米保守派の草の根運動「ティーパーティー」の資金源として知られる大富豪コーク兄弟が、経営難の米トリビューン社傘下のロサンゼルス・タイムズ(LAT)やシカゴ・トリビューンなど8紙の買収を検討していることが明らかになったと、21日付の朝日新聞デジタルが報じた。
「買い手として浮上したのは、石油化学大手などを経営するチャールズ・コーク氏(77)とデビッド・コーク氏(73)の兄弟。米フォーブス誌によると、資産は各340億ドル(約3兆5千億円)に上るとされる。
LATはメディア王ルパート・マードック氏も買収に関心があるとされるが、8紙をまとめて売りたいトリビューン社には、兄弟が「最も魅力的な買収者」(ニューヨーク・タイムズ=NYT)と伝えられる。同紙によると、兄弟の代理人はすでにLAT発行人と会ったという。
(中略) 今回の買収の動きについて「兄弟の考えを広める大がかりな土台とする」(NYT)との見方が広がる。兄弟は保守派批判を繰り返す既存メディアに不満なうえ、大統領選敗北の焦りから、政権奪還の手段としてメディアを挙げてきたとも伝えられる。
(2013/05/21 朝日新聞デジタル「政権奪還に新聞利用?」より)
コーク兄弟とは何者か。フリージャーナリストの中岡望氏のブログに詳しいので、以下、引用する。
コーク兄弟は、アメリカの保守主義運動を裏から支える大スポンサーである。
コーク兄弟が経営するコッチ・インダストリーズは1940年に父親のフレッドによってカンサス州に設立され石油、化学製品、天然ガス、パルプ、農薬、金融など幅広く業務を行っているコングロマリット企業である。2009年の売り上げは1000億ドルに達し、従業員数は8万人を越える大企業でもある。
トリビューン社は傘下にロサンゼルス・タイムスやシカゴ・トリビューン、バルチモア・サンなど8紙を抱えるリベラル色の強い老舗メディア企業だが、リーマンショックの2008年に日本の民事再生法にあたる米連邦破産法11条(チャプターイレブン)を申請して「倒産」。経営危機から脱却していない。複数の米紙の報道によると、傘下の8紙をまとめて購入すると申し出ているのは、現在のところコーク兄弟だけのようだ。
これに対し、ロサンゼルスでは市民の反対デモも起きた。14日付の本国版ザ・ハフィントン・ポストによると、労働運動家や環境活動家、NPOスタッフらが「コーク兄弟は要らない」などと書いたプラカードを掲げ、トリビューン社(シカゴ)の大株主企業の本社前で気勢を上げた。記事の中で、あるNPOの職員の女性は「貧富の差は良いことだとし、気候変動を認めないティーパーティー運動を支えた連中よ」と話した。(2013/05/14 The Huffington Post)
また、5月9日付のザ・ハフィントン・ポストの記事では、ロサンゼルス・タイムスの社内表彰式で、社員の半数は「コーク兄弟が買収したら会社を辞める」と表明したと報じている。(2013/05/09 The Huffington Post )
米国の新聞業界を取り巻く状況は厳しい。新聞各社は発行部数減に悩み、富豪や実業家らによる買収劇も後を絶たない。2007年にはメディア王・ルパート・マードックが米ウォールストリート・ジャーナル紙を買収。オーナーが編集方針にまで干渉するようになり、優秀なベテラン記者たちは相次ぎ会社を去った。また、「オマハの賢人」と呼ばれる著名な投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資持株会社バークシャー・ハザウェイは昨年、米国南東部の地方紙63紙を買収。フランスの老舗ル・モンド紙も2年前に当時のサルコジ大統領の反発をはねのけ、左派系の企業家グループによる買収提案に応じている。
米の大富豪兄弟による老舗新聞社の買収問題について、朝日デジタルの記事はこう結んでいる。
米新聞協会によると、米紙の広告収入は2012年、紙・デジタル計223億ドル(約2兆3千億円)と、05年比で約55%減。経営環境はなお厳しい。 『買い手がつかない方が深刻では』との声もある。
(2013/05/21 朝日新聞デジタル「政権奪還に新聞利用?」より)
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