LGBT、どう受け入れれば...企業の採用担当者向けセミナーで「ルール明確化を」

企業として、LGBTをどう受け入れたらいいか分からない…。そんな企業の人事担当者を対象にした「LGBT人材採用セミナー」が19日、東京・恵比寿で開かれた。
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Taichiro Yoshino
企業の人事担当者を対象にしたLGBT人材採用セミナーで話す如月音流さん=19日、東京・恵比寿

あなたの職場に、性的少数者のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)はいるだろうか。そしてその人たちにとって働きやすい職場だろうか。

国籍や人種、性別や性的指向の幅広さを認める「ダイバーシティー」(多様性)が言われて久しいが、企業として、LGBTをどう受け入れたらいいか分からない…。そんな企業の人事担当者を対象にした「LGBT人材採用セミナー」が12月19日、東京・恵比寿で開かれた。

LGBTに特化した人材紹介業を手がけるワイルドカード株式会社(東京)の主催。WEBシステム会社を経営し「オネエタレント」としても活動するニューハーフ(トランスジェンダー)の如月音流(きさらぎ・ねる)さんが、「面接や昇進、昇給で不利になるのではないか」と心配でカミングアウトできないLGBTが多いとし「企業側からLGBTの雇用のルールを明確に発信してほしい」と訴えた。

また、Googleダイバーシティビジネスパートナーの山地由里さんが、多国籍企業としてダイバーシティー(多様性)をどう支援しているのかを解説したほか、現場社員が集まってLGBTを支援する社内グループ「Gayglers」の取り組みを、同社の高沢数樹さんが説明した。

参加した企業の担当者からは「面接でカミングアウトしやすい環境はどうすればいいのか」「何から取り組めばいいのか」など、率直な疑問が寄せられた。

東洋経済新報社の「第9回CSR調査」によると、LGBTの権利尊重や差別禁止などの基本方針を定めるなど、何らかの社内的な取り組みを「行っている」とした企業は、回答した604社のうち13.2%。「今後予定」とした企業は4.8%にとどまる

「あり」と回答した114社のうち、資生堂グループは行動基準の中で「あらゆる差別や虐待、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントなどのモラルハラスメントを行わない取引先を支持します」との項目に、人種や性別などと並んで「性的指向」を入れている。また、野村グループも倫理規程の「人権の尊重」項目で、以下のように定めている。「国籍、人種、民族、性別、年齢、宗教、信条、社会的身分、性的指向、性同一性、障害の有無等を理由とする、一切の差別やハラスメント(いやがらせ)を行わないものとする」と定めている

セミナーの発言概要は以下の通り。

■如月さん「LGBTの特性を生かせる環境があれば、能力を発揮できる人は多い」

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如月音流さん

如月:LGBTの人たちは情報感度が高いと言われることがあります。おしゃれな人が多い、流行ものに詳しい、コミュニケーションスキルが高い。一説によると、LGBTは結婚しないし子供をつくらないので、可処分所得が高いと言えます。自分のための投資がたくさんできたり、芸術に触れる機会があったり、ファッションやコミュニケーションを十分楽しめる余裕がある。仕事の面でも、デザイン、ファッション、マーケティングでは有利な能力があるかもしれません。有名なところではイタリアのファッションブランド、ドルチェ&ガッバーナのドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナがいます。最近では、アップルのティム・クックさんがゲイであることを公言しています。

このような話をすると「LGBTは優れている」と聞こえるかもしれませんが、私たちLGBTは多様性の中で一つの側面として捉えています。ある側面から捉えた場合、我々LGBTは能力を発揮できる場所があるかもしれませんが、逆に不利益に働く場面もあると思っています。平均的に何でもこなせる人間もいれば、ある一点だけ特出している人もいる。決してLGBTだけが特別なのではありません。LGBTの特性を理解して頂いて、これを生かせる仕事や環境がもしあれば、能力を発揮できる人は多いのではないかと考えています。

LGBTの人数についてはいろいろ言われていますが、カミングアウトできる状態にある人は少ないのではないかと考えています。カミングアウトできない原因は、たとえば就職や転職の面接、自身の昇進や昇給で問題が発生するのではないかという心配があるからです。同僚の方が理解を示してくれるかどうかも心配です。

トランスジェンダーの場合は、カミングアウトしないで就職するのがそもそも難しいのが現状です。LGBであれば、言わなければ外見上では分かりませんが、T(トランスジェンダー)は外見上で見て分かることもありますので、就職のタイミングでもはや隠しきれない。さらに隠し通すことがストレスになることもありますので、隠すこと自体避けたいと思っている方も多いです。

