「草生える」と無断で書けなくなるってホント? 任天堂が「草」の商標を出願した件を専門家に聞くと…

任天堂など3社は雷、悪、炎、鋼、水、草、超、闘の8文字を商標登録出願しました。
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Huffpost Japan

任天堂が「草」の商標を出願したことが話題を集めている。

ネット上のスラングでは、「笑える」「面白い」といった意味で「草」という表現が使われることがよくあるが、「これからは『草生える』と、書き込むだけでも任天堂の許可が必要になるの?」と不安がる声が出ている。

実際にはどうなるのか。専門家に聞いてみた。

■漢字一文字の商標を8つ出願

商標とは、会社名や商品名、ロゴなどを、他人のものと識別するために使う標識だ。商標権は登録した商標の使用を独占し、類似範囲を含む他人の使用を排除できる権利で、売買の対象になる。有効期限は登録日から10年間で、更新もできる。原則として、特許庁に最も早く出願した者に権利が認められるという。

特許情報プラットフォームによると任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズの3社は、6月5日から7日にかけて漢字一文字の商標を複数、出願していた。

雷(カミナリ、ライ) 悪(アク、ワル)、炎(エン、ホノオ)、鋼(ハガネ、コー)、水(ミズ、スイ)、草(クサ、ソー)、超(チョー)、闘(トー)の8件だった。ゲーム用具やゲーム用トレーディングカードなどが指定商品となっている。

ただし、まだ登録が認められたわけではない。8月22日現在は「審査待ち」となっている。

■任天堂「出願は事実だが、コメントは控える」

任天堂の人気ゲーム「ポケットモンスター」には「くさタイプ」や「はがねタイプ」のキャラクターが出てくるので、その関連商品をつくるのが目的ではないか、ネット上では推測する声が広がっている。

ハフポスト日本版は任天堂の広報担当者に、商標の出願目的について取材した。「出願していることは事実ですが、出願の目的を含めて、知的財産保護のために用いる具体的な手段について、当社は回答を控えております」という回答だった。

 

■専門家は指摘「草と書いても商標権侵害にならない」

いずれも審査中ということで、まだ実際に商標登録されたわけではない。一般的によく使われる言葉だが、そもそも商標登録できるのか。もし登録できた場合には、一般的に「草」と書くだけでもNGになるのか。ハフポスト日本版は、知的財産権の専門家で『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)などの著書がある弁理士で東北大学特任准教授の稲穂健市さんに質問した。

すると、「草」のような一般名称であっても、指定商品・指定役務(出願の際に指定する商品・サービスのこと)によっては登録できること、そして、もし登録されたとしても、「草生える」「草不可避」など、草に関わる文字表現をネット上に投稿することは全く問題ないことが分かった。

以下は詳しい一問一答だ。

———実際に「草」のような一般名詞でも商標登録できますか?

一般名称であっても、指定商品・指定役務によっては登録になることもあり得ます。

たとえば「アップル=りんご」は一般名称ですが、「携帯電話」や「電子計算機」などを指定商品として、アップル社が「アップル」を商標登録しています(商標登録第5256657号など)。

ただし、指定商品・指定役務との関係において、一般的に使われている名称は登録できません。たとえば、指定商品を「りんご」にして、「アップル」を商標登録することはできないということです。

その観点で考えますと、今回の任天堂の出願では、指定商品が「ゲーム用具,ゲーム用トレーディングカード,カードゲーム用具及びその附属品,カードゲームおもちゃ及びその附属品,遊園地用機械器具,…」 などとなっておりますので、指定商品との関係に限定して考えますと、おそらく登録されるのではないかと思います。

 

———もし商標が登録された場合、該当分野で「草」を名前に関した商品が販売できなくなったり、ネット上で「草」という言葉を使えなくなるケースはあり得ますか?

「草」と同一または類似の商標を、上記の指定商品と同一または類似する商品やサービスに使用しない限り、商標権侵害となることはありません。

たとえば、「草○○」とか、「○○草」のようなかたちで、「草」という文字が含まれる場合でも、特に「草」を強調した表示としない限りにおいては、商標全体としては類似とは判断されないケースが多いように思います。

また仮に「草」単独で使用する場合でも、上記の指定商品と無関係のビジネスであれば、特に問題となることはありません。

また、ゲームに関連したインターネットの掲示板やブログなどで、「草」と書き込んだところで、「商標としての使用」(商品やサービスの識別標識としての使用)には該当しないことから、商標権侵害となることはありません。商標権が「言葉・図形などをまるごと独占できる権利」ではないという原則に立ち返り、冷静になることが大切です。