政府は「東京一極集中」や「人口減少」にどう対処するのか。内閣府の参事官に聞いてみた

SDGsを原動力に、自治体と民間企業の強固な連携を築く――「次の 5 年」の政策とは?
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遠藤健太郎参事官

急激な人口減少に対応し持続可能な社会を実現するために内閣府が策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は 2020 年度から、5 年間区切りの「第2期」が始まる。昨年末に閣議決定された新たな総合戦略では、SDGsを地方創生の原動力とすることが盛り込まれた。政府がどのように地方創生を考え、SDGs を生かした政策を進めようとしているのか。ポイントは自治体と民間企業の強固な連携だ。内閣府の遠藤健太郎参事官に、その詳細を聞いた。

「東京圏一極集中」への対応

青木:2020年度から「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の「次の5年」となる第2期が始まります。まず第1期をどのように振り返っていますか。

遠藤:日本の総人口は2008年をピークに減少しており、今後も大幅な減少傾向が見込まれます。地域をどう維持し発展するかという問題意識のもと、2014年度に地方創生という政策が本格的に始まりました。

この5年間で訪日外国人旅行者数(インバウンド)は大きく伸ばすことができました。農林水産物、食品の輸出額が増加し、地域にとって大きな経済的なメリットが生まれました。一方で課題として残っているのが東京一極集中です。東京への転入超過数は2018年度に13.6 万人。目標としては下げたかったのですが、残念ながら増えています。年齢別では、大学進学や就職といった節目で多くの方が東京圏に転入していることがわかります。また性別による違いも顕著です。

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出典:総務省「住民基本台帳人口移動報告」(2010~2018年/日本人移動者について)
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住民基本台帳の人口移動のデータに基づき、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局において作成

青木:東京への一極集中が起きると、どういう結果につながるのでしょうか。

遠藤:日本全体が低出生率ですが、中でも東京は出生率が日本で一番低く、東京への一極集中は全体としての人口減少につながると分析しています。第2期でも引き続き対策を行っていくところです。

新しい時代の流れを力にする「第 2 期」はSDGs を原動力に

青木:第1期の振り返りを踏まえ、2019年12月に発表された第2期「まち・ひと・しごと総合戦略」はどのように変更されているのでしょうか。

遠藤:次の図が「次の5年間」の総合戦略の全体像です。目指すべき将来に、一極集中の是正は課題として盛り込まれています。その中で具体的に基本目標を4項目に整理しています。これら4項目は中長期での基本目標ですので、第1期から引き継いだものです。

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出典:内閣府

第2期では新たに、4 項目に共通する「横断的な目標」を2つ加えました。「多様な人材の活躍を推進する」には高齢者、外国人、女性活躍ということも含まれています。「新しい時代の流れを力にする」は SDGsなど、潮流を生かしたアプローチです。

第1期の総合戦略策定のタイミングにはなかった、技術の革新やSDGsといった国際的な流れが出現していて、それを全体にかかる目標として位置づけられたというところが、第1期との違いです。

青木:「SDGsと地方、地域」という切り口での取り組みは世界的にも見られますか。

遠藤:SDGsの2030アジェンダの中にも「地方のガバメント」といった言葉が盛り込まれています。「Localizing SDGs」と言われるように、課題の解決のために地域や自治体の役割が大きいという議論は海外でもされました。発展の状況や資源の賦存状況、直面している課題は国内でも海外でもさまざまで、課題の優先順位付けは地域によってかなり異なります。

青木:日本の場合も、都市の規模や構造によってまったく戦略の組み方が違います。なんとなく模範があると思いがちですが多様なあり方があると。

遠藤:そうですね。内閣府ではSDGs未来都市を選定していますが―― 。

SDGs未来都市の選定基準とKPI

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インタビュアーの青木茂樹氏

青木:そう、SDGs未来都市に選定される基準ってなんだろうと思っていました。

遠藤:例えば、これまで選定された都市の中には、神奈川県のような広域自治体もあれば北海道下川町のような人口 3000 人あまりの自治体もあります。SDGsの考えに即した進め方を当てはめるときに、小規模な自治体でも広域自治体でも、可能な対応があります。

SDGsは多様なステークホルダーが連携し、それぞれの自治体で課題の優先付けや、PDCA サイクルの回し方を考え進めていく、というテーマです。17 項目すべてを扱っている必要はなく、それよりも、2030 年に向けて、何がその地域の優先課題なのかを明らかにするということが重要です。

防災なのか、高齢者の健康なのか、環境なのか、そこに住まわれている方が考えていくわけです。解決すべき優先課題に SDGsのどのゴールやターゲットがどういう風に当てはまるのかを、「経済」「社会」「環境」の3側面の統合を前提に考えて頂くということです。

青木:どのように KPIを設定するかは、現場の自治体で悩まれているのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

遠藤:国際的には232の指標が提示されていますが、必ずしも日本の地方という視点で使いやすいものにはなっていません。そこで国内の自治体に向けて「地方創生 SDGs ローカル指標リスト2019年8月版(第一版)」を公開しています。この指標には「共通指標」と「独自指標」があります。

