スマホアプリが「禁煙薬」? 2017年10月から治験スタート

診療と診療の空白期間、萎えがちな患者を支えて成功率アップ
Open Image Modal
CureAppが開発した禁煙治療アプリ
CureApp

禁煙治療に使うアプリが開発され、臨床試験が10月末に始まる。国に承認されれば、医療機関で、錠剤やパッチと治療用アプリのダウンロードがセットになった治療法が普及するかもしれない。

東京都の会社員の男性(41)は、2017年10月、禁煙してから2年と1カ月がたった。

禁煙の支えにしたのが、禁煙直後の健康への影響や金銭への効果を紹介している医療サイト。「最近は全く見る必要はなくなったけど、禁煙開始から数ヶ月ごろまでは、よくスマホで『禁煙 効果 期間』と検索して、出てきたサイトを読んでどんな効果あるのか確認して乗り切った」と振り返る。

特に支えになったのが、短期で出てくる禁煙の効果だ。

よく見ていたサイトでは禁煙開始後「20分で血圧が正常になる」「24時間で心筋梗塞・狭心症になる確率が下がる」「2日で味覚・臭覚が回復」などと紹介され、ついくじけそうになるのを乗り越えていた。

そうした支えが、禁煙治療にはもっと必要なのかもしれない。

多くの人は、禁煙しようと思って薬を飲んでも失敗する。

厚生労働省の諮問機関による、ニコチン依存症の患者が対象の調査(2009年)によると、3カ月の治療期間中、最初は3471人だった対象者は、週を経るごとに減り、最後まで残ったのは1200人余りだった。その1200人のうち、治療が終わってから9カ月後も禁煙を続けていられたのは5割を切っていた。

どこに課題があるのか。禁煙補助薬を飲んだ患者に直近の7日間の禁煙できたかどうかを尋ねた調査では、禁煙治療が終わる3カ月目から6カ月目にかけ、禁煙できていた人の割合がぐっと下がる(グラフ)。

Open Image Modal
CureApp

■患者が孤独になる「空白期間」に注目

「禁煙治療の場合、医師と話せるのは、病院で診察がある2週間おき、または月1回、10分ほど。それ以外の大半の時間、患者さんは孤独な闘いを強いられている」。CureApp(キュア・アップ)社長で、日赤医療センターの呼吸器内科医、佐竹晃太さんは言う。

佐竹さんたちは、診療と次の診療の間、治療終了後に生じる、医療機関にアクセスしない「空白期間」に目をつけた。

この空白期間で揺れ動く患者の心理をアプリからのメッセージで支えていけば、せっかく治療を受けながら、途中で挫折することが減るのではないか、と考えたのだ。

Open Image Modal
CureApp

「ニコチン依存は、身体的な依存と心理的な依存がある。身体的な依存は薬で克服できても、心理的な依存は治療ではカバーしきれない。医師や看護師に会わない『空白期間』で、代わりとなるのが、アプリの役割」と佐竹さん。

■アプリの「薬効」は

日本では2014年、薬事法が改正され、臨床試験で効果が確認され、承認を受ければ、医療現場でアプリも治療道具として使えるようになった。CureAppは慶應義塾大医学部と共同で、禁煙外来での治療に使うアプリ「CureApp禁煙」を開発。過去に実施した複数の医療機関が参加した臨床試験では、治療開始後6ヶ月で禁煙継続率は67.9%に上った。

「CureApp禁煙」と、これまで出ていた禁煙支援のアプリとの決定的な違いは、禁煙の意欲を持ち続けてもらうために、アプリで心理的な介入をして患者の気持ちや行動を変えていく、いわば「薬」の位置づけで開発されている点だ。

医療現場で使えるようにするには、過去に発表された論文や治療のガイドライン、知見などに基づく必要がある。そうした医学的根拠をシステムに取り込み、助言の内容やアルゴリズムに取り込んだ。その上で、患者の悩みや禁煙中のつらさなどをチャット機能で双方向性を持たせる形で相談に乗ったり、スマホの画面にメッセージ通知が出てくる方法で助言をしたりするなど、「親しみやすさ」を持たせた。

2017年10月末から国内の約30カ所の医療機関で、ニコチン依存症の患者約600人を対象に、従来の薬と一緒に使って効果を計る治験を始める。2019年3月まで続け、その年の秋には医療機関で使えるようにするという。

いま、東京都はラグビーワールドカップが開かれる2019年に向け、飲食店など、不特定多数の人が集まる空間を原則「禁煙」とする条例の制定を目指している。そのころの禁煙外来の治療の風景は、今とはだいぶ違ったものになっているかもしれない。