【第1回】業者たちが明かした危険ドラッグ供給の実態

危険ドラッグの実態を記す上で、筆者は特に、供給者側の論理を明らかにするように務めた。すなわちどのような人が何を思って作り、何を思って売っているのか、である。

2014年9月からの1カ月の間に、危険ドラッグ「ハートショット」の使用で15人が死亡したという。食品や薬品が原因の死亡事故では1、2名死亡事故が起きれば大騒ぎになるが、なぜか「ハートショット」の事故は静観されている。販売店や卸売店、製造工場が家宅捜索を受けたとか、製造業者や開発者が逮捕されたとかのニュースは聞かない。

警視庁が発表している危険ドラッグ使用によるものと想定される死者数が12年は8人、13年は9人だったものが、14年には114人となっている。この数字を見れば、「ハートショット」による15人という数の大きさ、そして2014年に危険ドラッグが劇薬化したことがわかるだろう。

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今月『危険ドラッグ 半グレの闇稼業』(角川新書)を上梓した。

危険ドラッグの実態を記す上で、筆者は特に、供給者側の論理を明らかにするように務めた。すなわちどのような人が何を思って作り、何を思って売っているのか、である。とはいえ、危険ドラッグ業者の口は重い。真実を打ち明けたところで得になることは何もない。ヘタをすれば刑事責任を問われる。彼らがメディアに登場して顔をさらすことはほとんどない。

今回、筆者の場合は、これ以上ないほど有力な紹介者を得ることができた。彼の根回しと紹介により、筆者は「危険ドラッグ業界で院政を敷く」と評され、業界の半分を取り仕切っているとされる、枢要な人物などから直接話を聞く機会を得られた。また、冒頭に取り上げた危険ドラッグ「ハートショット」の製造元の元幹部にもインタビューできた。彼らの語る言葉をそのまま載せた部分も多い。時に不快に感じる表現があるかもしれないが、彼らの人柄や考え方を知る上で重要だと判断した。

そして明らかになったのは、危険ドラッグは暴力団のシノギではなく、主に「半グレ集団」のシノギだということだ。もちろん危険ドラッグに参入している暴力団は少数ながら存在する。しかし彼らの参入はもっぱら小売り段階に留まり、卸や製造元には少数だし、ましてドラッグの成分がつくられている、中国の化学会社に接触できる者は皆無だろう。

半グレが仕切る闇稼業

では半グレとは何か。一言で言えば、新興犯罪やグレーゾーン犯罪を生活の糧にする、堅気とヤクザの中間的な存在である。

半グレ集団の特徴を挙げておこう。

まず半グレ集団のメンバーは暴力団に籍を置いていない。そのため、暴力団対策法や暴力団排除条例の対象ではない。法的には一般人、堅気と同じである。

彼らの行動原則は匿名性と隠密性である。暴力団のように同業の他団体と全国的な広がりの中で交際することなどありえないし、交際団体に各種の回状を回すこともしない。半グレは新興犯罪、を収益源とし、その収益と活動実態を外部に知られまいとする。

例えばオレオレ詐欺を収益源とする半グレ集団が外部に向かって「われわれはオレオレ詐欺をやってます」とアナウンスすることなどしない。暴力団組員のように「男を売り出す」といった欲求を持たないのだ。世間に何者と知られていないからこそ、彼らの犯罪=収益活動は成り立っている。

また、半グレ集団のメンバーは暴力団の組員に比べて若い。せいぜい20代から40代が中心である。若いこともあり、携帯電話やスマホ、パソコンなどに習熟し、IT技術や金融知識なども身につけ、自在に使いこなす者が多い。だからこそ次々と新しいビジネスやシノギを見つける柔軟性を持っている。

そして、彼らは明らかな犯罪行為に手を出すことには抵抗がある。そこで長い間、逮捕される危険がなかった「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」に向かった人間が多かった。

現在、暴力団への新規志願者は激減しているが、半グレ集団の成員は増えている。それと時期を同じくして、全国各地で危険ドラッグの小売りの販売店ができていき、業者の言葉によれば2011年頃に最盛期を迎えた。ハーブ型の脱法ドラッグの吸引による事故や事件が徐々にメディアで取り上げられはじめ、特に若者たちへの浸透が問題とされていた頃である。最盛期には5万人程度が危険ドラッグで飯を食っていたという。