忙しくて作れなくても安心。 離乳食の次に食べるごはんを届ける「子どもの食卓」の挑戦

離乳食の次は「幼児食」。てんやわんやな毎日でも、丁寧に作られたごはんを子どもに食べさせたい。
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家族、特に味覚が敏感な幼い子どもには、美味しくて身体にやさしいごはんを毎日食べさせたい。

そうは思っていても、仕事や家事をして、元気溢れる1歳児と遊んで、夕方にはクタクタ。丁寧に料理をする気力も時間もなく、お腹が空いたとグズる子どもに、お菓子やパンなどを与えつつ、毎日同じような簡単メニューに偏りがち。

一生懸命に料理したって、食べてくれないこともある。

悪気はなさそうだけれど、料理が床に吹っ飛ぶこともしばしば。

薄味すぎたかな?と味付けを濃くしてみたり、結局必ず食べてくれる好物を与えたり......。

そもそも、離乳食を終えた小さな子どもにどんな食事を与えたらいいの?

待ったなしの食卓は毎日がてんやわんや、手間をかけない罪悪感や不安も渦巻いて、なかなかどうして笑顔で食卓が囲めない。

私だって、誰かが丁寧につくってくれたごはんをゆっくり食べたい。

そんな思いを抱いていた時、7年来の友人である権寛子(ごん・ひろこ)さんが創業した「子どもの食卓」と出会った。 

「子どもの食卓」は、離乳食を卒業し、少しずつ大人の味に近づいていく小学校低学年頃までの“幼児食”を提供する会社。添加物、農薬、化学肥料が使われていない、こだわり抜いた旬の食材と調味料で、子どもたちの「生きる力」を育む食事を届けてくれる。 

3月、権さんに声をかけてもらって、「子どもの食卓」が提供するお弁当の試食会へ足を運んだ。そこでお弁当を食べたと時に受けた、やわらかな衝撃は今も忘れない。

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「子どもの食卓」提供提供

自然で豊かな色彩、優しい和の匂い、五味(塩味、甘味、酸味、苦味、旨味)を感じる滋味深い味わい、舌で弾む食感……。五感が刺激され、ヘルシーなのに満足感があった。何より、美味しい。

その日、帰宅とほぼ同時に、お土産に持ち帰ったお弁当の蓋を開けると、1歳半の娘は前のめりで、夢中になって、表情をコロコロ変えながら、ペロリと完食。 

私と娘は食卓を囲んで笑い合ったーー。

感激すると同時に、こだわりのお弁当はどのようにして生まれたの? 今後の展開は? そんな疑問が生まれた私は、「子どもの食卓」代表の権寛子さんに会いにいき、話を聞いた。

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Kaori Sasagawa
「子どもの食卓」代表の権寛子さん

 「離乳食の次に出会う味」を届ける 

ーー試食会でいただいた「子どもの食卓」のお弁当が美味しくて優しくて、本当にこだわり抜いてつくられている、とことん親と子どもに寄り添ってくれるお弁当だなと感じました。

わあ、嬉しい!  “本物”を届けたくて、食材は無農薬のお米に野菜、天然の旬な魚、調味料は発酵されたものを中心につくっています。

包材はプラスチックではなく曲げわっぱ。こだわりすぎて、お弁当はほぼ原価で販売しているほど(笑)。

それでも私たちは、「離乳食の次に出会う味」として、薄味の和食の“幼児食”を知ってもらい、お母さんやお父さんに子どもの食卓について考えるきっかけを提供できたらと思っています。

ーー幼児食という概念をちゃんと持ってなかったので、まさに、子どもの食を考えるきっかけになりました。

味覚は3歳までに決まると言われていて、その時期は特に、味覚を感じる味蕾(みらい)という器官から脳への経路をどれだけつくるかが重要です。1日3回の食事のなかで、五感を刺激して、いかに「美味しい」を感じることができるか。

この時期の子どもたちにたくさんの「美味しい」を感じてもらうために、子どもの食卓では、「まごわやさしい」=まめ、ごま、わかめ(海藻類)、やさい、さかな、しいたけ(きのこ類)、いもを中心に献立をつくり、「ひと手間」をかけて、食材本来の味を最大限引き出すことを大切にしています。 

