若一光司さん、性別確認の放送に激怒した理由明かす 「黙ってしまうと、報道が許すことに」【全文】

番組側は「本人の承諾は得たが、社会的な影響や人権上の配慮に欠けていた」と検証内容を明かした
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「かんさい情報ネットten.」の公式サイト
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読売テレビ(大阪市)のニュース番組「かんさい情報ネット ten.」が、見た目で性別がわかりづらい人を取材した際、リポーターが保険証を提示させたり、胸を触ったりするなどしてしつこく確認していた問題で、生放送中に厳しく批判したコメンテーターの若一光司さんが5月15日の番組に出演した。

若一さんは「こんなことが報道番組の名の下で許されていいのだろうかと、ものすごいショックと怒りで震えました」などと改めて心境を述べた。

いったい何があったのか

問題は5月10日の放送で起きた。

お笑いコンビが街に繰り出し、様々なことを調べる「迷ってナンボ!」のコーナーで、大阪市淀川区の阪急十三駅近くにある飲食店の店員から依頼を受け、お笑いコンビがリポーター役として、ある常連客の性別を確認するという内容だった。

この客は取材に対し、男性であると答えたものの、リポーターの2人は保険証の性別欄を見たり、胸の膨らみ具合を手で触ったりするなどして確認。

このVTRが終わった後、スタジオで出演していた若一さんが次のように怒りをあらわにした。

「あのね、男性か女性かどっちかという質問のやり方、これは許しがたい人権感覚の欠如ですね。個人のセクシャリティーにそういう形で踏み込むべきじゃないです。極めて……。そんなものよう、平気で放送できるね。どういう感覚ですか、これ。報道番組として。ちゃんと考えろよ」

「たとえご本人がテレビに出ることをご了解してたとしても、個人のセクシャリティーに対してそういうアプローチをすること自体が人権感覚、人権意識にもとります」

一方で、ともに出演していた中谷しのぶアナウンサーや沢口実歩キャスター、小島康裕・解説デスク、菊間千乃弁護士らは沈黙、Twitterでは若一氏の発言に賛同が集まる一方、ほかの出演者や番組制作陣に対して批判が相次いだ。

「本人の承諾は得ていたが...」

読売テレビは15日の番組に若一さんを招き、取材から放送までの経緯を明かし、問題点を検証するコーナーを放送した。

それによると、取材は放送から約1カ月前の4月16日。事前に決まっていたのは取材現場だけで、スタッフが男性に会ったのはこの日が初めてだったという。

男性の了承を得てた上で取材を進め、放送についても同意を得ていたという。

撮影した映像について、4月26日と5月3日の2回、読売テレビ社員の番組プロデューサーが点検した。

いずれも男性本人の承諾が得られているかや、その意向に変更がないかについては確認したが、放送することによる社会的な影響や人権への配慮については議論にならなかったという。

経緯を説明した山川友基解説委員は次のように反省の言葉を述べ、チェック体制を見直すことを明かした。

「プロデューサーは、プライバシーに非常に踏み込んだ映像だったため、これは本当にご本人の承諾が得られているのかと、真っ先に気になって確認作業をしました。ただ、そこでも社会的な影響、人権への配慮の部分についての思いは至らず、議論にはならなかった」

「2回のチェックはしているものの、実質的にはダブルチェックになっていなかった。担当プロデューサーは1回目にそういう意識がないわけですから、当然、2回目にも抜け落ちてしまうということは十分予想ができた、考えておかなければならなかったわけですけども、そこの手立てができなかったということでした」

山川解説委員は、問題が見過ごされた理由について、次のように結論づけて謝罪した。

「ご本人への取材に傾注するあまり、人権上の社会的配慮が欠如していました」

「街の中で一般人に取材をする場合は本人に承諾を取らなければならないという絶対的な基本ルールがあります。現場のスタッフはすべて自覚をしていて正しくやっていたが、一方で、放送においてより大切な、社会的にいろんな方にどういう影響が起きるのか、持つことになるのか、不快な思いをする方、実際に傷つく方、もしかしたら差別を助長してしまうことになるかもしれない、そうしたことに十分配慮しなければならないにも関わらず、その点が大きく欠如していたと大変大きな反省です」

