親が子に「何で3時間でゲームをやめたの?」と問い詰める日がくるかも? ゲームと教育の新しい関係に迫った。

局アナを辞め、eスポーツに人生を懸けた平岩康佑さんが語る、日本の教育の未来。

子ども部屋にひとり。ヘッドセットをつけて、遠くにいる見たこともない相手と会話しながらパソコンに向かってゲームをし続けるーー。

そんな子どもの姿を見たら、「教育に悪いのでは?」「健康を害するかも」と不安に感じる親は多いかもしれない。

ところが「近い将来、『何で3時間でゲームをやめてるの!?』と子どもを叱る日がくるかもしれません」と話す人がいる。

eスポーツ実況者の平岩康佑さんだ。ハフポストのネット番組「ハフトーク」に出演した平岩さんに、“悪者扱い”されがちなゲームの未来について話を聞いた。

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HuffPost

平岩さんは2011年からアナウンサーとして勤めていた大阪の朝日放送を、2018年に退職。eスポーツ専門のキャスターに転身した。

eスポーツとはオンラインの対戦型ゲームを「スポーツ」として競い合うもの。格闘ゲームやシューティングゲーム、パズルゲームなど、勝敗がつくゲームであれば、どれでもeスポーツになりうる。

世界の競技人口は1億人以上にのぼると言われており、各国でリーグが立ち上がったり国内外で様々な大会が開催されている。中には、賞金総額が100億円を超すものもある。

元々、大のゲーム好きだったという平岩さん。まだ専門のキャスターもおらず、日本ではまだ注目度の低かった日本のeスポーツを盛り上げる第一人者となるべく転身を決めたという。

たかがゲームでしょ? と言わせたくない…。

スポーツというのは本来、娯楽性、競争性、身体活動性の3つを前提とした競技とされることが多い。ゲームであるeスポーツは身体活動を伴わず、「スポーツではない」という意見も多い。

《日本ではまだまだ『たかがゲームでしょ?』という意見がありますが、こうしたゲームへの偏見をなくしていくために、自分が先頭に立ってやっていきたいという思いがずっとあります。》

自分自身が選手になるのではなく、実況という形で貢献したいという平岩さん。

《例えば、格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズをプレイする「ときど」という選手がいます。

彼は周囲に「ゲームばかりやって…」と言われないように、しっかり勉強をして麻布高校から東京大学に進みました。その後、就職せずにプロゲーマーの道を選んだんです。そして2017年、ラスベガスで開かれた世界最大級の格闘ゲーム大会EVOで、世界一になりました。

そんな彼を実況者が『日本一の大学まで行きながら、人生をストリートファイターに懸けた、ときどが世界一の座に輝きました!』と紹介してあげたら応援してくれる人も増えると思うんです。》

“東大卒”という肩書きもつきまとい、派手な動きよりも着実な技を積みあげる「ときど」は「プレイスタイルが寒い」などと批判されることも度々だった。

それでも自分の型をぶらさずに続けてきた彼の優勝に、ドラマが宿る。

実況の仕事というのは、こうした選手の背後にあるストーリーや魅力を伝えていくなのだという。 

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EVOでストリートファイターを戦った「ときど」選手
Joe Buglewicz via Getty Images

平岩さんは、高校野球を例にとり、こんな風に話す。

《例えば高校野球。うまい野球を見たかったらプロ野球を見に行けばいいですよね。それでもああやって1日約6万人が甲子園球場に足を運ぶ。それは、何点差もついていて絶対に勝てないのがわかっているのに、9回裏にユニフォームを泥だらけにしながら飛び込む姿を見たいから、じゃないですか。》

eスポーツも感動のポイントは同じだ、と平岩さん。

お互いに様々なカードを集めて戦うトレーディングカードゲーム「シャドウバース」で争う「シャドバ甲子園」。全国から数千人の高校生がエントリーする大規模な大会だ。3人がチームを組んで出演し対戦しあうこの大会で、平岩さんはこんなシーンを目撃した。

《試合が終わったあと、負けて出てきた選手の中には、泣きそうで喋れない子もいるんです。まだ高校生ですしね。ある時、「申し訳ないです…」とひとこと振り絞るとうつむいて喋れなくなってしまった子がいました。彼はそんなに悔しい状態なのに、勝った選手の肩を叩いて握手をして立ち去っていったんです。

その様子は、カメラにも映っていなくて、僕だけが見ていました。(実況者として)こうした自分にしか見えない選手の一面にも敏感でいたいな、と思いますね。

今後多くの方に「ゲームはスポーツじゃない」なんて言わずに楽しんでいただきたいですし、そういうのをうまく伝えていくのが僕たちの仕事だと思っています。》

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(c) Cygames, Inc.

子どもがゲームばかりしていたら不安…?

そうはいっても、子どもがeスポーツに興味を持ち、家でゲームばかりしていると不安になる親もいるのではないか?ゲームのやりすぎで依存症に陥る例などもある。

平岩さんは「本当にゲームが悪なのか、突き詰めて考えずに批判する人が多いのでは」と指摘する。

《オックスフォード大学の研究では、暴力性のあるゲームで遊ぶことが、攻撃的な行動に結びつくのか、という点における因果関係はなかったという結果が出ています。もちろん一つの研究でしかありませんが…。

おそらくファミリーコンピューターができてた時に、子どもたちが取り憑かれたように遊んでいたのを見て『これは悪いもの』と思った親たちがいたのではないでしょうか。

自分たちが経験してこなかったものに子どもが夢中になるのを見て、何となく敬遠しちゃったというのもあるような気がします。そういうところは、うまく取り払っていきたいです。》

「ゲーム=教育に悪影響」という印象からか、日本のeスポーツは「(海外に比べて)遅れている」と平岩さん。

《アメリカではeスポーツが強い、ゲームが上手な高校生は奨学金をもらって大学に行けるんですよ。100以上の大学がeスポーツが得意な学生に奨学金を出しています。

アメリカではゲームの家庭教師を子どもにつけるのも流行っています。「あなたは勉強じゃなくてゲームに才能がありそうだから、ゲームでいい大学に行きなさい」という親もいるみたいです。

これからは親が「何で3時間でゲームをやめてるの!?」と叱る日が来るかもしれませんね(笑)》 

 *

学校の勉強が苦手でも、ゲームなら勝つ喜びを味わえる。

運動が苦手でも、ゲームなら手に汗握り、自分らしく楽しめる。

そんな子どもたちの将来に、ひとつ選択肢が増えるのであれば、大人は一度立ち止まってもいいのかもしれない。