学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却問題は、財務省による決裁文書の改ざんが発覚し、新たな展開をみせている。
各メディアも連日大きく報じるようになったこの問題を最初に「告発」したのは、地元豊中市の木村真・市議(53)だった。疑惑の端緒をどのようにつかみ、今なお続く一連の問題についてどうみているのか。木村市議に聞いた。
Kazuhiro Sekine
――森友学園の小学校建設用地をめぐる疑惑をどうキャッチしたのですか。
順を追って説明します。学園が小学校を開こうとした国有地は伊丹空港の近くで、かつては騒音被害が深刻だったんですよ。1970年代から住民の立ち退きが進められ、国が順次購入していったんです。
これに対し、地元の豊中市はこの土地を含む一帯を公園として整備したいと考え、国に貸与を申し出ていました。公式には明かされていませんが、担当者レベルでは無償貸与という話も出ていた可能性もあります。
ところが、その後、国の態度は一転し、豊中市に対して買い取りを求めてきたんです。市としても話が違うってことになったんですね。財政難なので、半分だけ購入することになりました。残り半分が、問題となっている小学校建設用地だったんです。
豊中市が国から買ったのは約9000平方メートルで約14億円でした。当然、地元では私たち市議も含め、残りの土地がどう活用されるのか注目していました。
2015年になると、現場では工事の囲いができていました。私立小学校ができるらしいことがわかりました。そのときはまあ、正直ほっとしたんですね。変な施設やなくて、学校でよかったと。
ところが、ちょうどそのとき、塚本幼稚園系の小学校ができるっていう話が入ってきたんです。塚本幼稚園ていうのは、園児たちに教育勅語やら軍歌やらを覚えさせていたところです。
まさかと思い、インターネットで検索してみると、塚本幼稚園を運営している学校法人がまさに、小学校を建てようとしていることがわかったんです。それが森友学園でした。
教育勅語は、天皇が臣民に対して向けた言葉なわけでしょ。私塾ならまだしも、学校教育法に基づく教育機関で、そんな憲法の理念に反するような教育は許されない、地元にそんな学校できたらたまらんと思ったんです。
小学校のホームページには、日本会議の関係者が複数人講演した記述がありました。一方で、塚本幼稚園が日本会議の関係者の勉強会の会場になっていたこともわかりました。
前理事長の籠池泰典さんも当時、日本会議大阪代表を名乗っていました。もっとも、日本会議側は、籠池さんはすでに退会していると言いましたが。
いずれにしろ、森友学園と日本会議とのつながりがはっきりしてきて、そんな中、安倍晋三首相の昭恵夫人が学校の名誉校長になっていることも明らかになったんです。
安倍首相は日本会議と近い存在です。もしかしたら、これは国有地の取得をめぐって、何かうさん臭いことがあるかもしれんと直感的に思ったんです。
時事通信社
試しに土地の登記簿を調べてみました。そしたら、土地の所有が運輸省となってる。今の国交省ですね。かつて伊丹空港の騒音対策で土地取得を進めてきた役所です。
おかしいな、と感じたんです。小学校の建設工事はすでに始まっていたので、てっきり所有者は学園になっていると思っていたので。
近畿財務局に電話で聞いたところ、池田靖・統括管理官という人から「定期借地権付きで貸してます」と言われたんです。「あれっ?」っと思いましたね。豊中市には「貸せない。買い取れ」と言っておきながら、なんで森友学園には貸してるんやという疑問がわいたんです。賃料を尋ねても「言えません」の一点張りでした。
それで後日、財務局に直接行って情報公開請求をしたんですね。2016年6月のことです。そしたらここでも池田さんが出てきて、「金額までは出せないかもしれません」と。まるで「予防線」を張ってるかのようでした。
あとからわかるんですが、この池田さんこそ籠池さんと土地取引の交渉をしていた人物でした。
その時は、「万が一、『黒塗り』やったら即刻裁判します」って私も言い返したんですが、やっぱり出てきた文書は金額も含めてあちこちが黒塗り。このときの文書は「貸付合意書」でした。
これは決定的におかしいと思いました。その直後、今度は学園が土地を買ったという情報が入ってきました。9月に再び情報公開制度で「売買契約書」を請求しました。でもやっぱり金額は黒塗りでした。
金額が非公開なのはおかしいと訴えるため、ビラ配りをはじめました。反響もあったので、こちらもさらに調べることにしました。例えば、近畿財務局が過去3年間に、森友学園と同じように随意契約で売却した国有地は30件以上ありましたが、この中で金額が公表されていないのは森友学園のケースだけでした。
