時代の変化を読み解くために、世論調査はじめ様々な社会調査が行われている。
国勢調査のように悉皆(全部)調査もあるが、時間とコストがかかることから、多くの社会調査はサンプル調査になる。近年では個人情報保護の観点から、住民基本台帳などの各種名簿の使用が制限されるため、標本抽出に大きな影響が出ることがある。
また、ICTの発達からインターネットを活用したWEB調査も普及しているが、抽出方法によって標本に大きな歪がないか注意が必要だ。
年末の風物詩と言えば、大晦日に家族揃って「NHK紅白歌合戦」を観るのが定番だったが、昨年末の視聴率(関東地区における午後9時から同11時45分の第2部)は39.2%と、2部制になった1989年以降で最低だったそうだ。
「紅白歌合戦」は、60年代には80%を超える視聴率を記録したこともあり、まさに国民的人気番組だったと言っても過言ではない。
しかし、ライフスタイルが多様化し、テレビの視聴状況は大きく変化している。テレビも1世帯に複数台あったり、パソコンや録画で観る人が増えたりするなど視聴率が国民の生活実態を正確に反映しているとは言い難いのではないか。
年末年始の過ごし方が大きく変わる中で、なおも「紅白歌合戦」の視聴率が4割近いことを文字通り受け止めてよいものだろうか。
一方、内閣支持率を調べる世論調査も頻繁に行われるが、最近では電話によるRDD(Random Digit Dialing)という方式がよく採用されている。
この方式では、固定電話がある世帯を対象とするために、固定電話を持たない世帯や在宅時間が短い世帯が多い若者の声は反映されにくい。逆にインターネットを使った調査では、高齢層の利用率が低く、若年層の声に偏る可能性もある(*1)。
昨年6月に改正公職選挙法が成立し、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ、今年の夏の参議院選挙から適用される。その結果、新たに18歳と19歳の約240万人の有権者が誕生する。
少子高齢化の進展により「シルバー民主主義」がもたらす諸問題が懸念される今日、若者の声が適切に反映された世論調査かどうかをよく見極める必要があるだろう。
人は年を重ねると変化に対応することが億劫になり、どうしても保守的になりがちだ。過去の成功体験が邪魔をし、現状を変えることに臆病になることもある。
しかし、激動の21世紀を生き抜くためには、時代の変化を柔軟に受け入れることが必要だ。様々な社会調査を活用し、的確に"時代の変化"を読み解くリテラシィの涵養が極めて重要になっている。
(*1) 総務省「平成26年通信利用動向調査」の年齢階層別インターネット利用率は、30代~50代では90%以上だが、60代は75.2%、70代は50.2%、80歳以上は21.2%となっている。また、固定電話の保有率は、60代以上で90%を超えるが、20代は11.9%、30代は50.0%、40代は81.1%、50代は88.0%となっている。
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(2016年1月12日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員