「児童婚は”祝福”のもとで行われるレイプです」 11歳で結婚、自殺未遂した映画監督が訴える、イエメンの女の子のこと。

映画『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』は、中東・イエメンの児童婚の悲惨な現実を描いている。自身も児童婚を経験したイエメン人女性監督ハティージャ・アル=サラーミーさんにインタビューをした。
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ヌジュード・アリ 映画『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』の主人公ヌジュームのモデルとなった少女。
AFP via Getty Images

「児童婚」を知っているだろうかーー。中東・イエメンではわずか8歳の女の子が結婚を強いられる現実がある。

 児童婚とはユニセフの定義で、18歳未満の結婚またはそれに相当する状況のこと。ユニセフの統計では、世界の約5人に1人の女性が児童婚を経験。イエメンの状況はより深刻で、2006年のデータでは、15歳未満で結婚する少女が14%、18歳未満で結婚する少女は52%に上る。

 児童婚をテーマにした映画、『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』が3月16日〜5月上旬、イスラーム映画祭(東京・名古屋・兵庫)で上映される。

 物語の舞台はイエメン。10歳の少女ヌジュームは1人で裁判所に駆け込み、離婚をしたいと訴える。驚く判事に彼女は、自分が結婚させられた経緯を語り始めるーー。この作品は、2008年にイエメンで実際に起きた話がモデルとなっている。

 監督は、自身も児童婚を経験したイエメン人女性監督、ハティージャ・アル=サラーミーさん。現在はフランスに住んでいる彼女にインタビューした。

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映画『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』の監督ハディージャ・アル=サラーミーさん
ハディージャ・アル=サラーミーさん

■ 11歳で結婚、自殺未遂、離婚、そして働き始めた。

ーーご自身の児童婚のご経験を話していただけますか。

11歳の時に結婚しました。夫は叔父の友人で、恐らく30代くらいだったと思います。当時の私は彼のことなんて何も知りたくなかったので、彼に年齢すら聞かなかったのです。

私は結婚に動揺し、抵抗しました。まだ子どもで、結婚が一体何なのか全く分かっていなかったのです。それに、結婚に対して良いイメージも持っていませんでした。幼い頃から、父が母に暴力をふるっているのを見ていたからです。

結婚が決まってから、学校に行くことも禁止されてしまいました。私は子どもながらに、教育は私を暴力から救ってくれると信じていました。そして、学校は家での暴力から逃げられる唯一の場所でもありました。だから、学校をやめるのが本当に嫌でした。

結婚生活は地獄そのものでした。結婚後、私は夫の暮らすシリアに連れていかれました。そして、無理矢理セックスをさせられたのです。

私を支えて守ってくれるはずの家族が、どうして私をこんなにもひどく恐ろしい目に遇わせるんだろうと思いました。見知らぬ土地で、助けを求められる人は誰もいませんでした。私ができた反抗は、浴室に鍵をかけ1日中閉じこもり、決してドアを開けないことだけでした。

途方にくれた夫は、私をイエメンの家族に送り返しました。しかし、家族は激怒し、すぐに夫のもとに戻るように命令をしました。

追い詰められた私は、自殺をしようとしました。でもその時、母親だけは私の味方をしてくれたのです。私は夫と離婚することができました。

しかし私は家族の「恥」として、母と共に家族から追い出されてしまいました。こうして、私はたった11歳で、母と自分を養うために働かなければならなくなりました。午前中は学校に行き、午後は地元のテレビ局で子ども番組に出演することでお金を稼ぎました。

■ 児童婚は「結婚」じゃない。家族と社会の”祝福”のもとで行われる「レイプ」なのです。

ーー映画を撮ろうと思った理由は何ですか

私は(児童婚で)とても辛い経験をしました。だから、同じように児童婚の慣習のなかで耐え生きる女性たちの現状を変えるために、人生を捧げて闘おうと決意したんです。

この作品を1人でも多くの人に観てもらい、児童婚が代々続く慣習として行われていること、そして人々の無学・無知によってさらに社会に深く根付いているという現実を知ってほしいと思います。そして、そんな児童婚が女の子に与える身体的・精神的な影響について伝えることがこの映画を製作した大きな目的でした。

また、私はこの作品を、児童婚の犠牲になっている女の子たちに届けたかったのです。「自らの辛い運命を黙って受け入れる前に声をあげてほしい、そうすれば必ずどこかに希望があるから」というメッセージを彼女たちに伝えたいと思いました。この作品が彼女たちの背中を押す力や救いになればと願っています。

また、児童婚に関わる家族も、この作品を観ることで、児童婚について改めて考えることがでしょう。

ーー児童婚が女の子に与える影響は何でしょうか

 児童婚は子どもの人権を無視するものです。少女から教育の機会と将来への希望を奪います。そして、彼女の貧困、暴力、病気、早死などのリスクも高めるのです。

 私自身は、児童婚を「結婚」とは呼びません。家族や社会の”祝福”のもとで行われる「レイプ(arranged rape)」だと考えています。

 ーーどうしたら児童婚をなくせると思いますか

 最も大切なものは「教育」です。教育を受けていれば、自分自身の権利を主張し、あらゆる暴力から身を守ることができます。

 また、イエメンのように児童婚を禁止する法律がない国に関しては、法律を制定するべきです。貧困問題や男性主導の文化も児童婚の大きな要因です。政府はこうした問題に取り組むべきです。

ーー現在のイエメンはどんな状況ですか?

 2014年後半ごろまでは、児童婚禁止の法律の制定に向けて活動も活発化していて、希望が見える状況でした。でも、2015年に紛争(注)が始まってからは、全ての希望が壊されました。

 子どもの権利はもはや優先事項ではなくなり、どうやって生き残るか、日々の爆弾から逃げるか、食べ物や安全な水を見つけるか、が優先になりました。国連は、現在のイエメンの状態を「世界最悪の人道危機」であると警鐘を鳴らしています。そして、本当に悲しいことですが、戦争の中で、女性や子供をとりまく状態も悪化しています。

(注)イエメンでは、2011年の「アラブの春」が発端に情勢が不安定化し、2015年から内戦状態になっている。

 ーー日本の皆さんに何を伝えたいですか?

 作品を観て、イエメン社会の抱える複雑な事情、そして同時にイエメンの(自然や文化の)豊かさも知ってほしいです。そして、皆さんが、イエメンだけではなく、児童婚が行われている他の国についても関心を持って下さることを願っています。

 児童婚は、アジア、アフリカ、中東地域で多く行われていますが、実は欧米などの先進国にも存在する問題です。私たちはこの問題を解決するために、皆さんのサポートを必要としています。決して希望を捨てず頑張りましょう。

映画は3月16日〜5月上旬のイスラーム映画祭(東京・名古屋・兵庫)で上映予定。上映日などの詳細は公式サイトより。