ヘアサロンに衝撃
Mustumiさんとはじめてお会いしたとき、衝撃を受けたのはヘアサロンの話です。
女社長のセレブ感をほどよくまとい、絶妙におしゃれな色合いのヘアのMutsumiさんは、LAのヘアサロンで髪をカットし、カラーリングをしてきたそうです。
「いくらだと思います?」と聞かれたので、私としては高額の「3万円」と答えたら、なんと「15万円です」という答えで、想像の5倍の金額におののきました。
セレブ御用達なのかそれともぼったくりなのか……。でもMutsumiさんによるとセレブ向けではなく、高級すぎないちょっと良いくらいのヘアサロンだそうです。
カットだけだと4万円で、それにカラーを手がける人、カットをする人にそれぞれアーティストとしてお金を払い、チップを加算すると15万円。
アメリカはアーティストの立場が強いと聞いたことがありますが、ヘアサロンにも表れているんですね。
眞子様の婚約内定者、小室圭さんがNYでなかなか美容院に行くひまがなく後ろ髪が伸びてきているという記事を見ましたが、勉強が忙しいだけでなく倹約家だからヘアサロンに行かないのかもしれません。
でも探せば安い店があるようで「アメリカ 1000円カット」で検索したら、類似した格安チェーンの名前が出てきました。
「人件費がかなり違うので、人が動くと高くなります。ヘアサロンもピンキリありますが、優秀なアーティストの人件費は比較にならないほど高いです」と、Mutsumiさん。
以前、リアーナが専属ヘアスタイリストに週2万5000ドル(約280万円)払っているというニュースを見て、高すぎるからさすがに盛っているのでは……と思ったのですが、Mutsumiさんの話を聞く限りあり得そうです。
総資産2億ドル以上のリアーナにとっては数万円くらいの感覚なのかもしれませんが……。才能に対して対価やリスペクトを惜しまない国なのでしょうか。
「卓越能力者ビザ(通称アーティストビザ)を入国審査で見せると、ちょっとリスペクトの視線を感じます」とMutsumiさん。「卓越能力者」という響きに憧れます。
日本だと、個人で仕事をしているととにかく不安だらけだし、近所の目も厳しかったりしますが、アメリカでは能力を認められれば高い収入も得られてリスペクトされて生きやすそうです。
日本の映画監督が豪邸を買える日は…?
「映画業界でも同じで、日本の映画関係者の方々と話すと、最近は邦画ヒットが多いですが、映画監督だけで生活できる人はほとんどいないとみなさん言われます」
「アメリカだと、『ラ・ラ・ランド』の監督デイミアン・チャゼルは、長編映画2本を監督してすでにLAに豪邸を持っているようです。日本で大ヒット作品を2本撮っても、白金に豪邸は買えないと思います」
「アーティストの社会的立場や、ギャランティは総じて低いですよね」
まさにアメリカンドリームで、ハリウッドを目指す人が多いのもわかります。
日本でも監督クラスになれば家を建てられると思っていましたが、現実は厳しいようです。
物価が高い国で一旗上げる挑戦をするか、物価もギャラも安めの国に安住するか、究極の選択が……。夢を叶えるには投資が必要です。
日本で安すぎる!と感じるものは…
「日本に帰るたびに鍼、マッサージ、エステや美容皮膚科などまとめて行くのですが、今はアメリカが高いより、日本の人件費が安すぎると感じます」
「丁寧で清潔で安心、技術も確かなサービスが多いですが、こんなに安いの!? と思ってしまいます。日本の人件費の安さは問題になってると思いますが、人件費や物価が全体的に上がって結果収入も上がっていかないと、この先の日本が心配です」
アメリカに住んだことで違った視点で見ているMutsumiさん。安いことは良いことだと思って甘んじてしまいますが、日本ではサービスをする側も受ける方法も低めの収入で、ぬるま湯のような世界で馴れ合いで生きていたのかもしれません。
物価的には、服など値上がりしている感がありますが、収入は変わらないのが辛いところです。
ところで貧乏性の私は、物価が高い国に行くだけで貧乏人気分になって無力感を漂わせてしまいますが、Mutsumiさんはそのような気持ちになってしまうことはないのでしょうか?
「気分的に貧乏人にはならないです。物価が高いからといってもアメリカ人の平均所得は500万円弱で日本とそんなに変わらないです。格差は大きいと思いますが……」
「ショップの店員さんや学校の先生もそんなに高級取りじゃないし、でもなんとかやりくりしてるんじゃないでしょうか。外食は高いけれど自炊すればオーガニック食材は安く手に入ります。」
「仲の良い友だちならレストランではなく、フードコートで食事すればチップなしで1人20ドルくらい。あとは休日は海に行って散歩とか、山でハイキングとかをしていればあまりお金を使いません。お金を使わなくても十分楽しめます」
自然に目を向ければ、そこは無償のエネルギーの宝庫。オーガニック食材で体の調子も整います。
アメリカで賢く節約すれば、日本より健康的に生きられそうです。健康的、というか絶対病気にはなれない現実が。
「口内炎で病院に行ったら20万円かかりました」というMutsumiさんの夫の映画監督、イ・インチョル氏の言葉に戦慄。
「アメリカはお金持ちで健康なら最高の国だと言われています」
お二人の挑戦に敬意を表しつつ、これからも日本にとどまることを決意しました。
(2019年5月8日note「辛酸なめ子の「LAエンタメ修行 伝聞禄」より転載)