長生きのための秘訣は、「座りがちな生活習慣をやめて、立ち上がる」ことのようです。スウェーデンの研究者らがこのほど、座ってばかりいる生活だと、加齢と共に短くなる染色体上の「テロメア」という部分がより短くなることを、最新の論文で報告しました。
年を取ると短くなる「テロメア」
テロメアは、染色体の一番端にあって染色体を保護する部分です。最大の特徴は、テロメアは細胞が分裂するたびに短くなり、一定の長さ以下になると細胞分裂そのものが止まってしまうこと。ヒトの体の細胞が分裂できる回数は50回程度と限界があるのですが、それを具体的に決めているのがテロメアなのです。ですからテロメアは生まれたばかりの赤ちゃんの時が一番長くて、加齢に伴って短くなっていきます。
これまでの数々の研究で、テロメアの長さと長寿の関係が示されてきました。より長いテロメアは、低い体重指数や健康的な食事、身体活動など、健康的なライフスタイルと関連があることが報告されています。特に興味深いのは、大規模調査によって、低強度や高強度の身体活動ではなく、中強度の適度な運動を行うほうが長いテロメアを保持できるとの結果が報告されたことです。喫煙やストレス、うつ病は、テロメア短縮との関連性が示されています。
だとすれば、テロメアを短くする有害事象の影響を、身体活動で和らげることができそうです。しかしながら、その仮説を実験的に検証する研究が行われてこなかったため、テロメアの長さに対する身体活動の効果は不明のままでした。
そこでスウェーデンにあるウプサラ大学の研究者らは、身体活動の程度や座ってばかりいるライフスタイルと、テロメアの長さの変化との関係を調査し、2009年と今回の2回にわたって報告しました。
運動で長さに差は出ず
2009年に報告された調査では、座ってばかりの生活を送っている体重過多かつ腹部肥満のある68歳の男女101人(女性57%)を、個別に指定された運動メニューに沿って身体活動を行うグループ(介入群)と、研究者らの介入を最小限にとどめるグループ(比較対照群)に無作為に分け、6カ月間、記録していきました。身体活動は、一週間当たりの運動時間数や一日当たりの歩数が測定され、座っている時間については「国際標準化身体活動質問紙環境尺度」(International Physical Activity Questionnaire:IPAQ)、通称アイパックの短縮版に基づくアンケートから計算されました。また、調査開始時と6カ月後に、無作為に選んだ49人(男性14人、女性35人)から採血して、血液細胞のテロメアの長さの変化を調べました。
Beneficial effects of individualized physical activity on prescription on body composition and cardiometabolic risk factors: results from a randomized controlled trial.
Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2009 Feb;16(1):80-4.
doi: 10.1097/HJR.0b013e32831e953a.
6カ月後、介入群では身体活動の程度が明らかに上がっていました。週当たりの運動時間は159分、一日当たり歩数は1663歩増加し、座っている時間は一日当たり2時間短くなりました。 また、介入群では体重や腹囲、体脂肪、血清コレステロール値、血糖値が、比較対照群と比較して明らかに減少しました。
血液細胞のテロメアの長さについては、6カ月を経て、個人ごとの変化が顕著でした。研究者らは、テロメアの長さは変化しやすい、動的なものと報告しています。ただし、介入群と比較対照群との間で、テロメアの長さの変化に差は認められませんでした。
座る時間が短いほどテロメアは長く
一口に身体活動と言っても、内容は非常に多岐にわたります。そこで研究者らは、同じ調査データを元に、一日あたりの歩数、低強度および中強度の運動を行う時間、座っている時間の変化とテロメアの長さの変化の関係について、改めて分析。最新の論文として報告しました。
Stand up for health--avoiding sedentary behavior might lengthen your telomeres: secondary outcomes from a physical activity RCT in older people.
Br J Sports. Online First, published on September 3, 2014.
doi:10.1136/bjsports-2013-093342.
その結果、介入群では一日当たりの歩数と運動に費やす時間が顕著に増加したにも関わらず、歩数とテロメアの長さの変化の間に特段の関連性は認められませんでした。むしろ、運動に費やす時間が長いほどテロメアが短くなるという関係性も見られました。一方、座っている時間は両群で減少し、座っている時間が短いほどテロメアは長くなるという関係性が見られました。今回の調査は対象者の人数が少なく、大規模調査でも同じ結論が導かれるか確かめる必要はありますが、高齢者では運動時間の増加よりも、座っている時間を減らすことがテロメアの長さを伸ばすのに重要、との示唆を得たことになります。
研究者らは、「多くの国で、いわゆる"運動"は以前より行われるようになってきたかもしれないが、実際のところ人々は長時間座っている。この時代にあっては低レベルの身体活動だけでなく、座りがちな生活こそ、重要かつ新たな健康への脅威だ」と、懸念を強めています。
30分に1回は席を立って
今回は、座ってばかりいる生活が長寿を阻む可能性が染色体レベルで示されましたが、疾患レベルでも調査が進んでいます。座りがちな人は身体活動や運動回数に関係なく、肥満やメタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患、総死亡率のリスクが大幅に増加することが、複数の大規模調査から示されています。調査の多くは成人全般を対象としており、ライフスタイルによる区別はされていませんので、足腰が弱って座りがちな高齢者ばかりでなくデスクワークに長時間費やす中高年にとっても、座りがちな生活が招くリスクは他人事ではありません。
ただ、これについては、ちょっとした心がけが意外と有効な対策になるかもしれません。長時間座っている人でも、短い休憩を入れて椅子を離れるようにしてみてください。一定時間だけ集中して運動をするより、ちょっとずつでいいから席を立って体を動かすほうが、座ってばかりいる生活の弊害を緩和するのに効果的という報告が複数あるのです。
具体的には、▽ウエスト周りの減少▽炎症性タンパク質の抑制▽食後の血糖値や血中脂質の低下▽インスリン感受性を改善して過剰分泌を抑制▽血栓をできにくくする、といった効果が見られたと言います。
今回の論文の共著者のヘレニウス博士も、医療・医学ニュースサイト「Medscape Medical News」で、「(集中的な運動をする・しないは別として)座って過ごす時間を分割することが重要です。30分ごとに1〜2分の休憩を取って椅子を離れるようにしてみてください」と述べています。
いかがでしょうか? いつも座ってばかりいる方、ときどき立ち上がってストレッチをしてくださいね。そうそう、私の周囲で言えば、デスクワークの親友が「standing desk」を購入しようとしています。でも、わざわざ買わなくても、机の上に小さな台を置いて高くすれば、立ったまま仕事ができます。今ある環境で、立つ機会を増やす工夫をしてみるといいかもしれませんね。
大西睦子
内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。
(2014年9月25日「ロバスト・ヘルス」より転載)