熊本市の市議会で、11月22日、生後7カ月の長男を連れた議員が同伴出席を認められず、開会が40分間遅れる「事件」が起こった。
議会事務局によると、赤ちゃん連れで議場入りしたのは、緒方夕佳議員。開会前に着席していたところを、議長や事務局が制止。話し合いのため議会が40分間遅れて開会されることになった。
市議会の規則では、本会議中は議員以外が議場に立ち入ることはできないとされている。事務局は「赤ちゃん連れでの着席はこの規則違反にあたる」と説明。話し合いを経て、緒方議員は長男を友人に預け、出席したという。
NHKニュースによると、緒方議員は記者団に「子育て世代の代表として、子どもと一緒に議会に参加して発言できる仕組みを整えるよう主張したかった」と話したという。また、全国市議会議長会は「議員が子どもを連れて議会に出席しようとしたケースはこれまで聞いたことがない」という。
議会事務局の担当者によると、緒方議員からはこれまで議場に連れて行きたいという申し出はなかったという。「今回のことはいきなりだった。規則違反に当たるので認められなかった」と話した。
緒方議員から事務局側にはこれまで「議会開会中に子供を預ける場所がない。保育園やベビーシッター助成などの整備を」との要望があったが、「議員を特別扱いできない」との理由で却下していたという。
一方、テレビ朝日などの取材に対して澤田昌作議長は、前日に緒方議員から申し出があったと明らかにした上で「それについてはまた後日、ゆっくり話しましょうという話をした」と話している。
国会ではどうだろうか。
衆議院事務局広報課によると、慣例として議員本人にしか議場に入れず、これまでに赤ちゃんを連れて来た議員はいない。「特段の決まりや法規はない。しきたりになっている」(同課)という。
一方、世界では...。
一方世界に目を向けてみると、赤ちゃん連れの女性議員が議場に入る事例が、各国で広がりつつある。
先駆けになったのは、カナダの新民主党のミッシェル・ドックリル氏と言われている。彼女は1998年、オタワで国会に、7カ月の赤ちゃんを連れて来た。議長は注意をしたが、議場から追い出されることはなかった。
2012年にはカナダの議員、サナ・ハッサイニア氏が、3カ月の赤ちゃんを連れて庶民院に現れた。理由は、夫の都合が悪く、赤ちゃんの面倒が見れなかったからだ。彼女はすぐに、赤ちゃんが起こした騒ぎで、議長から警告を受けたが、働く親が毎日直面する困難を表現し議論を引き起こした。
「こうしたことが考慮されないと、女性、特に若い女性が政治に関わることを思いとどまってしまうようになります。これは非常に残念なことです」と、ハッサイニア氏は当時語っている。
2016年1月にはスペイン国会でポデモス党の議員、カロリーナ・べスカンサ氏が赤ちゃん連れで国会に出席、こちらも物議をかもした。
ヨーロッパでは、フォルツァイタリア党の議員、リチア・ロンズーリ氏が、この議論の主役を演じた。なんとヨーロッパ議会でのことだ。ロンズーリ氏の娘のヴィットリアちゃんは現在5歳になるが、彼女は生まれて数カ月の頃から、ヨーロッパ議会の常連だ。
自席で授乳した議員も
アルゼンチンでは2015年7月、急進市民同盟所属のビクトリア・ドンダ議員が、赤ちゃん連れで議会に出席、自席で授乳もした。理由は赤ちゃんがお腹が空いていたからだ。
また、2017年5月には、オーストラリアのラリッサ・ウォーターズ元老院議員が、議場内で生後2カ月の娘に授乳したことが話題となっている。
オーストラリアでは、その8年前、緑の党のサラ・ハンソン=ヤング議員が2歳の娘を抱いて議事堂に入り、退席を求められた事件があった。以来、一部の議員は規則を変えるために働きかけを続け、2016年にようやく赤ちゃん連れでの出席が認められたという。
ラリッサ議員はTwitterで「娘のアリアが連邦議会で授乳された初めての赤ちゃんになったことを誇りに思います。議会には、もっとたくさんの女性や親たちが必要です」とコメントしている。
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