小泉純一郎元首相が9月6日午後、日本外国特派員協会で「『トモダチ作戦支援基金』設立への思い」と題し、基金の設立に至った経緯などを語った。ハフポスト日本版では会見の模様をFacebook Liveで生中継した。
会見で小泉氏は、「元米兵は放射能の被害で亡くなった」「医学的に証明できるかできないかは関係ない。常識で考えて、頑健だったのに現実として病に苦しんでいる兵士がいる。彼らのために何かできないかと考え、常識で動いている」と訴えた。これに対し、内科医の上昌広氏はハフポスト日本版の取材に対し、「イデオロギーに基づく判断は適切な治療の機会を損失する」と指摘した。
■「米兵に会い、ほっとけないと思った」
小泉氏は会見の冒頭、「人から聞いたよりも、直に被害者の話を聞いた方が良いかなと思い訪米した」「20〜30代の10人の健康被害にあった兵士の皆さんに会った」と5月の訪米について語った。小泉氏によると、元兵士らは「(作戦当時)放射能汚染の中にいるんじゃないかという状況だった」と話しており、作戦終了後に鼻血や下血など体の調子が悪くなり病院で診察を受けたが「放射能の影響によるもの」という診断は受けなかったという。小泉氏によると、これまでに7人が亡くなり、300人も病気で苦しんでいる兵士が出てきており、「これはほっとけないなと思った」と、元米兵を支援する基金を設立した動機について語った。
また、「直に病気で苦しんでる兵士の話を聞いて可哀想ですねというだけでお終いにするわけには行かないと思った」とした上で、米軍の「(トモダチ作戦 の)健康被害は放射能によるものとは断定できない」との見解を紹介。「医者でない私が言うのも何だけど、断定できないにしても頑健な兵士がこれほどの被害を浴びて大体、放射能の被害だと常識で分かりますよ」と話した。
そして、基金設立に「一民間人だから資金もない。できるだけ多くの国民に知ってもらいたい。そう思い、7月5日にこの基金を立ち上げた。なんとか1億円は集めて、それを今後の治療などに役立てばいいなと思う。そう思って、募金活動を始めている」と、基金絵の支援を求めた。
■専門家指摘「イデオロギーに基づく判断は適切な治療の機会を損失する」
内科医の上昌広氏(特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)は今回の小泉氏の訴えを受けて、ハフポスト日本版の取材に対して以下のように見解を話した。
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日本のために働いてくださり、その後健康を害した方々を支援することに異論はありません。しかし、広島の原爆被害者の研究でも明らかになっていることですが、亡くなった方の死因のすべてが被曝や白血病によるものではありません。被曝と健康被害の因果関係については、冷静な科学的な研究が必要です。
トモダチ作戦の乗組員が健康を害した理由としても、例えば過剰な勤務や遠隔地での勤務、過労で健康を害したという可能性が十分に考えられます。
にもかかわらず、小泉氏はイデオロギーに基づく正しくない判断をされている。それは良くない。今健康を害している元乗組員がいるのであれば、一人ひとりの患者さんを虚心坦懐に診察すること、原因を究明して全力で健康を守るということが大事です。イデオロギーに基づいて判断を誤ることは正しい医療を受ける機会を遅らせることにもなりかねません。
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■元アメリカ兵らが訴訟を展開、10億ドルの救済基金設立を求める
2011年の東日本大震災で、アメリカ軍は原子力空母ロナルド・レーガンなどを東北沖へ派遣し救援活動「トモダチ作戦」を展開したが、2012年に「東京電力が正しい情報を出さなかったため被曝した」として元空母乗組員らが連邦地裁に提訴。東京電力側に10億ドル(約1100億円)の救済基金設立を求める集団訴訟を起こした。その後原告は400人ほどに増加。東京電力側は「政治的問題。裁判になじまない」と訴えの却下を求めている。
小泉元首相は5月に訪米し、元兵士ら10人と面会。「救援活動に全力を尽くしてくれた米国の兵士たちが重い病に苦しんでいる。見過ごすことはできない」「原発推進論者も反対論者も、何ができるか共同で考えることだ」と訴えた。7月には細川護熙元首相らと共に「トモダチ作戦被害者支援基金」の設立を発表している。
アメリカ国防総省は2014年に公表した報告書で、被曝は「極めて低線量」とし、健康被害との因果関係を否定している。
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