山本幸三・地方創生相が7月27日、全国知事会議の席上で「アメリカを見てみれば、よい大学は田舎にしかない」「東大を(地方へ)移した方がよいくらいに思っている」などと発言したと、朝日新聞デジタルが伝えた。
盛岡市で開かれたこの日の全国知事会議では、地方から若者の流出を防ぐため、東京23区にある大学の新増設を抑制し、定員増を認めないよう求める決議案について議論が交わされた。
朝日新聞デジタルによると、山本地方創生相は全国会議の場で以下のように述べた。
「アメリカを見てみれば、よい大学は田舎にしかない。それで、ニューヨークやワシントンの国際競争力がなくなったことはない。ハーバード大はボストンの郊外にあり、スタンフォード大だって田舎にある。大学は田舎にあって全然問題がない。むしろいい勉強ができる。東大を(地方へ)移した方がよいくらいに思っている」
「アメリカの良い大学は田舎にしかない」って本当?
まずアメリカの中で「名門」大学のグループとされる「アイビーリーグ」について考えてみよう。
確かに「アイビーリーグ」の中には、ニューヨークなどの大都市圏からは離れている大学も多い。理系分野で有名な「コーネル大学」は、ニューヨーク州中部の小さな町イサカにある。ニューヨークまでは約370kmの距離だ。山本地方創生相は大蔵省在職中の1973年、同大経営大学院に留学し、MBAを取得した。
全米最古のビジネス・スクール「タック経営大学院」で知られるダートマス大学は、ニューハンプシャー州西部ハノーバーにある。ここも、ニューヨークからは420kmも離れている。
一方で、オバマ前大統領を輩出したコロンビア大学は、ニューヨークのマンハッタンにあり、まさに「都会のど真ん中」に位置する。ペンシルベニア大学も、人口150万人以上の大都市フィラデルフィアにある。
コロンビア大学
山本地方創生相が27日に言及した2つの大学はどうだろうか。
スタンフォード大学の創設は1891年。イギリスの植民地時代からの歴史を持つ東海岸の「アイビーリーグ」などとは異なり、西海岸のカリフォルニアに位置するスタンフォードは、歴史の浅さは否めない。周囲には自然が広がり、リスも出没する。全米随一の広大なキャンパスをもつ。
かつては無名だったスタンフォード大学は、今では「シリコンバレー」の中心的な存在だ。グーグル、フェイスブック、アップルなどの本社が点在し、起業家やエンジニアたちが、気軽にキャンパスに訪れて学生とディスカッションする。
スタンフォード大学が「田舎」にあることは確かだが、大学の力を支えているのは、起業家や投資家が同じエリアにいる「エコシステム」だ。単に「田舎にあるから」競争力があるわけではない。大学と企業が一緒に育ってきた歴史を無視して、「強制的に」大学を地方に移す意味があるのだろうか。
山本地方創生相が挙げたもう一つの大学、ハーバード大学はマサチューセッツ州東部ケンブリッジに立地する。ケンブリッジは全米を代表する大学都市で、マサチューセッツ工科大学(MIT)もある。大都市ボストンとは川を挟んだ対岸で、ボストン中心部からは5km程度だ。
ハーバード大学
山本地方創生相が、なぜ東京の大学一極集中を批判する文脈でアメリカの名門大学を例に出したのか疑問だ。
Twitter上では、「東大を(地方へ)移した方がよいくらいに思っている」という山本地方創生相の発言にも意見が相次いだ。
「いい大学が首都に集中するから、いい人材が偏在する」「いまの東大の敷地では研究者の多さに対応出来てない」と理解を示す声もある。その一方で、「各地域にある大学の価値を無視する前提の考え」など、否定的な声が出ている。
山本地方創生相自身も東京大学の出身だ。発言の真意について、ハフポスト日本版は山本地方創生相の事務所に問い合わせたが、「昨日の今日の発言なので、詳細は把握していない」との回答だった。
東京への大学一極集中をめぐり、首都圏とそれ以外の自治体で対立
全国知事会議であいさつする山本幸三地方創生相(中央)。岩手県盛岡市=2017年07月27日
27日の全国知事会では、東京への大学一極集中をめぐり、首都圏とそれ以外の自治体で意見が対立している。
河北新報によると、香川県の浜田恵造知事は、「国は23区に新設する私立大への私学助成を止めるべきだ」と強く主張。これに対し、東京都の小池百合子知事は「学生が学ぶ場所を選ぶ自由を奪う」と反論。神奈川県の黒岩祐治知事も「日本経済の国際競争力を高めることも必要。東京の足を引っ張っていいのか」と述べた。
政府は6月9日に閣議決定した「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」の中に、東京都心での大学新増設の抑制や地方大学の振興を進める方針を盛り込んでいる。
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