面接時にカミングアウトしたら受からないだろうという企業の場合、チャンスを自分から諦めてしまうことがあります。特にトランスジェンダーの場合は、カミングアウトなしで面接を通過することは非常に難しい。カミングアウトできる環境にある企業の面接をあえて選んでいかなければいけない現状があります。

雇用時に検討しなくてはならないことは、企業側からLGBTへの理解を発信しているかどうか。企業側からLGBTの雇用のルールが明確に発信されていなければならないと考えています。たとえば雇用に関してLGBTであることは不利益にならないと明言している企業、もしくは昇任や昇進に影響しない企業であれば働きやすい環境であると言えます。本人にストレスのない環境であると発信しているだけでも当事者としてはハードルが下がり、就職しやすくなると考えています。

トランスジェンダーが男女どちらのトイレや更衣室を使用するのか。これは常に難しい問題で、トランスジェンダーは明日望めばその性に見た目がすぐ変わるものではなく、移り変わる過程にある方もたくさんいます。私の例だと、初めはヒゲが生えていて、脱毛、整形して髪の毛を伸ばすのに1~2年かかるんですけど、その間はどちらの性で生きていけばいいのか、どちらの性で見られるのか。会社のルールとして、どちらのトイレが使えるのかという規定、もしくは多目的トイレや専用のトイレが必要かと思います。

LGBとTが違うとか、すぐに女性らしい体になれるわけではないとか、そういう人たちがそもそもいるということなど、当事者だけでなく社員にも共有されているかも大事です。当事者にとって望ましくない呼び方もたくさんあります。オカマ、ホモ、レズ、オナベ、女装…。「私はこれは大丈夫だけどこれを言われたら傷つく」だったり、「当事者間同士なら使って良いけど、そうでない人はだめ」と思う人がいたり。そもそも本人の属性を形容するような言葉を使わない方が無難という気もします。

私は以前、LGBTしか雇わない、取締役は全員ニューハーフという会社を経営していたことがあります。2006年ごろ、当時はまだLGBTに偏見がかなりあった時代です。その後「オネエ」という言葉が一般的になり、テレビでもたくさん見かけるようになり、オネエが一般社会に進出しました。当時はゲイやレズは夜の仕事をしているというイメージが強く、LGBTと言えば新宿2丁目方面で働く人たちのことを指すイメージがありましたが、最近はどんどん昼間に働ける環境もつくられてきています。10~15人の小さな会社でしたけど、全員LGBTでそろえてみますと、単純に4種類では分けられない。髪の毛の長い男性、背の高い女性、昔男性だった女性、女性を愛する女性…その中にもたくさんの多様性があり、LGBTでくくる必要さえないと思えるぐらい多様性を感じました。本来、LGBTという言葉自体も、多様性の中の一側面ではないかと考えています。

■Google「多様な人材がいてこそイノベーションが生まれる」

山地由里:よく「Googleさん、ダイバーシティーを促進するためにどういった取り組みをしていますか」と聞かれますが、ややスタンスが違います。初めにダイバーシティーありきではありません。ダイバーシティーがあって、多様な人材がいてこそイノベーションが生まれる。国籍、性別、障害の有無、LGBT、文化の違い、それから内向的な性格、外交的な性格。同じ日本人でも一人として同じ人はいませんよね。ことあるごとに「ダイバーシティーこそが未来」と、社員だけでなく外部にも常に語りかけています。

面接では個人的なことを聞かず、とにかく仕事のことにフォーカスします。たとえば出身地も言語も、仕事が出来る限りにおいてはまったく関係ありません。

LGBTに関して言うと、性への考え方、あり方は仕事に関係ないという人もいるかと思いますが、その人がすべてを出し切る環境を徹底的にサポートします。逆に言うと、制度がいくら整っていても、自分らしさを出せない環境は正しくない。働きやすい職場作りを考えなくてはいけない。あまり特別なことではなく、社員へのトレーニングの中で「気がつかない偏見に気がつこう」と、LGBTに限らず差別のない、誰でも働きやすい環境を目指します。マネジャー層へのトレーニングではケーススタディーベースで、たとえばLGBTの人がカミングアウトしようか迷っている状況で、マネジャーとしてどうサポートできるかなどを、正解はありませんが意見を出し合ってディスカッションします。

男性、女性で更衣室を分けると、どちらを使えばいいのか迷いが出るようではよくない。ジェンダーニュートラル更衣室を用意したりしますが、すべてをカバーできる制度はないと思っています。人によってニーズが違うので、マネジャーに簡単に相談できる環境を常につくろうとしています。それから、ダイバーシティーを語るときにありがちなのが「また人事だけでやってるよ」と受け止められること。現場レベルで自分にも関係あることと認識してもらうために、役員レベルが積極的にサポートする態勢もつくっています。

