現役大学生 ×上西教授 学生にもワークルールの知識を!

学生たちが働く現場はどうなっているのか。驚きの実態が語られた。

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厚生労働省の調査によると、アルバイト経験のある大学生の6割が何らかのトラブルを経験したことがあるという。学生たちが働く現場はどうなっているのか。トラブルから、どう身を守ればいいのか。

バイトや就活をめぐる問題に着目し警鐘を鳴らす法政大学の上西充子教授と、2つのバイトを掛け持ちする都内の大学3年のAさんがフリートーク。驚きの実態が語られた。

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右:Aさん 都内の大学3年生

左:上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授

変わる学生バイトの世界

上西:学生のアルバイトというと、オトナ世代には「正社員の補助的な仕事で責任も負わない」というイメージがあるでしょう。でも、授業の中でバイトをめぐる悩みやトラブルを聞くようになると、アルバイトに費やす時間の長さや劣悪な労働環境は想像以上でした。大学生もワークルールの知識を持ち、自分を守る術を身につけてほしい。そんな思いで『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』を書いたんですが、実は、まわりのオトナたちにこの話をすると「嫌なら辞めればいいのに」と言う。辞めるに辞められない状況がわかってもらえない。そこで、当事者から率直に実態を語ってもらおうと思います。

大学生協の全国調査では、大学生のアルバイト就労率は71.9%、1週間の就労時間は平均12.5時間ですが、20時間以上が13.9%、深夜時間帯(22時〜5時)に働く人も2割。平均収入は月額3万5770円。都心の大学に通う文系学生はもっと働いている感じがしますが...。

Aさん:私のまわりでは、バイトしていない人を探すほうが難しいです。初対面でも「バイトやってる?」ではなく、「バイト何してるの?」と聞きますから。

上西:それは生活費のため?それとも就活に有利と考えるから?

Aさん:私は自分の生活のためです。奨学金も借りているので返済に備えたいし。まわりも生活費に回しています。食費はけっこうかさむし、携帯代や定期代もかかる。300円の学食は高いからと100円のパンやカップ麺でお昼を済ませる人もいます。でも、バイトを選ぶ時は、「時給」だけじゃなく、将来に生かせる仕事を選ぶようにしています。

上西:今は、2つのバイトを掛け持ちしているんですよね。

Aさん:はい、1つは高校時代に始めたファストフード店。土日と授業のない日を中心に週に3〜4日、朝5時から13時まで。営業時間は6時〜24時ですが、最近、シフトマネージャー(時間帯管理者)になったので開店準備を任されています。正社員は店長1人だけなので、電話を取ったり、クレーム対応もします。

上西:昔は、学生バイトがマネージャーって考えられなかった。マネージャーになる時に研修はあったの? 時給は上がった?

Aさん:本社で3日間の研修を受けました。でも、店舗で先輩から教えてもらう時間はなかったので、見よう見まねでこなしています。時給は30円上がって995円になりました。

上西:責任ある仕事なのに時給1000円いかないんだ。

Aさん でも、私はマネージャーをやってみたいという気持ちがあったんです。自分のスキルを認めてもらえたとうれしかった。詳しいことはわかりませんが、今、会社では「同一労働同一賃金」ということで、正社員と同じ仕事をしているパートやアルバイトの処遇を見直すシステムの導入を進めているみたいです。

着替えの時間も労働時間!?

上西:もう一つのバイトは?

Aさん:スポーツクラブの指導員です。レッスンの時間は時給が出るけど、前後の着替えやレッスン開始前の準備時間は出ない。出退勤記録は2つあって、タイムカードの他に実働時間を紙に記録します。タイムカードには着替えの時間も入るので、紙の記録を見てその時間をカットしています。

上西:着替えの時間は労働時間だと指針も出ているけど、現場には浸透していない?

Aさん:着替えの時間に時給が出るところは聞いたことがないです。シフトに入る前に製品情報や事故・クレーム情報に目を通してと言われることも多いんですが、それも労働時間にカウントされません。

学生バイトも「103万円の壁」

上西:友だちからトラブルの話を聞くことはありますか。

Aさん:私も含めて悩みのタネが「103万円の壁」です。シフトが回らないからと引き受けていると、秋頃には扶養の上限を超えそうになる。ある友人は、店長にこれ以上働けないと言ったら、「タイムカードを切らずにポケットマネーで払うから来てくれ」と。そんな話はあちこちで聞きます。

上西:えーっ! 労働法ってこれまで学んだことはある?『Q&A』は読んだ?

Aさん 全部読みました。何が良くて何がダメなのか知らなかったので、勉強になりました。労働法を勉強したことはないです。ただ、法律ではこうと言われても、法律と現場は違うと思ってしまう。同世代とバイトの話をすると、「うちもそう」と盛り上がるんですが、オトナには「何それ?」って驚かれる。私たちは、そうやってオトナが驚くことに逆にびっくりしちゃうんです。

上西:だって、店長がポケットマネーから出すなんておかしいもの。バイトにマネージャーをやらせるなんておかしいもの。

Aさん:職場は、まず社員がいて補助的にバイトを使うべきといわれますが、私が知っている世界は違う。基本はバイトで社員は1人か2人。みんなそうです。ファストフード店だって、コンビニだって、日本の社会はそれで回ってると思える。おかしいけど、バイトか社員かはお客様に関係ないから、プロとして振る舞わなければと。でも、冷静に考えると、都合よく使われているのかなという気もします。

上西:みんなすごく頑張ってる。だからこそ、そういう純粋な気持ちにつけ込むオトナは許せない。自分で動いて問題を解決した話を聞いた時には、どう思った?

Aさん:私も、問題があったらはっきり言うと思います。ただ、たとえ私が契約外の業務を断ったとしても、結局ツケが回るのは自分と同じ立場のバイト。だから我慢してしまうことはあるかな。

上西:労働組合のことは知ってた?

Aさん 労働組合は高校の公民の授業で知りました。会社と対等の立場で話し合い、労働条件を決める。でも、バイトには関係ない存在だと。

上西:でも、会社に労働組合があって正社員の働き方がまともであれば、アルバイトの働き方も波及的にまともになる可能性はあるでしょう。

Aさん それはすごくそう思う。正社員がブラックな働き方をして疲れ切っているから、そんな人に相談してもと思ってしまう。

上西:法政大学では、連合寄付講座を開設していますが、他にも労働組合の側がもっと学生にアプローチする場があるといいですね。今日はありがとうございました。

上西充子 うえにし・みつこ

法政大学キャリアデザイン学部教授

東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得退学。労働政策研究・研修機構の研究員を経て、2003年より法政大学教員。専門は社会政策、若年労働問題。一般社団法人 日本ワークルール検定協会啓発推進委員。

共著に『大学のキャリア支援』(経営書院)、『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)など。

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