人気マンガ『鬼滅の刃』のキャラクター3人が着ている服の模様が、6月3日付けで商標登録された。版元の集英社が2020年に6人分の模様を特許庁に商標出願していた。登録されたのは、このうち冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)が着ている羽織の柄だ。
商標の指定商品はスマホ用カバー、ゲームソフト、衣類やタオルなど多岐に渡っている。今後は、こうした商品で3つの模様を集英社に無断で使った場合、商標権侵害に問われる可能性がある。
その一方、主人公である竈門炭治郎(かまど・たんじろう)と禰豆子の兄妹、それに我妻善逸の3人が着ている服の模様に関しては「審査中」の状態だが、商標登録できないことを伝える「拒絶理由通知書」が5月26日付けで特許庁から出された。
書面発送から40日以内に集英社が意見書を提出すれば、再審査となるため、集英社の対応が注目される。
■商標出願した6人分の柄のうち3人分が登録
『鬼滅の刃』に関する商標の出願情報は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で確認できる。それによると、同作品に関連して6つの模様の商標を2020年6月24日、集英社が特許庁に出願していた。
商標出願は、量販店などで『鬼滅の刃』に登場する着物の柄の商品が出回っているのが理由だったという。集英社は「悪質な便乗商品、違法なコピー商品を阻止し、正規品の流通を守る」と産経WESTにコメントしていた。
商標登録された3人の柄は以下の通り。
01.冨岡義勇が着ている羽織の「紫に亀甲のような柄」(商標登録 第6397486号)
02.胡蝶しのぶが着ている羽織の「蝶の羽のような柄」(商標登録 第6397487号)
03.煉獄杏寿郎が着ている羽織の「炎のような柄」(商標登録 第6397488号)
■炭治郎ら3人の柄に「拒絶理由通知」が出た理由は?
竈門炭治郎と禰豆子の兄妹、それに我妻善逸が着ている服の柄に関しては、商標登録することができないことを伝える「拒絶理由通知書」が5月26日付けで特許庁から出された。
それによると、炭治郎の柄は伝統的な「市松模様」の一種、禰豆子の柄は「麻の葉模様」の一種と理解されると指摘。
我妻善逸の黄色の地に白い正三角形が並ぶシンプルな柄と合わせて、どれも「装飾的な地模様として認識される」にとどまり、他の商品との識別力も見いだすことができないため、商標登録が不可能という考えを示している。
ただし、これで商標登録が不可能になったわけではない。書面発送から40日以内に集英社が意見書を提出すれば再審査となる。
以下は、各模様と拒絶理由通知書の文面だ。
01.竈門炭治郎の羽織、緑と黒の市松模様(商願2020-078058)
拒絶理由通知書で示された理由
この商標登録出願に係る商標は、黒色と緑色の正方形を互い違いに並べ、連続反復的に配置した構成からなる、いわゆる「市松模様」の一種と理解されるものですから、全体として、装飾的な地模様として認識されるにとどまり、かつ、その構成中に自他商品の識別力を有する部分を見出すこともできません。
02.竈門禰豆子の着物、ピンク地に「麻の葉文様」(商願2020-078059)
拒絶理由通知書で示された理由
この商標登録出願に係る商標は、ピンク色の地の上に、黒色の線で表した多数の六角形と菱形を結びつけるように、連続反復的に配置した構成からなる、いわゆる「麻の葉模様」の一種と理解されるものですから、全体として、装飾的な地模様として認識されるにとどまり、かつ、その構成中に自他商品の識別力を有する部分を見出すこともできません。
03.我妻善逸の羽織、黄色の地に白の三角模様(商願2020-078060)
拒絶理由通知書で示された理由
この商標登録出願に係る商標は、上から下へ色が濃くなる黄色の地の上に、18個の白色の正三角形が縦と斜めに整列するように、連続反復的に配置した構成からなるものですから、全体として、装飾的な地模様として認識されるにとどまり、かつ、その構成中に自他商品の識別力を 有する部分を見出すこともできません。
■柄によって判断が分かれた理由は?「識別力の違い」と専門家は指摘
今回、煉獄杏寿郎ら3人の柄が商標登録できた一方で、竈門炭治郎ら3人の柄に「拒絶理由通知」が出たのはなぜだろうか。
知的財産権に詳しい東北大学特任准教授の稲穂健市氏は、ハフポスト日本版の取材に「識別力の違い」と回答した。
「竈門炭治郎ら3人の羽織の柄は、全体として、装飾的な地模様として認識されるにとどまり、かつ、その構成中に自他商品の識別力を有する部分を見出すこともできないという理由から拒絶されています。それを考えますと、煉獄杏寿郎ら『柱』3人の羽織の柄は、特徴的な部分があるなどの理由により識別力を有すると判断されたのでしょう。確かにそれぞれの柄には『柱』の特徴が表れています。拒絶された3点については、集英社が今後、意見書で反論するかどうかが焦点になると思います」
「ただ、『市松模様』は江戸時代から、『麻の葉柄』は平安時代から使われていたことを示す参考情報も拒絶理由通知書に書かれており、識別性を主張できる部分は相当限られるのではないでしょうか。専門家によっても見解は異なりますが、私個人としては登録は難しいのではないかと思います。もっとも、長期間使用して識別力を獲得した場合はその限りではありません。商標権は更新によって半永久的に権利を維持することが可能なため、その点でも登録には慎重になるべきではないかと思います」