コロナ禍で、3密を回避できるアウトドアレジャーとして、釣りを楽しむ人が増加している。
しかし、一方で新たな問題も起きている。
最近の釣り人口の増加に比例して、「マナーの悪さ」が目立つようになってきたのだ。
一体、どんなマナーの悪さが問題になっているのだろうか。そもそも、釣りのマナーとは何だろう。
今回、釣りレジャーの地位向上や環境に配慮した道具作りなどを推進、釣りの魅力を伝え続けている日本釣用品工業会のお二人に話を聞いた。
釣りや海をはじめとした水辺の自然を愛する人々の「サステナブルなレジャー」への想いとは?
売り上げが2割増しになった、釣り具メーカーも
── コロナ禍で釣り人口はどのくらい増えたのでしょうか?
櫻井孝行さん(以下、櫻井):各メーカーさんにヒアリングしたところ、釣りに出かけている方は肌感覚では増えていて、売り上げベースでいうと2割ほど上がっているという声もありました。また、釣り船業を営む方たちからは、今まで来てくれていた常連さんとは違った新しい層のお客様も増えたという声もよく聞きます。
── どのような層が増えていると感じますか?
櫻井:初心者の方が、コロナ禍でかなり増えたのではないかと思います。釣り初心者の方々が楽しむ情報交換サイト「あした、釣りいこ!通信」では、20~30代の方が読者層として多く、さらに女性の方、ファミリー層にも釣りが浸透してきたように感じます。屋外で密になりづらいという理由で、興味を持ち始めた方も多いようです。キャンプなどアウトドアレジャーと合わせて初めてご家族で釣りをやってみたという声もありました。
マナーを守れないと釣り場が閉鎖される事態にも…
── レジャー感覚で釣りを楽しむ方が増えてきたのでしょうか?
高階:そうだと思います。それ自体はとてもうれしいことです。しかし、人気の場所では人が多く集まりすぎて、いろんな問題が出てきています。
── 実際にどんな問題が出てきているのでしょうか?
高階:最近ニュースでもよく取り上げられていますが、まずはゴミの問題です。一部の方たちだとは思うのですが、空き缶やペットボトル、食べ終えたお弁当の容器などを置いて帰ってしまう方がいます。また、釣り糸くずや使ったエサなどを捨てていってしまう方もいるようです。
櫻井:あとは違法駐車の問題です。漁港などで漁師さんが使う場所に勝手に車を停めてしまって漁師さんの車やトラックが入れなかったり、道の駅やコンビニエンスストアに無断駐車をしてしまったりということがありますね。
高階:そのほかにも、漁港で釣りをされている方が、竿を置き、糸をたらしたままにして、漁船に糸を取られて竿が破損し、漁業者さんともめたケースもありました。釣り場ではない危険な場所に無断で入ってしまう問題も起きています。漁業関係者や近隣住民の方にご迷惑をかける行為が問題になっていることが多いです。
── そういった問題が起きて、どんな影響が生じているのでしょうか?
櫻井:一番困るのは、迷惑行為と認識されて、釣り場がなくなってしまうことです。釣り人が入れないようロープを張られたりして、立ち入り禁止となってしまった場所もあります。防波堤や漁港を常時使われている漁師さんにとって、マナーの悪い釣り人は邪魔な存在になってしまいますから…。
── 日本釣用品工業会では、何か対策をされていますか?
櫻井:マナーをしっかり守っていただけるよう、看板やポスターで注意喚起を促しています。また、初心者の方向けに、魚のことや釣り人のマナーを知っていただけるよう冊子を作ったりもしています。
自然環境の持続こそ、釣りの未来そのもの
── 工業会では、環境保全への取り組みも積極的におこなっているそうですね。
高階:2013年4月から「LOVE BLUE事業」という、持続可能な釣り環境の構築に向けた活動をおこなっています。この事業は日本釣振興会との協働事業です。
── 具体的にはどのような活動なのでしょうか?
高階:「LOVE BLUE~地球の未来を~」をスローガンとして、まずは「環境保全」と「資源回復」を両軸に、プロダイバーさんや自治体と連携して、水中や水辺の清掃を実施しています。
釣り具だけでなく、さまざまなゴミがあることに驚かされます。清掃活動には全国で39自治体が参加、稼働日数は10年でトータル1000日を超えました。
また、海洋資源を増やす取り組みとして、全国でタイとヒラメを中心に放流事業も実施しています。最近は釣りの入り口として入りやすいワカサギの事業もはじめました。すでにワカサギ釣りを経営されている方、これからはじめたい方に孵化器を支援し、釣り場を盛り上げていきたいと思っています。
── 財源についてもお聞かせいただけますか?
高階:LOVE BLUE事業は、参加企業がすべての釣り関連製品に魚をモチーフにした「環境・美化マーク」を表示し、その売り上げの一部が活動に役立てられています。
そのマークがついた製品を買っていただいた釣り人のみなさん、メーカーのみなさんにも支えていただいている事業になります。日本中の釣りに関わる人たちが釣りを楽しむことで、マナーや環境がよくなっていき、持続可能な自然環境を築いていくことができればと考えています。
釣りは最高のコミュニケーションレジャー
──今後の活動などについてお聞かせください。
櫻井:やはり、今一番問題となっているのはマナーについてです。マナー向上を啓蒙し、社会的責任をしっかりと守れるような釣り人を増やすことを大事にしていきたいです。
高階:ファミリーで釣りを楽しむ方も増える中、「釣育(ちょういく)」という言葉も大切になってくると思います。“釣りの教育”という意味ですが、釣りは親子や仲間とのコミュニケーションが大切なレジャーのひとつ。前日から「何を釣りに行こうか?」「どんな仕掛けを使おうか?」という会話があったり、釣り場でも「何がつれた?」「どんな大きさだった?」などと話したりしますよね。帰ってからも「おいしいね」「楽しかったね」などと、とてもコミュニケーションが多いんです。
櫻井:そういったコミュニケーションの中で、ゴミは持ち帰る、環境を大切にするといったマナーを自然と学べるような機会が増えたらいいなと思います。
「楽しくて、おいしくて、サステナブル」。釣りがそんなレジャーとして広まっていくように、みなさんに協力いただけたらと思いますし、私たちもがんばります。
◇◇◇
今回のインタビューを通して伝わってきたのは、釣りを愛し、海や水辺の環境を守りたいという熱い想いだった。
コロナ禍をきっかけに、思いがけず釣りと出会って、新たに人生の楽しみを得た人もいるだろう。未経験者だが、挑戦してみようと思っている人もいるかもしれない。
マナーを守り、海や水辺の自然に配慮しながら「サステナブルなレジャー」として、釣りを楽しんでほしいと思う。
(撮影/津田聡 文/田代祐子 取材・編集/磯本美穂)