イスラム国からのコバニ奪還、シリア人の多くは疑問視「アメリカの戦略が理解できない」

クルド人部隊がアメリカ主導の空爆の支援を受け、シリア北部のクルド人の街コバニを過激派組織「イスラム国」から奪還した。しかし、シリア人は口々に「賞賛には値しない」という。
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SANLIURFA, TURKEY - OCTOBER 28: (TURKEY OUT) An explosion following an air-strike in the Syrian town of Kobani from near the Mursitpinar border crossing on the Turkish-Syrian border in the southeastern town of Suruc in Sanliurfa province October 28, 2014. It has been reported that 150 Iraqi peshmerga from Iraq's northern Kurdistan region, armed with American weapons, are expected to arrive in Turkey later today following authorization of their deployment last week. The Iraqi peshmerga fighters will fly into Turkey and travel by land across the Syrian border to provide logistical and artillery support to their Syrian counterparts, but will not be involved in frontline combat. (Photo by Kutluhan Cucel/Getty Images)
Kutluhan Cucel via Getty Images

ガズィアンテプ(トルコ)――1月26日、クルド人部隊がアメリカ主導の空爆の支援を受け、シリア北部のクルド人の街コバニを過激派組織「イスラム国」 (ISIS)から奪還した。しかし、シリア人は口々に「賞賛には値しない」という。

たしかにアメリカはこのニュースを称賛し、クルド人はトルコ国境付近の道路に躍り出て歓喜している。しかし、シリアのバシャル・アサド政権は国民に「たる爆弾」(円筒形の容器に火薬や石油類を詰めた爆弾の通称)を落とし続け、アメリカは有効な手段を打っていない。イスラム国は、シリアのあらゆる場所で攻勢を強めつつある

アメリカ政府高官は、ハフポスト・ワールドポスト編集部に対し、「コバニはアメリカ政府にとって重要な戦いだった」と述べた。イスラム国を国境の街コバニから追い出すことは、過激派の最も重要な資産を直接狙うという、高いレベルで過激派に向き合う方法であったという。その資産とは不敗神話だ。軍の司令官は「コバニはイスラム国軍にとって重要な拠点である」とも述べた。アメリカ主導の有志連合は、重要な拠点を特定し、空爆の標的にしようと考えていた。実際に、2014年9月からの有志連合による空爆の75パーセントが、コバニとその周辺地域を標的としたものだ。

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しかし、多くのシリア人が、コバニの重要性が強調されすぎているとワールドポストに語った。

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2015年1月28日、シリアの国境の街、コバニの東部を確認しながら無線で話すクルド人男性。クルド人部隊は、1月26日にトルコ国境の戦略的要衝である街を取り戻した。これはシリアとイラクでの野蛮な猛攻撃によって領域一帯を掌握していたジハーディストたちにとって、象徴的な一撃となった。 (Photo: BULENT KILIC/AFP/Getty Images)

「コバニ奪還は成果とは言えない。小さな街だからだ」。政権が支配するシリア西岸の都市、ラタキアに住む29歳のシリア人作家、サリム・アルオマル氏は語る。「『イスラム国』が掌握する、コバニより大きな都市は他に数十ある。政権支配下で攻撃を受けている都市も数十ある」

アルオマル氏は、アメリカはイスラム国を支配するコバニを数か月にわたって空爆を行ったが、アサド政権には向き合っていないことに腹を立てていると語った。シリア大統領による冷酷な支配は、2011年の大規模な平和的な民主化運動につながった。この運動は政府から暴力的な弾圧を受け、全面的な内戦となり、20万人以上の命が奪われたと推定されている

「アサド政権はシリア人を大量に殺害している」。アルオマルは憤る。「それなのに、アサド大統領はアメリカの利益を脅かさないから、気にもとめない。イスラム国は彼らの利益を脅かすから、イスラム国とだけ戦う。アメリカは自らの利益が絡まなければシリアで戦争が起きても何もしないだろう」

アメリカはかつて「アサド大統領の退陣を模索している」と言っていた。しかし、アサド大統領の退陣は、軍事衝突から行われるのではなく、政治的プロセスを移行を経て行われるべきだという姿勢を崩していない。これは、アメリカが支援する反体制派にとってもはっきりとしたメッセージとなった。反体制派に対しては、2013年からCIAが極秘にアサドとの戦いの支援を行っていた。現在では、アメリカ政府はイスラム国の方が重要な脅威だと考えている。最近の兆候から判断すると、オバマ政権はアサドとの対立を後退させ、イスラム国との戦いでの彼の支援を望んでいるのではないかと思われる。アサド政権とアメリカは、いまでは同じイスラム国という標的を攻撃していることに、多くのシリア人が気づいている。この行動は見え透いたもので、受け入れられない協働だと考える人もいる。

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2014年9月20日、反体制派が支配するアレッポ北部にシリア政府軍がたる爆弾で攻撃、救急部隊が怪我を負った子供を救出する(Photo credit should read KHALED KHATIB/AFP/Getty Images)

