「大企業の社員は、何かに怯えている」日本IBMを辞めた男性が語る”楽しい仕事のやり方”

勝屋久さんがマクアケ非常勤役員に就任
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マクアケ

大手クラウドファンディング運営会社のマクアケは3月15日、勝屋久さんが非常勤役員に就いたと発表した。経営へのアドバイスのほか、地方企業との連携などを担う。

勝屋さんは「LOVEコネクター」という謎の肩書きを名乗っている。起業家、大学教授、新しいことに挑戦している会社員など、「この人は面白い!」と直感的に思った人同士をつなげる仕事だという。

最初は好きでやっていたのに、人脈づくりの力を買われて、企業の顧問やコンサルタントとして招かれるようになったため、そう名乗るようになった。それ以外にも、プロの画家としても活躍している。

もともと、日本IBMに25年間勤めていた勝屋さん。突然会社を辞めざるを得なかった経験が人生の転機となった。

48歳のとき「会社を辞めてくれ」

勝屋さんは上智大を卒業後、1985年に日本IBMに入社した。営業やマーケティングの仕事を経て、同社内で事業提携や企業の合併や買収(M&A)などを担う「IBM Venture Capital Group」の日本代表に就いた。

世の中に埋もれている有力ベンチャー企業などを探すため、IT起業家の経営者や投資家ら、十数年間で1万近くの人に会った。

「会社に来なくても良い」「好きなように働いていい」と言われるほど自由なサラリーマン。社内の幹部も支えてくれていた。だが、上司の人事異動などで、少しずつ社内の"後ろ盾"を失っていく。48歳の時だった2010年3月、「会社を辞めてくれ」と言われた。

「どうやって、生きていけば良いか、真っ暗になった」。

ベンチャーキャピタルの代表として培った人脈もあり、他の企業から、転職の誘いも受けたが、どれもしっくり来なかった。「自分は何のために仕事をしているのか、何に喜びを感じているのか、という悩みと初めて向き合った」という。

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マクアケ

人脈作りが「職業」になる時

悶々としていた時、知人のある企業経営者から言われた。「人と人をつなげるのが得意なんだから、プロフェショナル・コネクター(現LOVEコネクター)という新しい仕事を作ったらどうか」。

会社員時代から、異なる会社や業種の人をつなげるのが得意で、それによって本人同士たちが新しい企画を立ち上げたり、転職に繋がったりすることもあったが、まさか仕事になるとは思っていなかったそうだ。

そうした「人をつなげる力」のほか、たくさんの経営者と知り合うことで得たビジネス知識を買われ、今では企業の社外取締役や自治体のアドバイザーなどをつとめる。

小学校の頃から好きだった絵にも、独立後、本格的に挑戦し、個展を開いて作品を売れるようにもなった。

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勝屋久さんが書いたマクアケの事業構想。日本各地の企業や技術を結びつけることが目標だという
AOL

クラウドファンディング ビジネスへ

20代や30代のころは「地位やお金にこだわること」があったというが、独立してからは「とにかく気になる人」「心の底から面白いと思えること」だけに集中するようにしているという。マクアケからの非常勤役員の誘いを受けたのも、そんな理由だ。

クラウドファンディングは、ネット上で、作ってみたい商品や挑戦したい事業などの「アイデア」を公開し、共感した人からお金を集めてプロジェクトを実施するサービス。「マクアケ」は、2013年8月に開始。これまで3500件以上のプロジェクトを実施してきた。

サービスを活性化させるため、マクアケの担当者が、地方の工場や中小企業を回って眠っている技術を探したり、市民団体やNPOで面白い人を訪ねたりすることもある。日本でまだ知られていないクラウドファンディングのことを伝え、プロジェクトの相談に乗るためだ。

大企業のクラウドファンディングの活用も進む。大規模な生産に向かない実験的な製品や、若手社員が考える商品を試しに作って市場の反応を見る「テストマーケティング」として使うケースが多い。

例えば、シャープは自社の温度管理技術を使って、日本酒をマイナス温度で楽しむための保冷剤を開発し、埼玉県の石井酒造と一緒に、マクアケで資金調達。マイナス2度で飲める日本酒の開発と販売に成功した。

勝屋さんは大企業と中小企業を組み合わせたり、地方の職人を発掘したり、クラウドファンディングに適した新しいプロジェクトを発掘する仕事を任される予定だ。

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マクアケ

勝屋さんに話を聞いてみた。

マクアケは、85を超える金融機関とも提携しています。特に地方の金融機関は、地元の有力な中小企業や優秀な技術者のディープな情報を持っています。

そうしたところと連携し、地方で眠っている力を生かし、世界に通用する商品を世に出したいです。

僕自身も大企業にいたからわかるのですが、今の日本の大企業に入る社員は、まだまだ覚醒できると思うんです。「新しいことをやってはいけない」「やろうとしたら上司に邪魔をされるから面倒だ」と何かに怯えてるんです。

だから、後押しができたらな、と思っています。

クラウドファンディングなら、社内で新規事業をやるより簡単な面がある。「試しにやらせてください」と上司にも言いやすいじゃないですか。

大企業の人はマーケットの評価や社会への伝え方など、自分の周りのことを考える「他人軸」を基準に考えます。数字や評価を追い求めるんですね。

自分の中にある「本当にやりたいこと」や「心の底から実現したいこと」に注力する「自分軸」も大事。両方を兼ね備えている人は稀で、そういう人をクラウドファンディングを通して探したいし、そういう人が生まれるサービスにしていきたいですね。