日本の小学生が大人になったらなりたい職業の調査で、男の子は「学者・博士」になりたいが15年ぶりに1位となったようである。大学で教員をしている学者・博士の端くれとしては嬉しいことでもある。
確かに良い職業だと思うが、必ずしも好きなことだけに没頭させてもらえるわけでもない。専門以外の科目を担当することだってある。
私も数年前から「ボランティア」授業を担当するようになった。自分なりに勉強したり、外部講師らの力も借りて授業を開講している。
1回目の授業でいつも学生にボランティア活動をしたことがあるかの質問をするが、意外と少ない。手が上がっても、過去に1、2回のゴミ拾いをしたなどの回答がほとんどである。授業の中では、ボランティアとして関われる活動を数多く示し、視野を広げると同時に、肌で感じてもらおうとボランティア実践も行っている。
取り巻く環境によっても状況が変わるだろうが、ボランティア活動に関心のある人は決して多くはなく、むしろ多くは無関心であるというのが私などの眼に映る社会である。「なぜする必要があるか」の疑問を抱いている人が意外と多く、そのことに対して答えを出せていないのも大きな理由の一つであると思われる。
なぜボランティア活動を経験した方が望ましいのかの根本的な問いへの答えは、ボランティア活動をしたことがない学生や両親などに説明するときにも役に立つ。
実はボランティア活動には「自主性・主体性」、「社会性・連帯性」、「無償性・無給性」、「創造性・開拓性・先駆性」という4つの原則がある。
そしてこの「ボランティア活動の原則」にはすでにそのなぜボランティアをしなければならないのかの疑問への答えが出ている。
第一にそれは、今の世の中において、バランスのとれた人格形成にとってまさに必要不可欠な内容そのものである。
□「自主性・主体性」ボランティア活動は、自ら進んで行動をすることが求められ、そこは、義務や強制は存在しない。現状において、受動的で、従属的で引かれたレールに乗り、言われなければ動かず、他者の指示を待っている者は決して少なくない。ボランティアは、まずもって自ら進んで行動する心を育ませる。
□「社会性・連帯性」ボランティア活動は、まさに社会の中の課題を見つけ、改善や解決に向けて、人々と協力しながら取り組むことである。殻に閉じこもるのでもなく、自利にもとづく自分のための活動ではなく、むしろその対極にある、他者と関係し合った利他的活動である。関わり合い、学び合い、支え合う心を育ませる。
□「無償性・無給性・非営利性」ボランティア活動に対して、実費が供給されるなどのことは中にはあるが、基本的に無償活動である。金銭欲とは無関係の活動である。「お金」が最たる基準・基軸と化している世の中において、お金ではない物差がもつ価値とお金がないからこそ得られる喜びがそこにある。見返りに満ちた世の中だからこそ、見返りを求めない豊かな心を育ませる。
□「開拓性・先駆性・創造性」世の中で満ちている課題に対して、すでに取り組んでいても解決に苦労しているものは多くある、激動の時代においてそこに新たに次から次に問題が産み落とされている。ボランティアはまさに開拓、先駆、創造でもある。変化しかない世において未だ前例に踏襲する風潮が蔓延している。だからこそ、ボランティア活動がもたらすよりよい社会をつくりに向けたフロンティア スピリットを育みたい。
この記事は、大人になったらどのような職業につきたいのかとの話から始まった。子どもは、大人になったらなりたい職業は、今回は、学者が15年ぶりにトップになったのものそうだが、時代の流れの中で変わってくるに違いない。
AIによって奪われると言われる職業もあれば、今後まだ見ぬ職業も登場してくるに違いない。
しかし小学生が、大人になってどのような職業に就こうと、小さい時からボランティア活動を経験させることは、バランスのとれた人格形成と生きる力の糧になることはほぼ間違いない。
将来どんな職業に就こうとボランティア活動から得た感覚は、職業そのものに限らず人生全般において相乗効果と潤いを与えてくれるに違いない。