23歳のシリア人難民マラクさんは、「アメリカのシリア戦略が理解できない」と語る。マラクさんは教師をしていたが、イスラム国が支配するシリア北部のアレッポ行政区マンビジの家を捨てた。彼女は、いまはトルコ国境の街の小さなスーパーマーケットで働いている。

「コバニが解放されたのはいいことだ」とマラクは話す。「ただ、アメリカがコバニを重視する理由がわからない。シリアの他の地域で起こっていることと比べれば、何でもないことなのに」

戦争が始まって4年。国は引き裂かれ、多くのシリア人が希望を失いつつある。ダマスカスに住む32歳の活動家、ムタセム・アボウ・アルシャマット氏もその1人だ。アサド大統領の支配が終わる兆しが見えず、イスラム国が領土をますます拡大する中、彼は最悪の事態を恐れている。

アルシャマット氏は、シリア紛争でのアメリカの関与を注視してきた。本当にイスラム国の方が大きな脅威だと思うかと問われた彼の答えは、明確で断固としたものだった。

「問題はダマスカスにある」。彼は言った。アサド政権のことだ。「ダマスカスからすべてが始まった」

「その反応はラッカで起きている」。彼はそう付け加えた。ラッカは、イスラム国が事実上の首都と主張している都市だ。彼の意見では、イスラム国の出現は、政権の行動と、アサドが国民を暴力で弾圧した後に起きた無秩序状態の結果である。アルシャマット氏は、国際社会にはもっと早く介入しなかった責任があると話す。

「残る問題の解決策を見つける前に、我々は首を切り落とされてしまう」と彼は言う。

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2015年1月28日、シリアの街、コバニ (アイン・アル=アラブとも呼ばれる) 中心部の街路での戦闘後の残骸の中を歩くクルド人兵士。(Photo: BULENT KILIC/AFP/Getty Images)

一方、アメリカが穏健だと考えていた反体制派は、約束されていた訓練と武器の提供を受けていないと語る。バラク・オバマ大統領は、反体制派がアメリカの支援を受けてイスラム国と戦うことを望んでいると述べた。しかし、反体制派は、それなら武器をアサドに渡す方がましだと語っている。穏健な反体制派を訓練し、武装させ、アサド政権と戦わせるというCIAの目論見は失敗だったとして、強く非難されている。兵士は、限られた武器と装備の供与は、十分というにはほど遠いと話し、気まぐれで所属グループを変えてしまう反体制派や、アメリカの武器が間違った相手に渡ってしまう問題などを挙げた。

現在、アメリカはアサド政権と反体制派の内戦に資源を投入せず、イスラム国との戦闘に集中している。

アメリカは空爆作戦に加えて、10月にコバニを防衛するため、クルド人の軍隊に弾薬や武器、その他の物資を供給した(この物資は、対イスラム国作戦でアメリカとパートナーを組むイラクのクルド人によって供給された)

2015年1月、アメリカ国防総省はイスラム国との戦闘に向けてシリアの反体制派を訓練するため、400人以上のアメリカ軍を派遣すると発表した。そして、オバマ政権は、最近イラクでイスラム国と戦うクルド人とイラク人の兵士を訓練する3000人のアメリカ人アドバイザーの派遣を終了させた。政権の努力を阻止しようと考える懐疑的な議員もいる。彼らは、終わりのない軍事作戦や、軍隊の使用についての支出承認を議会で通すことについて懸念を表明している。

「我々の第一の敵はアサド政権だ」。アブ・フセインと名乗るシリアの反体制派戦闘員はそう話す。彼は自由シリア軍第一沿岸部の司令官だ。自由シリア軍は、ラタキアでシリア政権と戦っている。彼はアメリカが2014年に1000人以上のメンバーがいる彼の戦闘部隊に対し、訓練と武器を提供すると約束したと主張する。彼らはいまも待ち続けている。

フセイン氏は、部下の兵士たちがアメリカから受け取ったリストを読んだ。車、トラック、テント、ブルドーザー、薬品、通信端末。国名は明かさなかったが、他の国から提供を受けたアメリカ製対戦車ミサイル「TOW」を保有しているとも主張する。いまだアメリカは約束した武器を直接提供していない。

いま彼は、アメリカが以前のアサド政権打倒に対する要求の重要度を下げ、立ち位置を変えようとしている可能性があると感じている。これがアメリカの公式な方針になれば、フセイン氏は、自らの立ち位置も変え、アメリカとともに動くことを一切拒否するだろうと話す。

「アメリカには、我々の第一の敵、アサド政権と戦うため、訓練をしてほしい」と、彼は話す。「我々は、政権と戦う以外の『目的』では、どのような支援も受けるつもりはない」

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2015年1月28日、シリアの街、コバニ (アイン・アル=アラブとも呼ばれる) 中心部に立つクルド人の子供たち。 (Photo: BULENT KILIC/AFP/Getty Images)

ガズィアンテプからザヘア・サイード記者、ワシントンからアクバー・シャヒード・アーメッド記者が寄稿

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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