学校の認可についても調べました。学園の小学校設立を認めるかどうかは大阪府私立学校審議会が議論したんですが、2014年12月の会合で計画に対する懸念材料が出ていったん保留になったのに、2015年1月に開かれた臨時会では条件付きで「認可適当」にしていたんですよ。まさに異例の扱いでした。
一方で、森友学園に国有地を売却することの妥当性を議論する近畿財務局の有識者会議「国有財産近畿地方審議会」では、最終的に売却を認めるものの、各委員から小学校の経営見通しについて「大丈夫なんか」みたいな指摘が相次いでいました。
色んな「状況証拠」が集まってきたという感じでした。こうした資料などもそろえて、過去に名刺交換したことがある新聞社やテレビ局の記者にメールで情報提供したんです。
そしたら、朝日新聞と毎日新聞、NHK、共同通信の記者が話を聞きに来てくれました。これが2016年11月末の話です。
でもそれからいっこうに報道される気配がなく、疑惑ということだけでは報道するのは難しいんやな、と思いました。そこで次の行動に移ることにしたんです。それが裁判でした。
情報公開請求に対して売却価格を非開示とした近畿財務局の対応は違法だと大阪地裁に提訴したんです。2017年2月のことです。提訴後、司法記者クラブで会見したところ、たくさんの記者が集まり、翌日には各社が報道してくれました。
売却価格は非開示だったんですが、実は推測する「手がかり」が登記簿に書かれていたんです。「買い戻し特約付き」という付帯条件でした。あらかじめ取り決めた条件を学園側が守らなければ、国は土地を買い戻すことができるという内容です。その際の金額は1億3400万円と記載されていました。
買い戻し金額は、そもそもの売却価格と同じくらいになるのが普通なんですけど、「まさかね」というのが当初の正直な思いでした。
というのも、国が豊中市に土地を売ったときの値段をもとに学園の購入価格を見積もったところ、約13億円だったんです。価格差は10分の1。あまりに開きがあるので、相談した弁護士も司法書士も「さすがに1億3400万円で売却したなんてありえない」と言っていました。
提訴から間もなくして、黒塗りなしの資料が国会議員らに提供されました。それで明らかになった売却価格が、ほんまに1億3400万円。びっくりしました。
僕が動いたのはここまでで、あとはマスコミが取材して報道してくれて注目されるようになったという感じですね。
――報道機関は当初、この問題に対してあまり関心を持っていなかったように思えます。
僕自身、はっきり言ってマスコミは信用してなかったんですよ。でもね、やっぱりここまで問題が注目されるようになったのは記者の皆さんが頑張ったからやと思います。NHKが予想以上に踏み込んで報道しているという印象もあったし、あと産経新聞。産経の記者が僕のとこに取材に来たことがあるんです。なんか揚げ足取りに来たんかと身構えていたんですが、ちゃんと取材してくれました。
帰り際、産経の記者は「まあ、東京の政治部は特殊やけど、大阪の社会部は関係ないですよ」って言ってて。なるほど、産経に限らず、どこのマスコミも東京と大阪の違いってのがあるんやって思いましたね。
実際、ネットの反応を見ると、森友学園の問題について全然報じてないっていう書き込みがあったんですが、これはもしかしたら東京での報道だと思うんですよね。というのも、大阪ではそんなこと全然なくて、記者会見以降は各社ともどんどんやってましたから。
――森友学園をめぐる一連の問題は、財務省による決裁文書の改ざんが明らかになり、佐川宣寿・前理財局長が証人喚問される事態に発展しました。
佐川さんの証人喚問は予想以上にひどかったですね。少しでも改ざんに関係したら一切答えないという。そりゃ、訴追の恐れがあるからという理由で自分に不利な証言は拒否できる権利は認められてますよ、法律でね。でも一方で、公務員でしょ。しかも地位の高いね。国民に対して説明する責任はあったと思いますよ。
でもね、かえってああいう態度が印象的になりましたよね。疑惑が深まったと思います。
改ざんについては、その目的はもちろん、明らかになったわけではなりませんが、何が削除されたのかで推測することができると思うんですよ。つまり、政治家や安倍首相の昭恵夫人の関与が疑われるような部分が根こそぎ削除されていた。それを隠さなあかんということだったんやと思いますよ。
公文書を改ざんするってのは犯罪ですよ。役人たちが「忖度」でそんな危ない橋渡りませんよ。国有地の売却だって、背任罪に問われる可能性もあるわけでしょ。そんな重大なリスクを犯す背景にあったのは、忖度ではなく圧力だったと思います。
逆に圧力や指示もなく、役人が忖度だけで改ざんしていたのであれば、この国の官僚機構は本当にどうしようもないということになりますよ。