制度をいくら整えても、一般社員が「トイレはどちらを使えばいいの?」と迷うとか「あの人が女性トイレ使ってるってどうなの?」ということを平気で言うような人がいる環境では、その人らしさを発揮できるとは到底思えません。ですので、制度の有無ではなく、誰にとっても働きやすい職場をどうつくったらいいのか、人事、一般社員も含めて真剣に取り組んでいます。

次に社員がボトムアップでどのようにダイバーシティー、特にLGBTについて取り組んでいるのか説明します。

高沢数樹:弊社では研修や新入社員トレーニングで、ある程度どうすればいいのかトップダウンでお話ししている部分もありますが、それ以外に現場で何かの配慮が必要な方が入ってこられたとき、ボトムアップの活動を担っている団体です。

私たちは、有志グループとして社内に発足した「Gayglers-jp」です。グローバルでおそらく数十のオフィスにあります。LGBTに限らず、職場の環境を考えるにおいて、特定の関心を持って集まったグループを、ERG(Employee Resource Group)と呼んでいます。身体障害者のERG、働く女性、お子さんをお持ちの方々などがあります。Gaylgersは、LGBTに関心を持っているグループとして、アメリカで最初に発足しました。アメリカの活動を聞きつけた現場の社員が、ERGをそれぞれのオフィスで立ち上げて現在に至ります。

グローバルである程度、横の連携も取っていますが、才能あるLGBTが弊社に魅力を感じて入社していただけるような環境をつくっていくこと。すでにいる社内の人材にもオープンで受容性のある、魅力ある職場環境を維持すること、それからLGBTコミュニティーの中でも、Googleが職場として魅力的だと浸透していくといいなと考えています。ただ公平な職場環境をつくるだけでなく、才能のあるLGBTがGoogleに入ってくれるように、会社に貢献する活動の一つです。LGBTに興味がある他の社員も賛同者として参加してくれています。

直近ですと今年の夏、東京レインボープライドに協賛してブースを出したりしています。社外活動は、10月にも大阪のプライドパレードにみんなで参加してきました。去年は札幌にも参加しております。ブースを出して、ポジティブなコメントをフリップボードに書いてもらって記念写真を撮ってGoogle+にアップして、多様性をセレブレートしています。社内でこうしたイベントのボランティアを募集して、それを通じた理解の向上を狙ってもいます。

社内で受容性の高い環境を作るために、プライドパレードへの協賛や、社内イベントへの企画をしています。直近ですと、社内で他社のLGBTと弊社の当事者やいろいろな人たちを集めてディスカッションをしました。また社内活動として、困ったこと、気になったことを抱えた社員へのサポートをもっとやろうと思っています。人事にダイバーシティー担当がいますので、困ったことがあったら相談できますが、人事に話す前の窓口として機能していけたらいいと思っています。

LGBTは普通にオフィスにいるし「こういうことが嫌だと思っている」ということを現場の声として伝えていくことが重要だと感じています。同じ社員として同じオフィスで働く者として、みんなが気持ちよく働ける環境をつくっていこうと、ボトムアップの施策としてやっています。

【質疑応答】

Q やったことがない企業は、何から取り組めばいいのか。

A(山地)LGBTにとらわれず、社長が社員にメッセージを送るケースはどこにもあると思う。大事なことは「とってつけ」感がないこと。ある日突然、社長から「LGBTのコミュニティーグループをサポートしましょう」というメッセージが送られると、逆に「何があったんだ」とざわめきが起こるし、引いてしまう人もたくさんいる。LGBTだけが特別なのでなく、ダイバーシティーの一側面です。日頃からのコミュニケーションがとても大事です。たとえばプライドパレードに参加したら「こういうイベントを協賛しています」「こういうことに気づきました」という内容を発信するのも大事ですし、LGBTだけでなく女性や外国人など、いろいろなダイバーシティーを日頃から広く発信して、できるところから始めていくことが大事だと思います。少しずつでもやっていることの認知を広げていくことが大事。トレーニングでもダイバーシティーに関することを少しずつ入れるなど、日頃のコミュニケーションに色を加えていくところから始めればいいのではないかと思います。

Q 私たちの企業はまだ積極的にLGBTの採用をうたっている会社ではないが、面接や入社の過程で「実は」と語って頂くことが多々ある。本人もカミングアウトした方が気持ちよく働けるだろうし、私たちも知っておいた方がいいと思うが、面接などでカミングアウトしやすい雰囲気や環境はどうすればいいのか。