ーー 親目線で、子どもにとって理想の食事だと思います。でも実際には、毎日お弁当を買いに行くことはできないし、かと言って、自分でなかなかひと手間をかけて丁寧に料理もできない。

そうですよね。お弁当は、忙しいお母さんが料理ができない日でも、安心して、笑顔で食卓を囲めるように、子どもの食の選択肢を増やしたいと思ってつくりました。 

2018年10月に100食限定で発売をスタートして以来、とても嬉しいことに、大きな反響をいただいて、1時間で完売してしまうこともよくあります。

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「子どもの食卓」のお弁当

ただ、食品添加物はもちろん、砂糖・塩・油もほとんど使っていないため、保存が効かず、賞味期限は1日。どうしても時間と場所に制約されてしまい、届けられる人が限られてしまいます。

それに私自身、消費者の立場になると、疲れた日に1歳と3歳の2人の子どもを連れてお弁当を買いに行くのも大変だし、ほぼ原価だけれど価格も高い。 

そこで私たちは今、無添加のこだわりの冷凍食品の開発も進めていて、「ご飯を作れない日も安心。子どもが食べられる冷凍食品をあなたへ」というクラウドファンディングに挑戦中です。

ーー冷凍食品はものすごく需要がありそうですね。

全国のお母さんたちから「冷凍食品をつくってほしい」という声がたくさん届きました。

そもそも、子どもの食卓では、私自身が主婦として、母として、子どもたちに食べさせたい、本当に欲しいものをつくっているんです。

私は、もともと料理が得意でないし、肩に力が入るばかりで空回りしていたこともあったので。

手間暇かけた料理を毎日しなくても、疲れた日は、ごはんと具沢山のお味噌汁と納豆だけで十分。食材の旨味を引き出す「ひと手間」も、知ってしまえば難しいことではなくて。

お母さんやお父さんに肩の力を抜いて、笑顔で子どもとの食事を楽しんでもらいたくて、Instagramでの発信や料理教室の開催など、伝える活動も積極的にしています。また、医師の監修を受けて、勉強会も定期的に開いて、私たちも学び続けています。

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「子どもの食卓」提供
権さんが開く勉強会

キャリアを手放し、専業主婦、そして起業へ

ーー子どもの食卓を立ち上げた経緯、その背景についてもお聞きしたいです。7年前に出会った頃の権さんは、金融機関に勤めるバリッバリのキャリア志向の人でしたよね。

ふふふ。たしかにその頃は、朝5時半に起きてモーニングサテライトを観て、7時に出社して、仕事して、外食して帰宅、という生活をしていましたね(笑)。

外食も仕事も大好きで、出産後も、保育園に預けて会社に戻る予定だったんです。 

ーーそこから起業に至ったのは、何かきっかけがあったんですか?

マーガリンなんです。職場に復帰するつもりで保育園の見学へ行ったら、給食でマーガリンが出ていて。ちょうど、アメリカでトランス脂肪酸の食品添加が禁止になることがニュースになっていた時期で、子どもには食べさせられないと思っていたのに、どうして?と疑問を持ちました。

気になると、とことん調べたくなる質(たち)なので、加工食品診断士の資格を取るためのオンライン講座を受講して勉強したんです。

食品添加物を知れば知るほど、幼児期の子どもたちが食の選択肢を選べないことが怖くなりました。1歳半の娘が、外食が続いたときに癇癪(かんしゃく)を起こすと感じることもあって、子どもたちの日々の食事が心と体につながっていることは肌感覚でわかっていたので。

安心できる給食だと感じた他の保育園は入れませんでした。保育園で選ぶことができないのなら、自分でつくるしかないと思って、会社を辞めて専業主婦になりました。

 ーーそんなにあっさり⁉︎  キャリアを手放すことに、迷いや葛藤はなかったですか?

