には、捜索・救助活動の協力も含まれている。

こうした協力体制は現在協議中で、ASEANの代表団によると、より広範で繊細な問題とは別に、話し合いが進展する可能性もあるという。

バウアー氏は、「こうした共同作業を定着させてこなかったために、知ってか知らずか、中国はマレーシアが対応能力のない小国だというメッセージを自国民に送っているのだ」と話した。

(原文:Greg Torode、翻訳:橋本俊樹、編集:本田ももこ)

[香港 13日 ロイター]

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