「自民党議員による差別発言を問題だと思っている方が、日本の社会の中でこれほど多いんだということを実感しています」
一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは5月31日、ずっしりと重い署名の束を、自民党側に手渡した。署名は、自民党の党職員ではなく、建物管理の職員が受け取った。
松岡さんらが渡したのは、LGBTQの人たちに対する差別発言をした自民党議員に、発言の撤回と謝罪、そして辞職を求める署名だ。
5月20日夜に始まった署名は、31日0時までの10日間で9万4212人が賛同した。
署名を立ち上げた有志らは「この声をしっかりと受け取っていただいて、自民党として正式に対応をして欲しい」と求めた。
党として差別を否定するよう求める
署名の宛先は、差別発言をした自民党の山谷えり子議員と簗和生議員、そして自民党総裁の菅義偉首相。
山谷議員と簗議員には発言の撤回と謝罪と辞職、そして菅義偉首相には党を代表しての謝罪と、発言をした議員へ辞職勧告を求めている。
山谷議員は、「LGBT理解増進法案」をめぐる自民党の会議で「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことは起きている」など、トランスジェンダー女性に対する差別を助長するような発言をした。
また簗議員は「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」という趣旨の発言をしたことが報じられた。
この発言には大きな反発が起き、撤回と謝罪を求める今回の署名キャンペーンが立ち上がった。
松岡さんは発言について「国会議員がこのような発言をすることは当事者の命に直結します」と、発言が性的マイノリティの人たちの命を危険にさらすものであると指摘。
「当該議員がしっかりと謝罪、撤回、または辞職をするのか、自民党としてこうした差別発言をした議員に対して厳正な対処をするのかどうか、私たちは見ています」と、党として差別を毅然と否定するよう求めた。
この10万人の声は重い
自民党議員によるLGBTQ当事者への差別発言は、今回が初めてではない。
2018年には、杉田水脈議員が「LGBTの人たちは生産性がない」という文章を寄稿して、大きな批判が起きた。
松岡さんは「特に種の保存という発言は、生産性の発言と全く根本は同じであり、優生思想に基づく差別発言だと思います。この3年間何も学んでこなかったとことが露呈しているなと感じています」とも述べる。
今回の山谷議員と簗議員の差別発言は、「LGBT理解増進法案」をめぐる自民党の会議の中で起きた。
この法案は、超党派の議員連盟が合意したもので、オリンピック憲章が性的指向などを理由にしたいかなる種類の差別も禁止していることから、東京オリンピック・パラリンピックを前に成立の気運が高まっていた。
しかし法案の目的と基本理念に「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」と書かれていることに一部の自民党議員が懸念を示しており、自民党幹部は5月28日、審議日程が確保できないとして、同法案の今国会への提出を断念する意向を示した。
松岡さんは「差別発言に対する謝罪や撤回もなし、法案の提出もなしというのは、あまりに不条理な状況です。当事者の命をまさに軽んじていると言っても過言ではないと思っています。自民党は政党としてしっかり声を受け止めて厳正に対処し、対応して欲しいと思っています」と述べた。
署名キャンペーンだけではなく、5月30日〜31日にかけて、差別に抗議しLGBTQ当事者の命を守る法律を作るよう求めるデモ・24時間シットインが自民党本部前で行われている。
シットインの参加者の中には、差別を受けたLGBTQ当事者の友人が亡くなったという人たちもいたという。
松岡さんは「この10万人の声というのは重いと思っています。この声をちゃんと受け止めて、自民党は発言の責任をとってもらいたい。そして謝罪や撤回や辞職を求めたい。その上で政党としてちゃんと性的マイノリティの問題に向き合い学んで差別をなくす法律を作って欲しいと思います」と訴えた。