例えば人口など、全国で横並びの比較ができる指標を「共通指標」としています。しかし、地域の課題はさまざまで、ぴったりとした指標となる統計データがない場合も多くあります。そういった場合は地域で独自にKPIを設定して頂いています。

ほかの自治体との比較は困難だとしても、駅前の賑わいを歩行者通行量から測るといったことは、その地域での取り組み効果を見る上では意味があるわけです。使える「共通指標」は使った上で、併せて「独自指標」を利用して頂くということです。

連携促進が SDGs 未来都市のメリット

青木:SDGs未来都市の支援策やリソースについての設計図は。

遠藤:モデル事業に対しては補助金がありますが、SDGs未来都市自体に新たな補助制度があるわけではありません。最後は「自律的な好循環」を創出し持続可能になることが目的です。ある自治体がどれだけ自律的に発展していくかという観点を取り入れ選定しています。

青木:では、SDGs未来都市に選定されて、経済面以外でインセンティブとなり得ることとは何でしょうか。

遠藤:事例から、SDGs未来都市に選定されたことをきっかけに、官民連携が進んだことが見えてくるとインセンティブになるのではないか、と考えています。SDGs未来都市に選定されているということは、トップを含めて SDGsを理解し、SDGs達成への取り組み体制をつくっていることが明らかな自治体であるということですから、課題解決にこれから取り組まれる企業にとっても、どこと組めばいいのか、という判断材料になるのではないでしょうか。

いま、民間企業がビジネスの本業で課題を解決するという、 重要な局面を迎えていると思います。人口減少下の日本で直面している困難な課題の解決に、いままで以上に民間企業の方も参画いただき、課題を一緒に解決していくという流れをつくるという意味において、SDGs未来都市に選定された自治体には、それを対外的に発信していただくことで官民連携が促進されるというメリットが現に生まれています。

官民の強固な連携促す――地域の課題解決が企業価値にも 

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出典:首相官邸 ホームページ公開資料

青木: SDGs、ESG投資という枠組みによって、ロングタームでビジョンを判断する投資がでてくるようにお考えでしょうか。

遠藤:お金の行き先が社会課題や地域課題へ向かうことが今後の大きな流れだと思います。地域の経済の中心は中小・中堅企業です。地域で SDGsに取り組む企業を「見える化」することによって、地域の金融機関が手を差し伸べるという流れを強化していきたいと考えています。

長野県や神奈川県、さいたま市などは登録・認証制度があります。これが効果的だと考えています。そういった価値観のある企業を「見える化」することで、企業が自治体と連携したり、地域の課題解決に取り組むきっかけにもなります。そういったところに然るべき資金が流れる、ということを「地方創生に向けた SDGs金融」というふうに整理しています。民間資金という側面では ESG投資と地域経済はまだ十分リンクしておらず間接的だと思っていますが、今後少しずつ増やしていきたい部分です。

青木:地方創生 SDGs金融に関しては、地域事業者が手を挙げても地方自治体が動かなければ全体のスキームには発展していかないという理解でしょうか。

遠藤:そこはさまざまな議論があるところです。いわゆる「SDGs宣言」をする企業が多数出てきていますし、中には信用金庫や地銀など金融機関も多いんです。民間の発信が活発になればという思いはあります。

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 なぜ自治体が重要かというと、自治体がビジョンや優先順位を示されていたほうが、企業側の取り組みの順位付けも明確になるためです。自律的好循環の形成は全体が並行して進むものだと考えています。どこかのスキームがなければ他のスキームが動かないということではありません。

青木:これまでは、市民・県民のレベルで自治体に「やってもらう」という意識が強かったように思います。それが内閣府の戦略もあって「一緒にやっていく」という声かけの仕方に変わってきていると。

遠藤:SDGsは「皆が少しずつ」という性格もあると考えています。行政は多様な意味で重要だと考えていますが、さまざまな立場の、今は学生の皆さんも非常に意識が高いので、まちづくりに意見を言って頂きたいと思います。必ずしも、自治体が包括的に全てをやるのが是だとは考えていません。

自治体と民間企業の連携を深めるという意味では、Sustainable Brands Japan も活用して民間企業の意識をぜひ高めて頂き、地方に目を向けて頂きたいと思っています。SDGsが途上国のものであると思われている企業はいまだに多いです。人口の急激な減少など日本には日本の課題があって、地方創生というテーマにも今まで以上に関心を持っていただきたいという思いもあります。

地方創生に取り組む企業に金融の手が差し伸べられるとか、評価されるといったことも必要でしょう。人材獲得の面で企業にメリットも生まれるとも言われています。確かに企業が地域に雇用を生むという面がありますが、企業にとっても社会課題解決に取り組むことで良い人材が得られ、より発展していくという流れができるといいですよね。

※内閣府は 2020 年度の SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の募集を2月18日(火)より受付開始いたします。

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