なかったですね。働くことはいつでもできると思ったので。一方、食がつくる子どもの未来を守ることは今しかできない。専業主婦になる選択は、私にとって自然なことでした。

でも、もともと料理は一切してこなかったし、知識ばかり詰め込んで頭でっかちになっちゃって、苦しい時期がありました。

添加物や栄養学を学んで、ワークショップを開いて、趣味として子どもの食事にいいことを伝えていたんだけれど、娘は野菜嫌い。

薄味の和食がいいとわかっていながら、娘が喜んでくれるからと言い訳をして、ケチャップを使った洋食を食べさせる。そんな矛盾が苦しくなっていた頃に、うすいはなこの料理に出会って、衝撃を受けたんです。

 ーー子どもの食卓の料理監修をしている料理家のうすいさんですね。

はい。うすいがつくってくれた蒸しただけの人参がすっごく甘くて、美味しくて。感激していたら隣で、野菜を食べなかった娘がホーロー鍋にかぶりついてその半分をペロッと食べちゃったんです。

その時に、ああ、子どもにとって大切な美味しさは、ただ薄味であることなんじゃなくて、野菜の旨味が引き出された味なんだということに気づいて。

この気づきを、私と同じように子どもの食に困っている人に伝えたい!と思って、うすい監修のお弁当をつくることを決めて、すぐに会社を立ち上げました。

 ーーすぐに! これまた、専業主婦から起業までも、迷いがなく一直線ですね。

子どもの食の選択肢がないなら自分でつくろうと、この時も自然な選択でしたね。

でも、会社を立ち上げてすぐに第二子の妊娠が発覚して。子育てをしながら、ゼロからお弁当事業を始めるまではなかなか怒涛でした(笑)。

まったくの素人で何の伝手もなかったので、巷で売られている自然食品のお弁当を食べて会社に直接問い合わせたり、オーガニックレストランに通いつめて話を聞いたり。包材から食材、調味料まで、一つ一つ足を使って、納得できるものを見つけて組み立ていきました。

 ーーすごい。育児しながら妊娠中にリサーチされたんですね。

息子が2018年2月に生まれて、10月にお弁当販売をスタートして、課題が見えてきたので、今はより多くの人に届けられる冷凍食品の開発に取り組んでいるところです。

冷凍食品は、お弁当よりも使える食材が限られているし、多くの工程を踏まなければなりません。高い技術を持ち小ロットでも対応してくれる工場を探すことからはじめました。

添加物を使わずに薄味で、解凍した状態でちゃんと美味しい冷凍食品をつくるまでは、本当に長い道のりで、まだその途中にいます。

 

日々の食事がつくる20年後の子どもたちの未来

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Kaori Sasagawa

ーー産後、幼い2人の子育てをしながら、事業を立ち上げて、お弁当、さらに冷凍食品まで……! 権さんのそのパワーの源はどこにあるのでしょう?

私は、20年後の子どもたちの未来を守りたいんです。食事が子どもたちの健やかな心と体をつくるという確信があるので、今、子どもたちにとって美味しい食の選択肢を増やしたいし、お母さんやお父さんたちにはご飯を作れない日も笑顔でいてほしい。

忙しい日々の中で、子どもを思うからこそ、食について悩む親に寄り添えたら、と。

子どもが大きくなると同じ情熱を持って向き合えないかもしれない、と思う危機感もあるから、今、幼い2人の子どもの育児と向き合う母・主婦の目線で、事業を前に進めていきたいと思っています。

子育てをしながらできることに限りがあることも実感しているので、何もかも欲張りすぎず、一歩一歩、誠実に、地道に、コツコツ積み上げていきます。

……...

「ああ、壮大な夢を描いちゃって、大変だ(笑)!」

インタビューの最後にそう笑った権さんは、大きな夢に向かって、まっすぐに、ひたむきに、突き進んでいくのだろう。冷凍食品は今年、2019年の秋頃の提供を目指しているそう。

子どもの食卓に出会ってから、我が家には、一汁一菜を中心に、納豆や豆腐、切っただけのトマト、蒸したトウモロコシ、キュウリに味噌をつけたもの……発酵食品や旬の野菜が並ぶ。料理と呼べるほどのことではないかもしれないけれど、旬な食材の力が「美味しい」をつくってくれる。 

なかなか旬の魚を食卓に並べることは叶っていないし、外出すれば相変わらず、我が子はパンや味の濃いものも食べているけれど、そんな日も、とにかく娘と楽しい食卓を囲むことを心がけている。 

「子どもにとって、一番嬉しいのは、笑顔で食卓を囲めることだと思うから」

お母さんの笑顔を守るために子どもの食卓を立ち上げ、奔走する権さんのこの言葉を信じて。

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「子どもの食卓」提供

(取材・文:徳瑠里香 編集:笹川かおり)