また、山川解説委員は明言はしなかったものの、番組側に男性の性別確認を依頼した飲食店に苦情が相次いでいることなども示唆した。

「報道機関の取材というのは、多くの方々の信頼と信用に支えられて行なっています。そうした方々のご好意で取材に協力してくださったわけですけれども、結果としてそうした方々にご迷惑をおかけするという、言ってしまえば、実害を及ぼすような、ご負担をかけてしまうということさえも起こす事態となってしまいました。反省して、あらためておわび申し上げたいと思います」

番組は、検証内容を公式サイトにも公開した。

若一さん、声を詰まらせ...

放送当時、真っ先に批判の声を上げた若一さんはこの日、当時の怒りの心境や性的少数者への配慮などについて時折声を詰まらせながら明かした。

当初は、番組終了後にスタッフに指摘しようとも迷ったが、次のように思い、発言することを決めたという。

「今回のような、見た目で男性か女性か分からない方もたくさんおられる。そういう方がこれを見ていたら本当に心を痛めてるだろうな、と。あるいは、ひょっとしたら自分が街でこんなことをされるかもと思って、震えておられるだろうなと。そういうことを感じました」

「だから、これを黙って流したままで見過ごしてしまうと、テレビが、我々が、報道の立場として、こういうことが許されるのだということをまさに、言ってしまっているに等しいわけですから。もう、どんな批判が出ても、あるいは、私が発言することでどんな失敗につながっても、これはもう言うしかないと。そう思って声をあげました」

若一さん発言の全文

若一さんの発言の全文は以下の通り。

―――

今現在、私が感じていることを率直に申し上げたいと思います。

今ご紹介いただきましたように、私は10年前にこのten.という番組が始まった時点から、最初から関わってこの番組のスタッフと一緒にやってきました。

単にですね、出演日だけここに来て、座っているというコメンテーターという役割だけでなく、今現在、毎週水曜日に放送されております「若一調査隊」のようなですね、それ以前は若一ミステリーという名前でしたけれども、自分自身のコーナーを持って、いわば自分のコーナーを企画、出演も兼ねながらこの10年間、やってきました。

この10年前にten.が始まったときにですね、正直言いまして、この番組は、関西の夕方のニュース番組では一番成績の悪い、評価の低い番組だったと思います。

しかし、みんなで力を合わせて10年間(声を詰まらせる)、頑張ってくる中で、本当に多くの皆さんの支持を得られるような番組に成長しました。

そのことを私は大変うれしく思っていましたし、私自身もこの番組に強い愛着を覚えていました。

私は30年間、色んな形でテレビに関わってきましたが、もう来年には70歳になりますし、私自身のテレビ人生の最後をこの番組で終えようと決心して、自分なりにこの番組を務めてきました。

そういう私の目の前で、まさに生放送の現場で、今回のような本当に許しがたい内容のVTRが流されてしまいました。

本当にこういった現実に、まさか私自身が遭遇するとは夢にも思わないぐらい、これは大きな過ちだったと思います。

私自身がまずもって、その場でとてもショックを覚えましたし、怒りも覚えましたし、そして、それを流してしまって、結果、みなさんに大変、あるいは取材に協力してくださった方に大変なご迷惑をおかけしたこと、本当に、私自身の立場からも心からおわびしたいと思います。

ですが、実際にこういう問題が発生してしまったわけですから、単なる注意不足ということでは簡単に済ませられない、もっともっと本質的な問題がそこに潜んでいるということだと思います。

ですので、読売テレビおよびこの番組の関係者は、二度とこういったことを繰り返さないように、本当に心して反省し、なおかつさらに質の高い番組を提供できるように努力していただきたいと、今は第一にそう強く強く願っております。

(アナウンサーの発言をはさんで)

私が問題のVTRを見ましたのは、生放送の本番中が初めてでありました。

私は自分自身が関わっている若一調査隊というコーナーに関しては、その内容に関して、放送する前に、複数のスタッフと一緒に2度、少なくとも2度は確認して、それが本当に若一調査隊という名のもとに放送するに値するものなのかどうか確認、チェックをしております。

