9月13日 水曜日 天気:晴れ 肌:さっぱり
VERY10月号が先週、発売された。普段はあまり手にしない雑誌なのだが、同僚の林亜季さんが登場したから、貪るように読んだ。どのモデルも美しいし、かっこいい。ひときわ目に留まったのが、化粧品の広告だった。
1カ月の「化粧断食」をしていることから、私はばっちりメイクの女性に飢えていたのかもしれない。顔をどアップにしても一点の曇りもないその表情は、芸術的でさえあった。
そこで私は、とてつもなくアホなアイデアを思いついてしまったのだ。
すっぴんで広告風写真を撮ったら、どうなるかということ。
そこで、同僚の関根先輩に頼むことにした。こんなアホみたいなことを真剣に聞いてくれる先輩は、彼しかない。20歳近く年上だけど、若手の面倒をよく見てくれる。冗談も通じる。よし、聞いてみよう!
真面目な顔つきをした先輩に近づいた。
「関根さん、あの。。。」
「なんや」
「あのですね、今忙しいですか?」
「ええで」
「あの、私の写真を撮って欲しいんですけど」
「ええで。最高の1枚撮ったるわ」
た、頼もしい...。優しすぎて、どんどん頼みづらくなる。
「どんな写真がええねん」
「えっとですね。ざ、雑誌っぽく」
もごもごする私に先輩は、スパッと答えた。
「そんな撮ったことないわ。俺は、いつも報道写真ばかりなんや」
「で、ですよね。実は、広告のモデルっぽく撮って欲しいんです」
「私、すっぴんなんですけど」
関根さんが黙ってしまった。
あんなに普段からよくしゃべる先輩がついに口を閉ざしてしまった。死にたくなった。
「...」
「よし、とにかくやろか」
や、やるんだ...。2人とも、これから待ち受ける壮絶な戦いがどうなるかも知らず、会社のスタジオに向かった。
イメージをつかむために、VERYで見ていた広告を参考にしながら、イメトレをした。
完璧な化粧広告に近づくには、3つの大きなハードルが待ち構えていた。
① 私は、モデルではない
② 関根さんは、雑誌のカメラマンではない
③ 広告風の写真なのに、メイクは一切しないし、フィルターもかけない
それらを克服する方法は、これだ。
① 何百枚も撮る。奇跡の1枚に頼るしかない
② それでも、写真の技術はある。彼が撮る人の写真が私は好きだ。どうにかしてもらおう
③ これは、ハードルではない。むしろ、私のニキビ跡まで見えるように撮って欲しいとお願いした。主役は、すっぴんの顔だからだ
いざ、撮影となり、私はすべての恥を捨てる覚悟で臨んだ。
イメージは、こんな感じだ。さて、どれくらい近づくのだろうか。
まずは、撮ってみる
なんだこれは。私のアホヅラ全開じゃないか。
化粧品の広告に出てくる女性は、美人なだけじゃない、かっこよさや知的さ、人間として憧れるありとあらゆるものを顔一つで表現している。この顔を見て、誰が感動するのだろうか。
もっと真面目な顔をしよう。
いやいや。なんだこの顔。
こんな言葉を添えたくなった
「関根さん、他の写真どうですか?ざっと200枚くらい撮った気がするんですが...」
「200枚くらい撮ったけど、1枚もあかんわ」先輩が苦しそうな表情を向けた。でも、私がここであきらめるわけにはいかない。恥ずかしい気持ちを抑えて、全部の写真を見て、何が足りないのかを2人で分析した。
光だ。光が足りない。
私たちは、今はあまり使われないスタジオからありとあらゆる光を集めた。
合計3つの強い光に囲まれて、私はまるで尋問を受けている容疑者のようだった。
もう2時間が経とうとしていた。
光は、かなり大きな一歩だった。一気に顔が明るくなり、陰影ができて、輪郭がはっきりと映るようになった。
写真を1枚1枚確認する作業を行うことで、私のアホ面とアンニュイな表情の違いも分かってきた。角度、光との関係、表情、髪のかかり方...。奇跡の一瞬を撮るために私たちの集中力はピークに達した。
そしてついに出来上がった。奇跡の数枚...。
これが、すっぴんの素人が光に頼りながら、命をかけて撮った広告風写真だ。
合計2時間半。合計1000枚以上。
クーラーのかかった部屋で、私たちは汗さえかいていた。
正直、もう自分が何をしたいのかわからなかった。でも、この写真、悪くないかも。
私は、素人だけどモデルさんがすっぴんの広告があってもいいんじゃないか。
そんなことを言いたいはずだった気がする。
◇◇◇
ハフポスト日本版でエディターとして働く私(27歳)は、2017年9月いっぱいを「ノーメイク」で過ごしました。仕事も、プライベートも、あえてメイクを塗らないことで見えてきた世界を、1カ月間少しずつ書き留めていきました。これから平日朝7時ごろ、順次公開していきます。
第6話:女が「女装」することの快感。
ハフポストでは、「女性のカラダについてもっとオープンに話せる社会になって欲しい」という思いから、『Ladies Be Open』を立ち上げました。
女性のカラダはデリケートで、一人ひとりがみんな違う。だからこそ、その声を形にしたい。そして、みんなが話しやすい空気や会話できる場所を創っていきたいと思っています。
みなさんの「女性のカラダ」に関する体験や思いを聞かせてください。 ハッシュタグ #ladiesbeopen も用意しました。 メールもお待ちしています。⇒ladiesbeopen@huffingtonpost.jp