2015年7月28日、ソーシャルメディアにこんなニュースが流れ始めました。
「ジンバブウェで愛されていたライオンが死ぬ」
二日後の7月30日、このライオンをボウガンで狙い撃ち、仕留めきれず傷を負わせ、40時間もこのライオンを追いかけた挙句、銃殺し、首を跳ね、皮をはぎ、頭以外の体を放置した人物の名前などが確認され、世界から彼への非難が怒涛のごとく巻き上がりました。
米国ミネソタの開業歯科医師、Dr. Walter Palmer は、"スポーツハンティング"の大愛好家で、これまでも多くの野生動物を殺し、その写真を得意げに発表している人物です。
FACEBOOKでは、時折、こういったTrophy Hunterと呼ばれる人たちの写真が回ってきて、そのたびに私は自分の血が逆上するのを抑えることができないでいました。
抵抗のできない動物たちを銃や弓で襲う、という人間の行動をどうやって理解したらいいのでしょう。
このTrophy Huntingとは食料を得るためでも、多過ぎる個体数を職業的に減少させるわけでもない、ただただ、動物たちの命を"スポーツ"として奪うことを目的としているのです。
この Cecil The Lion の事件が公になる数日前、Blood Lions というドキュメンタリーを見ました。これは、こういったTrophy Huntingを支えるために、ライオンを人工的に繁殖させ、野生の環境とはほど遠い劣悪な環境で育てている現実のレポートでした。
このドキュメンタリーによると、2015年7月現在、南アでは約220以上のこういったPredator Farmが存在し、最低でも7000頭が、Trophy Hunterたちに至近距離から殺されるために、またその"骨"をアジアの国々に提供するためだけに存在しているのです。
現在、アフリカの野生に存在するライオンは2万5千頭しかいません。ここ数十年で半分以上がいなくなりました。だからこそ、人間が不自然に繁殖させている数がその三分の一に迫っている、という不自然さを非常に危険なもの、と思う人間は私だけではないでしょう。
このドキュメンタリーの中で、ライオンたちを繁殖している農家がこんな主張をしています。
「これは私たちのビジネスよ!何が悪いの?」
この主張に茫然としてしまいました。
確かに、私は菜食主義者ではないので、飼育されたポークやらチキンやらを食べます。顔も見たこともない他人にこれらの動物の命を奪ってもらい、家族の食卓に上ってもらうのです。
狭い、野生の環境とはけた違いの庭のような環境で飼育されたライオンたちは、こういった農家からTrophy Huntingをする別の農園に売られ、その農園の運営するホームページで値段をつけられて、自分が銃殺される日を待つのです。
ハンティングするためのそのお値段は一頭につき、200万円から700万円ほど。立派なオスであれば値段は跳ね上がります。前出のDr. Walter PalmerもCecilをボウガンで撃つために日本円にして700万円以上のお金を支払っていたそうです。
ただ、飼育されたライオンたちは、まったく"野生"の動物ではなくなっているのです。惨酷なことに、彼らが銃殺される日が近づくと、飼育者たちは、ライオンにあまり餌を与えず囲いのある地域に放します。
Trophy Hunterたちは、車に乗ってライオンに近づきます。人間の気配を察すると、人間によって餌を与え続けられた彼らは、自分たちに餌を与えに人間が来てくれた、と誤解して、その車に近寄ってくるのです。
Trophy Hunterたちはほとんどが狩猟のスキルもない素人の、ただただ彼らの殺戮が目的の個人ですので、こうやって近くに寄ってきたライオンをそこで歓喜しながら銃殺するのです。
これがどうしてスポーツと呼べるのでしょうか。
私はまだ自分が動物を殺して食することと、このTrophy Huntingとの違いを明確に文章にできません。まだまだ答えを見出していません。
ただ、今、世界的にTrophy Huntingへの反対のうねりが大きくなっている時期に、ここに文章にしておくことで、一人でも多くの人にこういう現実があることを知ってもらえるのではないか、と考えたのです。
このTrophy Huntingには、いま、別の疑惑が浮き上がっています。ドキュメンタリーの中でも触れていますが、こういった農家が、"環境保護"のため、と偽り、先進国の大学生などを呼び込み、ライオンの赤ちゃんの世話をさせたり、一緒に遊んだりさせて、多額の費用をむさぼっているのです。
月額にして彼らが払うのは約30万円です。この金額は南アの公立学校の教師の三か月分のお給料です。どれだけこの金額が大きいか理解していただけるでしょうか。
環境保護とライオン人工的繁殖はまったく別のものです。どうぞ、日本の皆さんも騙されませんように。
このドキュメンタリーの中で、非常に興味深いコメントがありました。
「残念ながら、こういったライオン繁殖農場を経営しているのは、南アの白人農家です。アパルトヘイトで、白人以外には人権さえ与えなくても当然と思っていた人たちなのです。人間にさえ最低限の権利を与えることを考えなかった人たちが、動物に権利がある、などと考えること自体難しいのかもしれないのです。これはもしかしたら、南アのアパルトヘイトのもう一つの負の遺産かもしれない」
私が見た、このBlood Lionsの上映会はダーバン国際映画祭の上映映画の一つのだったのですが、幸いにもこのFilmの作成に携わっていたプロデューサーなどもその場にいて質問に答えてくれました。
忘れられないやり取りがありました。
「Trophy Huntingに反対する側は金銭的な恩恵がゼロなんです。そして、Trophy Huntingに賛成する側は大儲けをしているのです」
Cecilを助けられなかった私たち。でも、いま、世界中の動物を愛する人たちがソーシャルメディアなどを介して、Dr. Walter Palmerに対する非難を強めています。彼の経営する歯科クリニックはすでに閉まったようですし、ジンバブウェ政府も彼が雇ったローカルガイドを拘束しました。いくつかのニュースによると、ジンバブウェ政府はDr. Walter Palmerの逮捕も目指しているようです。
この動きが本格化して、Trophy Huntingが何らかの形で世界中から禁止されることを願ってやみません。
(2015年7月30日「空の続きはアフリカ」より転載)