ですが、私が直接関与していないコーナーに関しましては、できるだけ視聴者のみなさんと同じ目線でいたいというようなこともありまして、この生放送の本番中で、視聴者の方々と同じ時間、それを見ているというのが大部分です。

今回もまさにそういう場面であのVTRが流されてしまったわけです。

正直に言いまして、私は見たときに、本当に怒りを感じましたし、もう、ショックを覚えました。

どういうことが目の前で流されているかと申しますと、見た目がですね、男性なのか、女性なのか、判然としない、はっきりとしない、そういった方のですね、性別を確認するために、その方のフルネームを尋ねたり、あるいはどこに住んでいるかを聞いたり、あるいは彼女がいるかどうか尋ねたり。

さらにエスカレートしてですね、「おっぱいありますか」と聞いてみたり。

本人のご許可をいただいてのことですけど、その、体にふれてみたり、さらに、保険証を見せてくれるようにお願いしてですね、見せていただいた保険証の性別欄の一部をカメラでアップしたりと。こういうことが行われました。

これは初対面の人に対する礼儀を失するという、そういうようなレベルではなく、完全なプライバシーの侵害であります。明らかなこれは、人権蹂躙(じゅうりん)です。

世の中には、見た目で一見して男性か女性か分からない方は、たくさんおられます。

古い時代には、世の中の性別は単純に男性・女性という、2つしかないんだという言い方が支配的でしたが、自然科学が進んだり、いろんなことが発達したり、あるいは当事者が自分で声を発するように、そういう風に社会が変わってくる中で、簡単な今までの意味での、男性か女性か区分できない、いろんなタイプのセクシュアリティー、性的な個性、アイデンティティーを持った方々が、ごくごく普通にこの社会に存在しているのだということが、すでに世界的にに共有される現実になっている。

にもかかわらず、こういった、見た目が男性か女性が分からないという一点をもって、何の問題意識も感じずに、その人のプライバシーを侵害してしまう。

こんなことが本当に、報道番組の名の下で許されていいのだろうかと、私はものすごい、ショックで怒りで震えました。

で、どうしたものかと自分で、どう対応するか迷いました。

もし「ちょっと待てよ」と、ここで自分が声を出してしまうと、私は性分として、どうしても冷静ではいられないものですから、怒鳴ってしまうかもしれない。

そのことで視聴者の方にまた別の不快感を与える可能性もあると思いましたし、まあ、終わってから番組のスタッフに問題を言おうと、「こんなバカなもんどうして流したんだ」ということを問題提起しようと。そういう選択肢もあるかなと、一瞬は思いました。

しかし、よくよく考えてみるまでもなく、今まさに私の目の前でそういった内容の放送がされているわけですから、それをご覧なって、傷ついておられる方がたくさんいるだろうと容易に想像できました(声を詰まらせる)。

私は本職が物書きですので、今までいろんな本を書いてきました。その中で、自殺関係の本も何冊か書いております。

その取材過程で、たくさんの自殺の現場やいじめの現場を見てきました。

その中には、自分の性的な個性が、セクシュアリティーがですね、いわゆる「一般的」でないということによって、いろんな差別を受けたり、いじめを受けたりして、自殺にまで行かざるをえなかった方もたくさんおられます。

ですから、そういう性的に「一般的」ではない、性的ないわゆる少数者の数は、みなさんが思っておられるよりもおそらく、多いと思います。

日本の統計で言いますと、7%か8%とか言われています。これは単純に計算しても国民の中に600万、700万の方がおられると、そしてその中には、今回のような見た目で男性か女性か分からない方もたくさんおられる。

そういう方がこれを見ていたら本当に心を痛めてるだろうな、と。

あるいは、ひょっとしたら自分が街でこんなことをされるかもと思って、震えておられるだろうなと。そういうことを感じました。

だから、これを黙って流したままで見過ごしてしまうと、テレビが、我々が、報道の立場として、こういうことが許されるのだということをまさに、言ってしまっているに等しいわけですから。

