イギリスの統一地方選(5月5日投票)は6日に開票され、ロンドン市長選では野党・労働党から出馬したサディク・カーン氏(45)が、与党・保守党候補のザック・ゴールドスミス氏(41)を破りロンドン市長に当選した。カーン氏はイスラム教徒として、初のロンドン市長となった。
2008年から市長を務めた保守党のボリス・ジョンソン氏(51)の後任を選ぶ今回のロンドン市長選は、ゴールドスミス氏とカーン氏の一騎打ち。選挙戦は投票日が近づくにつれ加熱の一途を辿った。ゴールドスミス氏は、カーン氏がイスラム教の過激派との繋がりがあるのではないかと攻撃。これに対し労働党は、保守党が「イスラム恐怖症」キャンペーンを展開していると批判した。
選挙戦は最終的にカーン氏が優勢となり、8年間にわたる保守党のロンドン市政に終止符が打たれた。労働党のジェレミー・コービン党首(66)はカーン氏への祝福メッセージをツイートした。
おめでとうございます!皆に公正なロンドンづくりに向けて、共に働くのが待ちきれません
キャメロン保守党内閣の閣僚、サジド・ジャヴィド氏もカーン氏に祝辞を送った。
パキスタン系イギリス人バス運転手の息子から、同じ境遇で育ったあなたへ祝福を送ります。おめでとう、サディク・カーン
■サディク・カーン氏ってどんな人?
大学では法律を学び、その後、人権派弁護士として活躍した。2005年の総選挙で労働党から出馬し、下院議員に当選。ブラウン内閣では、運輸相を務めた。
現在は2人の娘を持つ父親。サッカー・プレミアリーグ、リヴァプールのファンとしても知られる。
■敗れた保守党員ら、早速、自党批判をはじめる
選挙戦では、カーン氏のライバル候補だったゴールドスミス氏の選挙戦略が原因で、保守党の支持率低下を招いたとみられる。
ゴールドスミス氏は5月1日付メール・オン・サンデー紙への寄稿文で、「我々はテロリストを友達だと思っている労働党に、偉大な都市を本当に引き渡すのか」とカーン氏を攻撃した。
これには、保守党内からも批判が出た。元保守党委員長で貴族院議員のサイーダ・ワルシ氏は「これは、私の知っているゴールドスミス氏ではない」などとツイートし、疑問を呈した。
選挙結果の発表直前にも、保守党内からはゴールドスミス氏の選挙手法を批判する声があった。ワルシ氏も「一部の人だけに向けた、ぞっとするようなロンドン市長選キャンペーンで、我々は名声、信頼を失った」とTwitterに投稿した。
ゴールドスミス氏の実姉も、彼の良い面が「反映されていない」キャンペーンだったとツイート。キャメロン首相の元戦略アドバイザーだったスティーブ・ヒルトン氏も、保守党に再び「汚れた政党」の汚名がついてしまったと、厳しく指摘した。
ロンドン議会の保守党議員らも、こぞって選挙戦批判を展開した。ロンドン議会の議員団を率いるアンドリュー・ボフ氏は、ゴールドスミス氏の選挙戦略に「本当に困って」いたと述べた。投票が締め切られた5日夜、ボフ氏はゴールドスミス氏に対し、カーン氏が過激派と繋がっていると攻撃したことが「“間違い”だった」と伝えたことを明かした。ゴールドスミス氏の発言によって、保守党がこれまでイスラム教徒票を取り込むために努力してきたものが、全て台無しとなったという。
ボフ氏はBBCのNewsnightのインタビューに対し、次のように答えた。
「(特定集団にしか理解できない)犬笛選挙戦略とはなりませんでした。犬笛であれば、人間には聞こえなかったはずですから。実際には、皆がそれを耳にしていたのです。
あの発言は、『保守的な宗教観を持つ人は信用ならない。そのような人と政策を共有するべきではないし、そんなことは論外だ』と言っているようなものでした。
(選挙活動で)具体的に本当に許せなかった点があります。それは、ゴールドスミス氏が、保守的な宗教観を持つ人はテロ賛成派だと攻撃したこと。ロンドンの多くのコミュニティにとって、全く賛同できないメッセージを送ってしまいました」
■カーン氏「“ドナルド・トランプ戦法”は成功しない」
選挙戦中、カーン氏はハフポストUK版に対し、ライバル候補のネガティブ・キャンペーンによって、少数民族が政治に参加しなくなると思うと語っていた。
「偉そうなことを言うつもりもないし、傲慢になっているわけでもないのですが、ただ、考えてみてほしいのです。他のイスラム教徒に『社会の中核に交わろう、市民社会に参加しよう』と人生を掛けて説いてきた多数派の穏健なイギリス人イスラム教徒が、もしゴールドスミス氏の言うような扱いを受けたら、どんな風に感じるだろうか、と。
既に、『そんな扱いを受けるのに、自分の子供たちや甥や姪に政治に参加するように言えると思うか?』との声が出ています。
ザック氏はもっと優れた人間のはずですし、実際に優れた人間です。だからこそ、ザック氏には落胆させられました」。
また、カーン氏は4月、ロンドンでは“ドナルド・トランプ戦法”は成功しないとも述べていた。
「コミュニティを分断して、お互いを敵視させるやり方は、ロンドンでは通用しないと思います。
私たちは、違いを受け入れるだけでなく、それを尊重しています。私の選挙活動には、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒、仏教徒、シク教徒、どの宗教団体にも所属しない人、そして様々な経済力、年齢、人種、性的嗜好を持つ人々が参加しました。ヨークシャー州の人々にも選挙活動を支援してもらいました。
私は、様々な人を受け入れています。それこそ、私が知るロンドンの姿です」。
ロンドンはイスラム教徒が人口の12%を占める。カーン氏の歴史的勝利は、ロンドンの「偉業」として讃えられた。
ヨーロッパ最大の都市はいま、イスラム教徒の市長を手に入れました。人種・宗教を問わず、あらゆるロンドン市民が尊重すべき価値と認める、多様性の勝利です。
想像してみてください。同じようなことがパリ、ローマ、そしてニューヨークで起こったとしたら…
■統一地方選、他の選挙は?
今回の統一地方選で、各地の他の選挙で散々たる結果に苦しんでいた労働党にとって、カーン氏の勝利は貴重なものとなった。スコットランド議会では、スコットランド国民党、保守党に継ぐ第三政党。ウェールズ州では1議席を失い、少数派政権として統治しなければならなくなる。イングランドでも議席を失った。
この記事はハフポストUK版に掲載されたものを翻訳・編集しました。
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