いずれにしたって、公文書の改ざんは深刻な問題で、歴史に対する犯罪でもあると思います。公的な記録を変えてしまうわけですから。こうなると、国のやってることは何もかも信じられへんですよ。
――改ざんが政治家や昭恵夫人の関与を隠すのが目的なら、そもそも最初の段階で名前を記載する必要がなったのではないでしょうか。
最初は、財務省内での保身だったと思うんですよ。なにせ異例な対応をしているわけですから、省内で「なんでこんなことになっとんねん」と問題になった時、「いや、これは特殊な案件なんです」って言い訳できるように。
ところが、安倍首相が自身や昭恵夫人の関与が明らかになったら首相も国会議員も辞めると国会で答弁したため、関与を疑わせる記述を書き換える必要に迫られたんだと思います。今度は首相や政治家から身を守るために。
――昭恵夫人の証人喚問を求める声も出ています。
必要やと思いますね。公文書の改ざんという重大犯罪の中で、隠そうとしたのが昭恵夫人の名前だったわけです。でも、身内である安倍首相の政権下では真相究明はできんでしょう。まずは財務省以外の第三者的な調査機関を設置することが必要なんとちゃいますかね。
昭恵夫人付の谷査恵子さんが森友学園の国有地の件で財務省に問い合わせをして、その内容を籠池さんに伝えたFAXね。安倍首相も答弁してますけど、ゼロ回答だったとよく言う人がいますね。それね、違うと思います。
確かに、籠池さんが当初望んだ、国有地の定期借地期間を長くすることについては難しいという回答でした。ところが、FAXには、土壌汚染や埋没物がある場合は、それに対処する費用は買受の際に考慮されるということが書かれている。
籠池さんが貸付期間を長くするよう望んだのは、それによって毎年の賃料が安くなるからなんですよね。つまり、本当の狙いは国有地の利用をいかに安上がりにするかであって、土地を借りようが、購入しようがどっちでもいいんです。
その意味では、土壌汚染の費用が買受で考慮されるという言及は、まさに貸付けよりも土地を買ったほうが安上がりになるという示唆であって、ゼロ回答どころか満額以上の回答だと思うんです。
事実、情報公開請求した売買契約書では、埋められたゴミのことが書かれていた部分はすべて黒塗りでした。知られたくない、後ろめたさがあったんでしょう。
Kazuhiro Sekine
――この問題について、改めてどう見ますか。
世間で注目されてきたのは国有地の問題ですよね。なぜ学園側に安く売却されたのかという。目下注目されている決裁文書の改ざんもこの関連です。ところが、重要なことがもう一つ、設立の認可問題があると思うんです。本来ありえない学校がなぜ認可され、開校直前まで行ったのか。土地が取得できただけでは学校はできないんですね。
鶏が先か、卵が先かの議論みたいなもんですが、認可がないと土地は貸せない、あるいは土地がないと認可が出ないという状況下では、国有地の格安売却と学校設立の認可はまさに問題の両輪だと思います。
設立の認可を議論したのは大阪府私立学校審議会です。大阪府の知事は松井一郎さん。教育観は安倍首相と近い人です。国有地売却も設立認可も、安倍首相の影がちらつくわけです。そういう意味では、松井知事の責任も追及しなければならないと思います。
そうなると、問題の構図が見えてくる気がします。つまり、子どもたちに教育勅語を暗唱させ、軍歌を歌わせるような歪んだ愛国教育を目指した学校に、安倍首相や政治家たちが肩入れしようとした、その手法が、国有地の安売りと設立認可だった。僕はそうみています。
森友問題は、安倍政権がやってきた流れの中でとらえる必要があると思います。特定秘密保護法を成立させ、多くの憲法学者が違憲だと言っているのを振り切って集団的自衛権を閣議決定し、「共謀罪」法も成立させた。
こうした個人の権利より国家の論理を優先させる姿勢が、森友学園の小学校を設立させようとした人たちの考えにもにじんでいる気がします。
――報道機関顔負けの調査力と行動力で、森友学園の問題をあぶり出しました。改めて地方議員の役割とは何ですか。
人からは「よく疑惑を掘り起こしましたね」って言われるんですが、実のところ大したことをやってないんですよ。登記簿を調べて、情報公開請求して。難しいことではありません。裁判だってその気になればできます。
命がけの潜入をしたわけでもないし、独自の情報ルートをつかったわけでもありません。あとはジャーナリストたちが調べてくれて注目が集まるようになったんです。
地域の気になる問題を調べられるだけ調べて、市民運動に結びつけるという地道な活動をしただけです。「これ、おかしんちゃう?」。そんな意識を普段から持つことが必要だと思っています。