もう、どんな批判が出ても、あるいは、私が発言することでどんな失敗につながっても、これはもう言うしかないと。そう思って声をあげました。

そうしますと本当に、後で、たくさんの方から「若一さんのおっしゃることは理解できます」というお言葉をちょうだいしました。

ただ、同時に一部の方から、「若一さんのおっしゃっていることはよく分かるけども、あそこまで怒ることはないやろ」、あるいは「あんな怒り方をされたんで、突然私は自分が怒られたような気がして、非常に不快感を感じた」、あるいは「自分が怒られることに非常にトラウマがあって、恐怖感を覚えるタイプなんで、私自身がすくんでしまいました」と、いろんなご批判もいただきました。

それは本当に申し訳なかったと思います。

同じことを訴えるにしても、私自身がそれを表現するスキルが本当に乏しかったな、未熟だったなということは、つくづく反省しております。

ただ、私がそこで訴えたかったことは、画面に出ていますけど(出演当時の若一さんの発言が表示される)、正確に書き起こせば私はこういうことを言いました。

男性か女性か、そういうことを個人のプライバシーに踏み込んで確認するのは、それ自体が人権上の問題だということを言わせていただいたわけですが、そのことの本質は、私は間違いではなかったと思ってますが、表現の仕方に工夫が足りない部分があったかもしれないと、それは私も深く反省しております。

それから最後の2行ですけれども、たとえご本人が了解していても、こういうアプローチを取ること自体がだめなんだということを私が言ってるわけなんですけども、今回取材に対応してくださった男性の方が、現にテレビに出ておられるということは、我々も取材現場でちゃんとその方のご了解を得ていることはもちろん、間違いないわけです。

ただ、その方が出ることに、そしてああいう不正をしたことにご了解いただいて、納得していただいていても、そうでない受け止め方をする性的少数者の当事者は、テレビをごらんになっている数百万の中にはたくさんいらっしゃると。そう思いました。

だから私が声をあげることで、取材を直接させていただいた方にご迷惑になることは重々申し訳ないと思いながらも、結果的に私はそういう選択をしました。

本当にそのときに取材に協力してくださった方には心からおわびします。

そして取材協力してくださった方が「自分は決して不快感を持たなかった」「楽しく、取材にロケに対応した」と言ってくださっている、そのことは本当に、不幸中の幸いだと受け止めております。

ただ、そういう見た目が男か女かわからない、そういう人に対してはずかずかと、もうどんなにプライバシーを、人権を蹂躙しても通用してしまうんだという、間違った、根本的に間違った認識だけは、世の中に広まってほしくなかった。

少なくとも報道番組としては、そういう差別や偏見を助長するようなことだけは、してほしくなかった、止めたかったというのが、私の率直な思いです。長くなってすいません。

(山川解説委員による取材経緯の説明をはさんで)

私自身に関しまして、ひょっとしたら若一は今回のことでクビにされるんでないかと、この番組からですね。

あるいは、若一さんご自身が自ら番組を降板するのではないかという、いろんなご意見をいただきました。

ですけど私はこのまま、この番組を続けせていただきます。

今回本当に我々、間違ったことをやりましたけど、それを指摘したものの責任として、この番組がよりよくなっていく、そして、こういう間違いを二度と起こさない、質の高い番組に育てていく過程に、私も能動的に関わっていきたいと思っています。どうかよろしくご理解くださいますように。

この問題が先週の金曜日に発生した直後から3日間、私はもうほとんどパソコンの前に座り込んで視聴者のみなさん、あるいはそれ以外の方が今回のことをどのように受け止めているのか、どんなご意見をお持ちかを、Twitterの数にするとおそらく、1万4000、1万5000件はあったと思うんですけど、可能な限り目を通しました。

いろんなご批判、ご賛同、私ができる限り目を通しております。そういう意味でも色々とご批判くださった方々、反応してくださった方々、心から感謝しております。

その中には、「若一さん、あんた自身が無意識のうちに女性アナウンサーに対してセクハラまがいの冗談言っていることについて気付いていますか」というような鋭いご指摘もいただきました。

私もそういったことも改めて自己批判しつつ、今後ともこの番組で頑張っていきたいと思っております。