百田尚樹氏の発言を巡り、沖縄の普天間基地の問題が全国で再びクローズアップされた。
それでは、普天間基地のお膝元で暮らす人々は、どんな思いを抱えているのだろう。現地に行くと、拳を突き上げて反対を叫ぶ人たちだけでもない。様々な割り切れない見方があることがわかる。
その一人として、宜野湾市生まれ、宜野湾市育ちの波平(なみひら)雄太さん(35)に語ってもらった。ミュージシャンの傍ら、基地の近くで飲食店の運営に関わる波平さんは、基地だけでない宜野湾の姿を知ってもらおうと、2010年に出版された「Futenma 360゜」という書籍の編集にも携わった。
――生まれも育ちも宜野湾の波平さんにとって、基地とはどんな存在なんですか?
街のど真ん中に基地があるのが当たり前でした。僕の住んでいる側から見ると、普天間基地の向こう側にビーチがあるんですが、同じ宜野湾市だと思っていなかった。
僕らにとって生活している場、日常がここにある。基地はいやだなあ、と思いつつ、軍属として働いている友人もいる。僕は今、飲食店の運営に携わっていますけど、米兵も家族もお客さんとして来ますし、飲んで親しくなったら「いいやつだ」と思う。ここには僕らが日々、昼は仕事して、夜は飲みに行く大切な僕の故郷がある。基地「だけ」の町みたいに言われても、なんとなく嫌だなあと思います。
だから簡単に「基地反対」と声を大にして叫びにくい事情があります。基地で仕事をもらっている親戚もいる。一方で母方の祖父は戦争で手をなくしている。一概に言えないんですよ。割り切れないものを感じてますよね。みんなそうじゃないですか。
――百田尚樹さんは、普天間基地のことについても、いろいろ言っていましたが。
失笑というか、怒るという以前に、デマを振りまいて、どうしようもないなと言う感じですね。。何もなかったところに金目当てで来たんだろう、なんて。僕ら、もともと住んでましたしね。
――基地が間近にある生活は、怖い?
正直なところ、怖いとは思っていないです。ヘリや飛行機が飛べば、振動でガラスが揺れます。でも慣れている。ああ、来たな、という感じ。爆音って、いつもいいところに飛んでくるんですよね。電話で大事な話をしているときとか、テレビドラマのクライマックスとか。
――慣れてるからいいだろう、という話でもないですよね。
2004年に、普天間基地に隣接する沖縄国際大学にヘリが墜落したとき、近くの書店でアルバイトしていたんです。弁当を買いに行こうとしたら、4車線の道がすべて封鎖されて米軍と警察の専用道路みたいになっていました。「図書館がパニックになってるよ」という情報がどんどん電話やメールで集まってきた。それまで当たり前に基地があって、ある意味、慣れてしまっていた。こういうことが起きるなんて想像も及ばなかった。
沖縄国際大学構内に墜落し、炎上した米軍ヘリコプターの残骸(ざんがい)(左下)(沖縄県宜野湾市) 撮影日:2004年08月13日
でも、あんなことがあっても、時が経つと慣れてくる。オスプレイも「いやだなあ」と思っていたのに、配備されてしまうと、通常の軍用ヘリとは違う重低音が当たり前になる。ああ、慣らされていってるんだ。何ていうんでしょうね、この感覚。それが怖くもあります。
じゃあ引っ越せと言われても、簡単に引っ越せるわけでもない。ここで暮らしていかなきゃいけない。
――基地をどうすればいいと思いますか。
普天間を返還してもらって、負の世界遺産として保存してほしい。辺野古はいらない。
軍用地だったところが返還されて、再開発してショッピングモールになるケースが最近多くて、基地反対派の人たちは「おもろまち」など、再開発の成功例を宣伝していますが、反対派も賛成派も、経済だけで語っているのが悲しい。それよりも最近人気のある外人住宅(アメリカ兵用に基地内や周辺に建てられた平屋のコンクリート住宅)を滞在型の別荘にして、敷地内に自然を残してほしい。基地が自然を守っている側面もあると思うから。
――どこへ持っていけば…
それは僕らの問題じゃない。こう言うと「国防をどうする」とか言われるんでしょうけど、理不尽なこと言ってるのはそっちなんだから、理不尽の解決策を僕らに押しつけないでほしいです。
普天間が危険だから辺野古を埋め立てるという。じゃあ、普天間よりはいいかな、と判断する人もいますよね。その質問がおかしいと思うんです。
――解決には、時間がかかりそうですね。
時間がかかってることも問題じゃないですか。「こんなに時間かかるなら辺野古でいい」と思っちゃう人も実際出てきてるし。
――いっそのこと、独立してしまえ、とか思いませんか?
うーん…、ピンとこないですね。そう考える人がいるのはわからないでもない。でも振り回されて、極端な選択肢に落とし込められるんじゃないかって気もします。
――アイデンティティーは、どこですか。
よくきかれるけど、あんまりなくて、あえて言えば、沖縄ですよね。民族でなくて、生まれた島ってことで。僕はオリンピックみたいな国別対抗の試合もあまり興味ないので。友人には沖縄に強くこだわりを持っている人もいるから、ときどき口論になりますけど。
――本土の人に知ってほしいことは。
現状を知ってほしい。自分のことの一つとして興味を持ってほしい。沖縄の問題でなく、日本とアメリカの問題。「また沖縄が何か言ってるよ」じゃなくて、お互いの問題だよ、と思ってほしいですね。
現状は、じゃあどう解決するかというところまで行ってないという感触ですよね。土俵が違っていて話が噛み合わない。まずそこが整わないと話もできない。意識してほしいと思います。
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