A(如月) 面接に来られる段階で、ある程度この会社はLGBTに対してオープンな環境にあるということを、その場で伝えるより、会社のCSRなどで発言していることがまず重要かと思います。面接で「いいですよ、カミングアウトしても」という態勢を作るのではなく、知識を持っていてオープンだということを日々伝えて頂いていれば、応募者も選ぶ対象に入りやすくなると思います。

Q 弊社にもそういう方がいる。グーグルさんのような、日頃から全社員への啓蒙などは特に意識して取り組んでいない。その中で社員の方にカミングアウトさせるべきなのか、どこまでそのことを知らせるべきなのかが悩ましい。どう対応すれば働きやすい状況になるのか。

A(高沢)自分がどこまでカミングアウトしたいのかは、誰に対してカミングアウトすることにもつながります。誰に対してカミングアウトするか、しないかは個人の判断なので、ご本人とお話しするのが一番かと思う。「この人だったら言ってもいい」という基準も、自分がどこまで言っておけば社内で自分らしく働ける環境になるかの判断も人それぞれだと思いますので。「自分の代わりに人事から広く告知してほしい」とご本人が希望すれば、そういう対応も望ましいと思うが、どこまで知らせていいかは本人の判断によると思います。

A(山地)LGBTにフォーカスして特別扱いしてしまうのではなく、本人に心地よい環境が何か。実はカミングアウトする必要すらあるのか。たとえば体重の増減なんて、仕事に関係なければ普通話題にしませんよね。それと同じで、非常に個人的なことという認識をまず持っていただくこと。確かに経験がない会社ではセンシティブだしドキドキしてしまうけど、それより本人にとってどういう状況がいちばん好ましいのか。カミングアウトしない方が働きやすいのであれば、それをサポートする方法を考えるべきだし、過度にLGBTであることにフォーカスしすぎないことも実は大事だと思います。

Q どういう企業がどういう動機で、受け入れに興味を示しているのか。

A(ワイルドカード)特にLGBTだから受け入れない、採用しないという考えはないが、たとえばクリエーティブな方が多いという話、技術者、デザイナーに能力が高い人が多いので、普通の採用プロセスの中で、受け入れる段階で「どう気をつければいいのでしょうか」というご相談を頂くことが多いです。たとえば旅行代理店ですと、LGBT同士のカップルが旅行プランを探しやすいようにLGBTを社内の担当に置きたいとか、不動産情報をWEBで取り扱う会社は、同性のカップルで入居できる部屋がないかと相談する層がいるので、受け入れる側もその目線に立って案内できる、採用のニーズがあります。

Q 求職者、企業サイドのニーズや進め方は個別のケースでまったく違う。双方へのアプローチについて、もし参考になるご意見があれば。

A(如月)私たちの側からの意見ですが、まずLGBTはダイバーシティーという考え方では正直素人の部分があります。たとえばトランスジェンダーでも、外見は完全に男でも「自分は女だ」と主張する人がいる。でもその人が女性として明日から暮らしていけるのかというと、いけない。当事者は個別のジャンルには詳しいですが、全体でみたときに盲目的な部分もあるので、ダイバーシティーという大きな目で基準を持って「あなたはこういう状態です」と伝えてあげられるサービスがあればいいかなと思います。

A(高沢)男性として働きたくても戸籍が女性のまま替わっていない人は、日本の転職紹介サービスでは「女性としてしか紹介できません」と言われ、そこで断念することになってしまいます。人によっても状況が全然違うので、求人企業に提供する情報の範囲をフレキシブルに運用して頂けると、ニーズに沿うのではないか。ちなみに外資系の同様のサービスだと、そもそも性別自体を聞かれないこともあります。

A(山地)トランスジェンダーで通院が必要な状態であれば、企業ともそういう話をすべきだと思うが、よく分からずにLGBTの情報を過度に得ようとしたり、知らないからはじいたりということが起きている可能性もあるので「仕事に関係する判断でしょうか」と聞くことは重要だと思います。仕事に関係のあることに徹底的にフォーカスすることは、今後どんどん必要になってくる考え方だと思います。

Q グーグルさんの中でカミングアウトのサポートをしているということだが、検討しているという情報はどう得て、どうサポートしているのか。

A(高沢)カミングアウトを検討しているケースは基本的には本人しか知り得ないことなので、本人から何かアクションがあります。まずいったん人事のダイバーシティーチームに相談するようつなぎます。そして、カミングアウトをどのように進めていくか、伝えたいことは何か、どこまで伝えたいかのプランを一緒に練っていく。弊社ですと、他のオフィスやチームでのケースを共有するなどのサポートができます。

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