歌手のマドンナがアメリカのラジオ番組「ハワード・スターン・ショー」3月11日の放送に出演し、自身が過去にレイプの被害に遭っていたことを明かした。その中で語ったことが、多くの性的暴行の被害者が被害を届け出ずに終わってしまう理由を、端的に言い表している。
56歳のマドンナは番組中でニューアルバム「レーベル・ハート」と、彼女が1970年代の後半にニューヨークに引っ越してきた経験について語った。その時、彼女は見知らぬ男性にナイフを突きつけられ、性的暴行を受けたと言う。「レイプされたの。ニューヨークに引っ越してきてからの1年間はめちゃくちゃだったわ」と、司会者のハワード・スターン氏に明かした。
マドンナは2013年の10月に雑誌「ハーパーズ バザー」上のエッセイで暴行被害について告白している。「ニューヨークは私が想像したようなところではなかった。両手を広げて私を歓迎してくれるなんてことはなかったわ。最初の年に、銃を突きつけられ、ナイフで脅されながら、住んでいるアパートの屋上に連れて行かれてレイプされた。アパートには3回も侵入された」と綴っている。
なぜ、レイプ被害を一度も警察に通報したり告発したりしなかったのか。マドンナはスターンにその理由を次のように語っている。「穢された事実は変わらない。時間の無駄だし、あまりにも屈辱的だったから」
これは短いやりとりだが、なぜアメリカで起きている犯罪の中で、レイプ被害だけが届け出が著しく少ないのか、その問題の核心に触れている。レイプや虐待に反対する活動を行うNPO「RAINN」によると、レイプ被害件数のうち、68パーセントは報告されずに終わっていると言う。理由としては、被害者に向けられるネガティブな注目や、告発する過程で被害者が再びトラウマを受ける「リトラウマゼーション」が挙げられる。結果として、レイプ加害者の100人のうち2人の割合しか実刑を受けることがないという現状が生まれている。
性的暴行の被害者がなぜ数年、時には数十年にもわたって被害を届け出ようとしないのか、想像するのは難しくない。一度被害を届け出ると、被害がいつ起きたのか物的な証拠を得るために体の隅々まで検査されなければならない。そして、被害の顛末を時にプライベートな領域にまで踏み込んで詳細に話さなければいけない。裁判の間も何回にもわたってその話をしなければいけない。メディアや同僚、学術界から悪意ある眼差しを向けられる可能性すらある。
また、性的暴行の被害に遭った男性/女性は「完全なる被害者」でいなくてはならないというプレッシャーに直面する。彼らの語る被害の内容が、慣習的に「容認できる」レイプ被害の筋書きに当てはまらなければいけないのだ。こういった体験が被害者の自尊心を傷つけ、マドンナの言う"屈辱"の一因になっている。
エマ・スルコウィッツさんは大学3年生の時、同じ大学の学生からレイプ被害に遭った。しかし大学側が行動を起こさなかったことに抗議して、"被害現場"であるマットレスを持ち歩いて抗議した。
「被害直後に911(緊急通報電話)をダイヤルしなかったとしても、被害が起こらなかったということにはなりません」活動家のエマ・スルコウィッツさんは2015年2月にインターネットサイト「マイク」に対してこう語った。「トラウマに対する対処の仕方は人それぞれです。それは生まれ育った環境や自分自身の見方、困難への対処の仕方によって異なります」
残念ながら、スルコウィッツさんや俳優でコメディアンのビル・コスビー氏にまつわる一連の事件の被害者に対する社会からのネガティブな反応を見るに、世間はマドンナが被害を"届け出ない"と決断した数十年前からあまり変わっていないようだ。
だが、そろそろこの意識を変えるべきなのではないだろうか。
RAINNではアメリカ国内の性犯罪被害へのオンライン上のホットラインを開設している。さらに情報が欲しい場合は全米性暴力情報センターで確認できる。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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