河野洋平氏、安倍首相の安全保障政策は「前のめり、非常に不安」

河野洋平・元衆院議長(元自民党総裁)は、安倍晋三首相は自身の言動が歴史修正主義との疑念を招いているとし、疑念を払しょくするのは、今夏に予定する戦後70年の「安倍談話」では歴代の「談話」の文言を継承することだとの認識を示した。
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Reuters

[東京 18日 ロイター] - 河野洋平・元衆院議長(元自民党総裁)は、ロイターのインタビューに応じ、安倍晋三首相は自身の言動が歴史修正主義との疑念を招いているとし、疑念を払しょくするのは、今夏に予定する戦後70年の「安倍談話」では歴代の「談話」の文言を継承することだとの認識を示した。

疑念が払しょくされない場合は、「日本の国際的信用を失墜させる」とし、冷え込んでいる日中関係や日韓関係は今より悪化し、日米関係への波及にも懸念を示した。

安倍首相が進める安全保障政策についても疑問を呈し、「武力をもってでも平和を創る」という前のめりの考え方に不安感を持つと批判した。

インタビューは17日に行った。概要は以下の通り。

── 戦後70年の安倍談話で、日本がアジア、世界に送るべきメッセージは。

「本来なら『50周年の時、60周年の時よりも、日本は近隣諸国との関係がよくなり、世界平和のためにますます貢献していきます』と言うのが一番出して欲しいメッセージだが、今の状況は少し違う」

「歴史認識について注目を集めるような言動が安倍さんにあるからだが、そうであるならば、安倍さんは今度のメッセージで、明確に、歴史認識も従来通りで変わっていない、歴史修正主義との疑念は全く当たらないということを明確に言うことが大事だ」

── 安倍首相の言動とは。

「この1年、集団的自衛権の行使容認の閣議決定や、武器輸出3原則の原則を緩めるなど、戦うための準備と思える作業がどんどんと進む。しかもそれが、国会での十分な議論や国民の認識を深めることもなく進むということからくる心配だ」

──歴史認識に関する発言も原因のひとつか。

「中国、韓国との関係で友好的に改善しようという言動はほとんどない。一方で、靖国神社問題では、安倍さん本人は非常に我慢して参拝もしないとしているが、彼の周辺の発言や行動を彼はあまりに許容し過ぎていると思う」

──「村山談話」を継承し、「植民地支配」、「侵略」、「心からのおわび」という3つのキーワードを談話に盛り込むかが焦点だ。

「疑念を払しょくするのに一番簡単なことは、そのまま継承しますということだというのははっきりしている」

「村山談話のキーワードで日本は20年間やってきた。内閣はそれを継承してきた。(安倍首相)ご自身の言葉が何なのかはわからないが、今ここでそれを止めなければならない理由は何なのか。そこに、皆、疑念を持ってしまう。それが中国の疑問であり、韓国の疑問であり、日本の国内にもそれに対する疑問がある。安倍さんはまだこの点について答えてはいない」

──謝罪し過ぎとの指摘もある。

「私はそう思わない。リーダーが謝罪するそばから、閣僚や特別補佐官が違うことを言ったりする。そして違うことを言った人を処罰するか、あるいは人事異動させるかというと、そういうことを一切しない。むしろ、非常にかばっている。それでは疑いが濃くなる」

「村山内閣の時にも、村山さんと違う発言をした人はいる。しかし、その時には、閣僚は辞表を出した。それによって、村山さんの信用は維持された」

──疑念が払しょくされない場合、最も懸念することは。

「日本の国際的信用を失墜させる。日中関係は今より悪くなり、日韓関係も非常に悪くなる。日中・日韓の関係がごたごたすると、米国は非常に困るだろう」

──日中関係は昨年11月以降、改善の動きが出始めている。逆戻りか。

「逆になる可能性がある。中国はいまだに安倍政権にかなり懐疑的だ。しかし、少なくとも安倍さんも中国に来て(APEC首脳会議の際に)習近平国家主席と言葉を交わしたのだから、不安を持ちながらも、一生懸命自分に言い聞かせて、手探りで進めている。しかし、ここで、そうでないことがはっきりすれば、やはり違うなということになり、(日本に対する)信用は非常にマイナスの方向に進む可能性がある」

「日韓は今年国交正常化50周年。(文字通りの)節目だ。この節目の時に、問題を克服すべきではないか」

──安倍首相が進める安全保障政策についての評価は。

「疑問を持っている。『積極的平和主義』をとるというが、集団的自衛権行使も容認する、武器輸出(の原則)も従来より緩める、自衛隊の海外派遣についても従来のやり方とは違うのだという」

「簡単に言うと、武力を持ってでも平和をつくるという前のめりの考え方に非常に不安をもっている。私はもちろん、国民が非常に不安を持っている。なぜか。それは、本当に民主主義の手順が踏まれているだろうか、国会での議論が民意に沿っているのかどうかということへの不安がある。圧倒的多数を持っている与党が思ったことをやるんだというが、それは必ずしも民主主義とは言えない。民主主義では、少数意見の尊重やもう少し丁寧な手続きがあるべきだ」

──安倍首相が意欲的な憲法9条改正について。

「絶対反対だ。日本は70年前の悲惨な戦争で、あれだけの人命を失い、あれだけ周辺国に迷惑をかけ、その反省のもとに新しい日本を出発させた。そういうことへの反省・記憶をどこかに置いて、またもと来た道を歩くのかという不安を、日本人は心の底に持っている」

──国民の不安を代弁する声があまり聞かれない。なぜか。

「選挙制度に原因がある。小選挙区制に変ったために、民意がうまく反映されなくなった」

「また、小選挙区制を導入したころから、派閥の力を弱めようとしてきた。複数の候補者が立てられる中選挙区制時代は、派閥の力が盛んだった。ところが、一人の候補者しかたてられないとなると派閥の力は弱くなる。権力に対してモノを言おうとする時、昔は、不利益処分を被りそうになっても、派閥がそれを守ってくれた。ところが、今、派閥の力が弱くなってしまい、一人の力で、一人のリスクでやらないといけないということになり、言いにくくなった。

(リンダ・シーグ 吉川裕子 編集:田巻一彦)

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