テレビ朝日は4月19日、自社の女性記者が財務省の福田淳一事務次官からセクハラ行為を受けていたと、会見で明らかにした。
篠塚浩・報道局長は、女性記者を「セクハラの被害者」だと認定し、「社員からセクハラの情報があったにもかかわらず、適切な対応ができなかった」ことを「深く反省している」と話した。
一方で、女性記者が週刊新潮に録音データを提供した点については、「社員が取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為」だったとした。
この点は、「不適切」だったのだろうか。セクシュアル・ハラスメントに詳しい太田啓子弁護士は「今回のケースに関しては不適切という指摘は当てはまらない」と言う。考えを聞いた。
■「不適切」ではない理由とは
報道局長が、女性社員が第三者に取材した時の録音データを渡した行為について「報道機関としては不適切で遺憾」という見解を示しましたが、今回のケースに関しては「不適切」という指摘は当てはまらないと考えています。
一般的にいう「記者倫理」での取材源の秘匿、取材内容を許可なく他言してはいけないという考え方に基づいた発言だったのは理解できます。
報道機関としての信頼性確保のために、基本原則はもちろんわかっていると強調したいでしょうし、また、当該記者の今後の取材活動に万一にでもマイナスになってはならないという配慮もあって、その女性記者も、「不適切だという(テレビ朝日側の)見解を聞いて、反省しているといっている」という話になったのでしょう。
今回、対応が事後的になったとはいえ、テレビ朝日が組織として「社員を守る」と発表し、前面に出て宣言したことはやはりとても大事なことで、評価すべきと考えています。今回の件で最も責められるべきなのは、直接の加害者である福田氏であるということは前提にします。
ただ、テレビ朝日からは、「今回については、『不適切』な対応に女性記者を追いこんだことも組織としての責任だ」という言葉が欲しかったなとは感じます。組織として、女性記者をここまでの行動に追い込む前に守れなかったことは今後の教訓とすべきでしょう。これは、他の報道機関も他人事ではないこととして速やかに取り組んでほしいところです。
■「許可なく録音」は被害を立証する常套手段
取材内容を録音する際、取材対象から承諾を得て録音することは、取材する上での一般的なマナーではあると思います。しかし、女性社員が相手の承諾を得ずに録音していたのは、セクシュアルハラスメントから自身を守るためでした。
重大な人権侵害に対抗するために、何があったかを記録することは基本事項です。セクハラやDVでは、被害を立証するための録音は、特に非難されるようなことではない、常套手段です。
加えて相手は、強い権限を持つ事務次官です。女性記者が、自分の身を守る必要性を強く感じたことに、何ら不思議はありません。
次官は、取材者の女性にセクハラ発言を繰り返し、これを楽しんでいたのでしょう。取材相手が自分のセクハラ発言に抗議できない、受け続ける立場にあるということにつけこみながら、取材に応じていたわけですから。次官は、個人的な性的関心を満足させることの対価として、取材に応じていたという意味では「公共の情報資源の私物化」ともいえ、あまりに倫理意識が欠如しています。
本来であれば、こうした実態を、記者が所属する報道機関が抗議、報道する機会が持てればよかったのですが、それができなかった。その点を踏まえると、週刊誌に情報を渡す形の告発であっても、一般的な記者倫理を遵守する以上の公益性がある行為であり、「不適切」ではないと思います。