同性婚したいわけではない!?オーストリアのLGBT社会の真相に迫る

「彼らはただ平等に扱われたいだけで、誰も結婚したいとは思わないのです」

第一回では、ウィーン・プライドについて詳しく聞きましたが、今回は第二のテーマであるオーストリアのLGBT全般に関する質問をしてみました。プライドだけではわからないLGBT社会の現状を幅広い視点からみてみましょう。

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BKA/ANDY WENZEL
クリスティアン・ケルン首相とヘーグルさん。Am 17. Juni 2017 nahm Bundeskanzler Christian Kern (m.) an der Regenbogenparade 2017 in Wien teil.

まずは、オーストリアのLGBTの人口を知りたいのですが

[ヘーグル] 誰もその質問には答えられないでしょう。科学的な推測で2、3%から10%くらいでしょうが、科学的な調査をしても、皆が性的指向を露呈するわけではないからです。

実際、この質問は最もよく問われる質問なのですが、なぜ皆が何度も何度も聞いてくるのかが理解できません。わかるわけがないでしょう?どのように算出するのでしょう?

少し初心な質問だったかもしれませんが、この点、バーバラさんにはあえて反論してみました。LGBTを代表して活動するのに、10人を代弁するのか、1万人を代弁するのかでは話が全く違います。政治や法律が関わるのなら、数字は必要条件な気がします。それが民主主義でしょう?正確な数字はでないでしょうが・・・

[フレーリッヒ] 少し古いですが、よく引用されるものにキンゼイ報告というのがあります。アメリカの性調査で過去最大規模のものです。それによると、10人に1人はホモセクシャルだという結果が出ています。70年代の話ですが(筆者注 -正確には1948年・53年が正しい)、これを参考にすると、今はもう少し多いかもしれません。

例えば、パートナーシップ制度の登録人数などはわかっているのでは?

[ヘーグル] おそらく百数十人でしょう。理論的には皆がその権利を獲得したいのですが、実際はLGBTの1%以下でしょう。誰も結婚したくないのです。

その点は不可解です。平等の権利のために戦っているのに、登録しないのですか?

[ヘーグル] その通りです。彼らはただ平等に扱われたいだけで、誰も結婚したいとは思わないのです。他のどの国でもそのような状況だと思いますよ。LGBTは数ヶ月でパートナーを入れ替える人も多く、友人のネットワークがあります。彼らは異性婚とは違う社会的生活をしているので、結婚に対する価値観が違うのでしょう。

はっきりいって驚きました。世界各地で同性婚合法化の議論が盛んなのにもかかわらずですか・・・。さて、ウィーンのような都市はLGBTに寛容でしょうが、地方はどうでしょうか?

[ヘーグル] 都市部では皆LGBTを気にかけませんが、地方の人はやはり奇妙がりますね。実際、農家のゲイもいます。今はインターネットで簡単にパートナーを探すこともできますが、地方ではより保守的でしょう。ただ、地方の状況は我々はあまり知りません。多くのLGBTはウィーンなどの都市に来ますから。去年はリンツ、今年はグラーツのプライドに行ったのですが(それぞれオーストリア第三・第二の都市)、雰囲気が全く違いましたね。まるで10年20年過去にさかのぼったかのようでした。そのため、我々にはまだすることがありますが、我々のようなマイノリティーにとって小さな村などでは大きな変化を期待することは難しいでしょう。

では、宗教はどうですか?オーストリアは基本的にカトリック国です

[ヘーグル] 我々の権利獲得の戦いのなかで、最大の敵はカトリック教会でした。現在もです。今でも労働環境の外では、差別禁止法を適用できませんが、これには教会が関わっています。例えば、店では、「ゲイはここに来て欲しくない」と言えるのです。また、性的同意年齢は異性間では14才ですが、ゲイやレズビアンは18才でした。この差は2002年に廃止されましたが、教会が毎回強く反対していたのです。

同時にここのところ教会は信者や影響力を失いつつあります。現在は多くのムスリム、少数のユダヤ教(数十万のユダヤ人が第二次大戦などで殺害されましたが)がいます。カトリック、プロテスタント、ユダヤ教、イスラム教、仏教など全ての宗教団体は、組織としてはホモフォビックです。

ムスリムのLGBTグループがあると聞いたのですが、本当ですか?

[フレーリッヒ]本当です。ご存知のように、ムスリムは難しい状況にいます。生命に危険を感じる人さえいるかもしれません。ムスリムの文化では、一般的に家族は閉じられていますから、私はゲイやレズビアンを公言するムスリムに敬服します。彼らは家族との絆が強く、大きな問題が生じるのです。ただ、彼らは我々のところに来て、居場所を見つけられます。オーストリアは彼らを保護します。

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TSUNANORI CHINATSU
難民のLGBTグループ

基本的にイスラム教ではLGBTはまだまだタブーですので、そういう話は驚きです。さて、LGBTは権利についてよく叫ばれますが、それを理解するための教育はどんな感じなんですか?

[ヘーグル] この分野はまさに発展途上です。私が学校に通っていたころに比べれば格段に良くなっています。教師たちの団体がLGBT教師のために活動していますし、生徒のためには性教育の一環としてLGBTに言及することを推進しています。

[フレーリッヒ] もう少し性の差を教えるべきだと思います。児童に対して、ヘテロセクシャルだけが唯一の性的指向ではなく、ホモ、トランス、インターなどがあるということを教えるべきでしょう。こうした活動は、先生次第で、個人的なものであるのが現状です。HOSIにはピア・グループがあります。LGBTの児童が、学校に招待されて、彼らの性的指向やカミングアウトなどを話すのです。

新しい性教育は従来の男女分かれて行われる性教育と同じレベルで扱われるべきです。児童は、それほど閉鎖的ではありません。彼らはこうしたテーマに興味がありますし、オープンです。一般的に、古い世代や団体(教会や保守的政党)などが、若い世代のオープンさに影響を与えているだけです。

ところで、オーストリアを代表するLGBTといえば、なんといってもコンチータ・ヴルストです。彼(女)は、2014年のユーロ・ビジョン歌謡コンテストでオーストリアに優勝をもたらし、センセーショナルでした。彼(女)はどのように受け止められていますか?

[ヘーグル]彼(女)はコンテストで勝って人気があります。キャリアのためにハードワークをしました。ただ、彼(女)は女よりも男になりたいのです。髭に長髪のドラッグ・クイーンを演じましたが、それを一生するつもりはないようです。彼(女)はとても勇気と教養がある若者で、我々はプロとしての関係を保っています。大半の人は彼(女)をサポートしているでしょう。

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TSUNANORI CHINATSU
コンチータ・ヴルストのポスター

現在オーストリアのLGBTに必要なもの。プライオリティは何でしょうか?

[フレーリッヒ] 基本的なことは達成されました。しかし、獲得した権利を将来に向けて守ることが大切です。詳細に関しては、いくつか挙げましょう。まずは、差別禁止法を更新し、LGBTを公言しても職を失わないこと。例えば、幼稚園教諭・学校教師はまだカミングアウトすることを恐れています。ペドフィリアではないかと疑われるのが嫌なのです。医師など社会事業の従業員のこうした状況を改善したいと思っています。また、結婚の同等の権利を実現することです。この点でHOSIは他のグループの主張と違いますが、現行の異性婚法は多くの不利益があると考えています。19世紀にできた制限的な法律ですので、異性・同性両者を含めた結婚法自体の改革が必要だと思います。

第3回に続く