芸術作品が技術面で枝分かれする学派として、「抽象派」と「写実派」があります。 ストレートなメッセージを読みとることが困難となる抽象画と、目に見えるものを現実の状態になるべく近づけようとする写実画には、絵や彫刻の主体が存在する・しないという外見の大きな違いがあり、水と油の関係のような意見の行き違いが興味深いバトルを引き起こしています 。さらに、それぞれの分野には異なる芸術概念が存在し、それは時代とともに少しずつ変化していきます。
趣向と意識が人々の変化と成長に影響し、私たちの文化や生活が日々著しい進化を遂げるように、芸術の世界にも同様なことが言えます。しかし、1970年代に登場したロサンゼルスのある一つの芸術運動が今日まで衰退する姿を見せず、今までの現代アートの単調な波を大きく揺さぶっているのです。
大量生産・大量消費がテーマとなるポップ・アートから発展した「ローブロウ」は 、漫画、雑誌、サブカルチャーにポピュラーカルチャーなど、今まで芸術としてカテゴライズされなかったものがアートとして評価された芸術運動です。悪趣味でユーモラス、そして文化を小馬鹿にするような皮肉も込められたローブロウアート。それは時に「低俗」と称され、これを芸術としてどのように扱えば良いのかという芸術評論家の議論が今日まで続いています。
ローブロウを単品ジャンルとして認識し、横へそっと放置しておけばいいものの、今日になりそれができなくなってしまった理由として、 3つの大きな動機があげられます。犬猿の中といってもおかしくはないこの二つの厳格な学派の間に、何とも滑稽な邪魔が入ってしまいました。
なぜ、ローブロウが今日まで止まることのない成長を見せているのでしょうか。それには、時代背景が作り出すいくつかの理由があります。
■「ジャクスタポーズ・マガジン」の登場
Courtesy of Juxtapoz Magazine
1960年代までは、富、権力、そして教養のある少数派の人間のみが嗜むことのできる分野として芸術が存在していましたが、ポップ・アートの登場により、芸術が一般社会にも広く浸透していくようになります。当時のローブロウは、漫画やポスターなど奥行きのない絵が多数でしたが、1994年に初出版された月刊アート雑誌「ジャクスタポーズ」が、写実的なものまでも練り込んだローブロウアートを取り上げ、注目を集めます。現在の「ジャクスタポーズ」は、近代美術の資料として美術大学の図書館にも設けられるほどとなり、 一目置かれる存在となりました。
■ポップ・シュールレアリスムの登場
Courtesy of Mark Ryden
シュールな世界にポップが混ざり込んだ「ポップ・シュールレアリスム」という芸術運動が誕生し、見たことのない芸術の融合に人々が興味を示します。特徴はやはり、絵画の非現実的な背景(抽象)とリアリスティックな技術(写実)。おかしくも現実的、この不思議な組み合わせがローブロウを成功へと導いたと言えます。マーク・ライデン、ジョー・コールマンなどの画家が、ポップ・シュールレアリスムの代表的存在として、現在多大な人気を誇っています。
■「芸術は難しすぎる。」芸術消費者と生産者の関係。
今日では異なる概念を持つ様々なジャンルの芸術が数多く存在し、それによってたくさんの人々がアートに感心を持っています。ですが、芸術を消費する側と生産する側、彼らの芸術に関する思いはうまく比例していないようにも感じます。
本来、芸術家の哲学は美しさを追求する美学に関係がありました。しかし、裏の裏をかくような美の思想が複雑であるとし、人々は困難で似たような芸術概念に飽きを感じ始めます。アートギャラリーや美術館は、マンネリ化した芸術界のビジネス対策としてローブロウアートの存在とアイデアに目を付けます。直接的に観客の感心を引きつけるローブロウにより、多くの人にもっとアートに興味を示してもらおうという方針です。近年の「ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート・ロサンゼルス(MOCA)」では、ストリートアート、ゲームアート、コマーシャルアートを多く取り上げる姿勢が目立っています。
ローブロウが抽象派と写実派の仲裁としての存在なのか、それとも火に油を注ぐような存在なのか。この奇妙な三角関係が今後どのような変化を遂げていくのかが、とても楽しみです。