動く物を見る動体視力が低下する仕組みを大阪大学蛋白質研究所の古川貴久(ふるかわ たかひさ)教授と佐貫理佳子(さぬき りかこ)助教らがマウスで解明した。網膜視細胞のシナプスが正常な位置に維持される意義を確かめたもので、高齢ドライバーの運転能力低下に関わる動体視力低下の防止にも手がかりとなりそうだ。2月5日付の米オンライン科学誌セルリポーツに発表した。
網膜では、老化に伴って視細胞のシナプス位置が移動することが知られている。神経回路の発生でシナプスが決まった場所で形成される必然性はあるのか、あるとすればその機能的意義は何か、その分子レベルの仕組みは何か、老化網膜におけるシナプス位置の移動は視覚機能に影響するのか、などは適切なモデル動物がなく、解明が進んでいなかった。
研究グループは、網膜視細胞のシナプス側の膜輸送に関わる4.1Gタンパク質を見いだした。このタンパク質を欠損したマウスの網膜では、老齢マウスと同じように、本来、細胞体層の外側にある外網状層に形成されるはずの視細胞のシナプスが、細胞体のそばの異なる位置に形成されていた。このシナプスの位置の異常は、4.1Gタンパク質を介した膜輸送機能が低下して生じることを明らかにした。
4.1G欠損マウスでは、明暗のコントラストを捉える能力が低く、幅の狭いしま模様も見えにくかったため、動体視力が下がっているとみた。一連の実験で、4.1Gタンパク質が視細胞のシナプスの位置決定に重要な役割をしており、それが欠如すると、シナプス接合に必要な物質を適当な神経細胞に運べずに、異なる位置で接合する可能性が示された。また、特定の場所でのシナプス維持が正常な視覚機能に欠かせないこともわかった。
古川貴久教授は「網膜のシナプス位置の維持は正常な視覚機能に重要であることがはっきりした。シナプス結合の位置は一度形成されると、通常は維持されるが、病気や老化で変わる場合がある。高齢者の視機能をできるだけ保てる方法を探りたい。また、脳でも同じように、シナプス結合の位置が違えば、脳機能に影響する可能性がある。そうした研究の手がかりになる」と話している。
関連リンク
・大阪大学 プレスリリース
・科学技術振興機構 プレスリリース