日本ではほとんど使われていない「夫婦財産契約」って何?

夫婦財産契約というのは、その名の通り、夫婦の財産関係について取り決めた契約のことだが、実際に夫婦財産契約を結んでいる人はほとんどいないという。その理由は、夫婦財産契約には厳しい制約があるからだ。
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日本ではほとんど使われていない!? 「夫婦財産契約」って何?

結婚を目前に控えて、「本当にこの相手でよいのか」と不安になる人は少なくない。あるネットの相談サイトにも、結婚に悩む公務員男性のエピソードが紹介されていた。

男性が気にしているのは、相手の女性が結婚後も「共働き」をしてくれるかどうかだ。二人の間では共働きで合意しているとのことだが、女性が「専業主婦いいな」とつぶやいたことから、「本当に共働きする覚悟があるのか」と不安で、結婚に踏み切れないのだという。

そこで、この男性の同僚Aさんは、この二人に「夫婦財産契約」という制度を紹介しようかと考えている。たとえば、「稼ぎは各自の財産とした上で、各自手取りの6割を生活のために出し合い、残りは各自の自由な財産とする」という契約を結べば、夫婦それぞれが仕事をもって「共働き」をするしかないだろう、というわけだ。

この「夫婦財産契約」とは、いったいどんな制度なのだろうか。

●結婚したら内容を変更できない「特殊な契約」

夫婦財産契約というのは、その名の通り、夫婦の財産関係について取り決めた契約のことだが、実際に夫婦財産契約を結んでいる人はほとんどいないという。

その理由は、夫婦財産契約には厳しい制約があるからだ。具体的には、(1)結婚前にしか締結できない(民法755条)、(2)第三者に対抗するためには登記が必要(同756条)、(3)結婚後は原則的に内容を変更できない(同758条・759条)……といった具合だ。

婚姻中の契約はいつでも取り消すことができると、民法754条で定められていることもあり、このような制度となっているようだが、法律家の中にも「使い勝手が悪い」と指摘する声があるようだ。法務省の資料を見ても、夫婦財産契約の登記は、全国で年間10件程度しか行われていない。

では、夫婦財産契約の中身は、どんなものが想定されているのだろう?

さきほど紹介した「稼ぎは各自の財産とした上で、各自手取りの6割を生活のために出し合い、残りは各自の自由な財産とする」という内容は、夫婦財産契約として有効なのだろうか。

●「各自手取りの6割を生活のために出し合う」というのは「夫婦財産契約」か?

離婚や親権など家族問題を重点的に取り扱う森一恵弁護士は次のように指摘する。

「このケースは『夫婦財産契約』ではなく、単なる夫婦の内部的な約束にすぎないと考えられます。夫婦財産契約とは、民法の法定財産制とは異なる契約を言うからです」

どういうことだろうか。

「民法の規定によれば、夫婦各自の稼ぎ(給与)は『自己の名で得た財産』として、夫婦それぞれの特有財産となると考えられます。

今回の『各自手取りの6割を生活のために出し合う』という約束は、『稼ぎ(給与)は各自の財産とする』という、夫婦別産制を前提とする約束です。

夫婦別産制を前提とした約束ですから、法定財産制と異なる契約をする場合にはあたりません。つまりこの約束は『夫婦財産契約』ではないということになります」

森弁護士はこのように述べ、「今回のケースは、生活費について夫婦間で拠出割合を定めるという、内部的な約束にすぎません。したがって、夫婦財産契約とは異なり、第三者に対して効力をもつものではありません」と説明する。

●「契約の内容は当事者の自由に任されている」という見解も

一方、民法の条文の解説書である『基本法コンメンタール 親族 第5版』(日本評論社)では、「夫婦財産契約の内容については、一切規定がなく、当事者の自由に任されている」と説明されている。つまり、公序良俗に反したり、夫婦間での扶養義務を排除するような内容は契約にすることができないが、「ニーズに合わせた多様な内容の契約を締結することができる」という見解が示されている。

夫婦財産契約の内容については、民法の条文に詳細が明記されているわけではなく、実際にもほとんど使われていないということもあって、このように様々な意見があるようだ。

夫婦間の財産をめぐる考え方は少しずつ変化してきている。今回ネット上で見かけたケースのように「夫婦財産契約を活用したい」という声がもっと高まってくれば、夫婦財産契約に関する法律をもっと整備しようという動きが出てくるかもしれない。

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【取材協力弁護士】

日弁連憲法委員会委員、中部弁護士会連合会公害対策環境保全委員会委員、三重弁護士会両性の平等に関する委員会委員長、人権擁護委員会委員、公害対策環境保全委員会委員

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