中国:ノーベル賞受賞者の妻、「失踪」懸念

「劉霞氏は夫の葬儀後、強制失踪状態にあり、健康と安全が懸念される。」

中国政府は劉暁波氏支援者への嫌がらせや拘束 止めるべき

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Liu Xia is shown holding photos of her deceased husband, Nobel Peace Prize winner Liu Xiaobo. © 2013 PEN American Center

(ニューヨーク)― 中国政府当局は、先日亡くなったノーベル平和賞受賞者・劉暁波氏の妻、劉霞氏を即時無条件釈放すべきと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。中国政府は劉暁波氏の死を悼む支援者への嫌がらせや拘束も停止すべきだ。

2017年7月15日、肝臓がんの合併症で7月13日に亡くなった劉暁波氏の葬儀が行われた。この日以降、政府当局は劉霞氏の所在を明かしておらず、強制失踪の恐れがある。

「劉霞氏は、中国政府が許容できない信条の持ち主の関係者というだけの理由で、長年国家に囚われている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国部長ソフィー・リチャードソンは述べた。「劉霞氏は夫の葬儀後、強制失踪状態にあり、健康と安全が懸念される。」

劉霞氏の姿が最後に認められたのは、7月15日に政府が公開した写真だ。劉霞氏が親族数人とともに中国東北部・大連市付近の太平洋側の海岸で、劉暁波氏の遺灰を収めた壺から散骨しているところが写されていた。

以来、北京の友人や親族は劉霞氏と直接連絡を取ることができない。海外と香港の報道によれば、当局は7月19日に劉霞氏を中国南西部・雲南省での「休暇」に強制的に連れ出している。

劉霞氏(56)は北京在住の詩人でアーティスト、写真家。詩集は複数出版されているほか、フランスやイタリア、米国などで写真展が開催されている。劉霞氏は劉暁波氏と北京の文芸サークルで知り合い、劉暁波氏が労働教養所に収容された1996年に結婚した。

2008年12月に劉暁波氏が国家政権転覆罪容疑で拘束されると、劉霞氏は自宅軟禁され、近しい家族や友人以外との接触をほぼ完全に遮断された。

2017年6月に劉暁波氏が入院してからは、家族や友人、マスコミと自由に会話することを禁じられていた。鬱状態がひどく、心疾患を抱えていると伝えられる。

強制失踪とは 、国の機関または国の許可などを得て行動する個人もしくは集団による逮捕や拘禁のことであり、その自由のはく奪を認めず、または失踪者の消息もしくは所在を隠蔽することを伴うものであると、国際法で明確に定義されている。

強制失踪は失踪者の虐待の危険を高め、消息についての情報を求める家族や友人に耐えがたい苦痛を引き起こすものである。

劉暁波氏が亡くなってから、中国政府当局は支援者による追悼の動きをことごとく封じている。7月18日、大連市在住の活動家・姜建軍氏と王承剛氏が、劉暁波氏宛のメッセージ入りの瓶を散骨場所近くの海岸で投げ入れたとして、警察に拘束された。

姜氏にはその後10日間の行政拘留がついた。姜氏がすでに釈放されたかは現時点では不明だ。北京在住の人権弁護士・丁家喜氏は、劉暁波氏が入院していた中国医科大学第一附属病院前で抗議活動を行ったとして、7月13日~15日まで瀋陽警察署に拘束された。

北京警察当局は活動家の胡佳氏を6月27日から自宅軟禁とし、同病院への訪問や追悼活動への参加を妨害してきた。

Liu Xiaobo, one of the most outspoken critics of the Chinese government, was sentenced to 11 years in prison in 2009 for his involvement with Charter '08, a manifesto calling for political reforms in China. Liu was awarded the Nobel Peace Prize in 2010.

初七日にあたる7月19日、劉暁波氏の支援者は香港、メルボルン、ロンドン、サンフランシスコなどで追悼行事を行った。中国警察は全土で活動家に電話をかけたり、出頭を命じたり、自宅を訪問するなどして、こうした行事に参加しないよう警告した。

嫌がらせの被害者は、広州では活動家の呉楊偉(Wu Yangwei、野渡(Ye Du)としても知られる)氏、作家の黎学文(Li Xuewen)氏、人権弁護士の黄思敏(Huang Simin)氏、杭州では作家の王永智(Wang Yongzhi、王五四(Wang Wusi)としても知られる)氏、温克堅(Wen Kejian)氏、上海では活動家の蒋亶文(Jiang Danwen)氏、上海に近い無錫では活動家の華春輝(Hua Chunhui)氏らの各氏である。

劉暁波氏の死後、中国のネット検閲体制には新たな動きがあったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。中国版Twitterの微博(ウェイボー)では「RIP」という表現や、ロウソクの絵文字が禁止された。

毎日7億人が利用するソーシャルメディアのWeChatでは、禁止される漢字の組み合わせ数が急増し、劉暁波氏に関連する画像が一対一のクローズドなチャット上でも検閲されたと、カナダの団体「シチズン・ラボ」の調査が明らかにした。

7月13日に劉暁波氏の死亡が発表されてから、瀋陽当局は劉霞氏、劉暁波氏の親族数人、その他数人(おそらく国の公安職員)だけに参加を認める簡素な葬儀を行った。

その後「海葬」が行われたが、こうしたやり方を劉暁波氏と劉霞氏が望んだことを示すものは一切なかった。当局はこうした制限を家族にも適用し、劉暁波氏の支持者の巡礼地になりかねない墓石の建立を禁じたと見られる。

劉暁波氏と長年疎遠だった兄の劉暁光氏は、後日に政府主催の記者会見に出席し、劉暁波氏の治療と葬儀の手配について共産党に謝意を示した。

「中国当局は、劉暁波氏の記憶も、氏が体現していたものも全て根こそぎにできたと思っているかもしれない」と、前出のリチャードソン部長は述べた。

「だが劉霞氏に苦痛を与え、友人たちの嫌がらせを行い、支持者を沈黙させようとしているなかでは、政府のこうしたやり方こそが人びとを奮い立たせ、劉暁波氏の理念へのいっそうの支持を生むのである。」

(2017年7月21日「Human Rights Watch」より転載)