仕事の世界における暴力とハラスメント

第107回ILO総会 「仕事の世界における暴力とハラスメント」の議論

深夜近くに及ぶ議論も

5月末から6月にかけて2週間にわたるジュネーブ滞在。厳寒の冬を終え、輝く太陽の下、レマン湖の散策を堪能、と書くと、素晴らしい出張のように思えるだろう。現実はそうはいかないのである。総会の期間が3週間から2週間に短縮されたことにより、1日の審議時間が長くなったのである。9時から会議が始まり委員会によって異なるが、21時か22時まで予定されている場合が多い。「仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント」に関する基準設定の委員会に至っては、深夜近くまで議論が及ぶことがあった。まさに体力勝負である。実際、2名が倒れたぐらいである。この委員会には連合から井上総合男女・雇用平等局長他2名が参加したが、皆さん頑張って議論に参加されていた。今回は、この基準設定の議論を中心に報告する。

対象「労働者」は幅広い定義に

この基準設定は、今年と来年の2回にわたる討議を経て決定されるものである。今回の最も大きな議論は、勧告により補完される条約とするか、勧告のみとするかであった。条約となると加盟国に批准の義務が生ずるが、勧告は批准を前提とせず拘束力がない。当然というべきか、使用者側は勧告のみ、労働者側は勧告で補完される条約を支持した。条約への反対を表明した政府は米国のみ。また、日本政府は基準の内容が明らかでないので保留とした。この米国と日本政府の発言に対しては、労働者側からブーイングが起きた。ちなみに韓国、中国も条約に賛成した。

対象となる「労働者」の定義は議論の末、被雇用者、インターン、解雇されている人、休職中の人も含む幅広いものとなり、労働者側はこれを歓迎している。大きな争点になったのは、LGBT(性的少数者)である。条約案に「各国は、平等や非差別の権利を保障するために法律、規則及び政策を採択すべき」とあり、その対象として「偏って暴力やハラスメントの影響を受けやすい労働者」として「LGBTの労働者」があったために、アラブ、アフリカ及びイスラム教国がこの文言を含めることに強く反対した。国によってはLGBTを違法としている場合もあり、この文言を受け入れられないとの主張である。これに対し、欧州諸国はこれらの人々は特に暴力やハラスメントの対象となりやすいので、文言に含めるべきであるとした。最終的には、「脆弱な状況におかれている労働者」の表現となり、LGBTという文言は削除された。

しかし、このLGBTの文言が再度勧告の箇所で出てきたために、アフリカ諸国は強く反発し、最終日夜に行われた議論をボイコットしてしまった。結局、時間切れでこの勧告の議論は来年に持ち越しとなった。

条約成立に向けた決意は固い

議論の積み残しが多く、来年の議論は予断を許さない。ましてや、2週間の短期間で仕上げなければならない。厳しい状況が想定されるが、われわれ労働者側のこの条約成立に向けた決意は固い。私は会議にはほんの少ししか参加できていないが、それでも一つひとつの文言について政労使で議論しながら、条約を作っていく歴史的過程にいる充実感を味わうことができた。来年は勝負の年であり、闘いはすでに始まっている。

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ILO総会にて副議長を務めた筆者(左から4番目)
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郷野晶子(ごうのあきこ)

ILO(国際労働機関)理事