ケヴィン・ケリー旋風:誰もが創れる未来

ケヴィン・ケリー氏が著作インターネットの次に来るものの出版を記念して来日、連日イベントを開催しケリー旋風が巻き起こりました。
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ポケモンGOが世界各地で耳目を集めるなか、東京ではテクノロジーの発展をけん引してきたケヴィン・ケリー氏が著作The Inevitableの日本語版インターネットの次に来るものの出版を記念して来日、連日イベントを開催しケリー旋風が巻き起こりました。

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筆者も7月21日(木)、御茶ノ水のデジタルハリウッドにて開催された招待制イベントに参加してきました。看板もない会場をみつけて滑り込んだ本講演は、関係者に絞った会だったにも関わらずホールがいっぱいに埋まり、この一週間続くケヴィン・ケリー熱を感じさせました。

1時間半があっという間に過ぎ、受付脇の先行販売コーナーで次々と同書が売れ、買ったひとたちが列を作ってケリー氏にサインしてもらうという、活気あふれる刺激的なイベントでした。

■サンフランシスコからデジタルハリウッドへ

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はじめにデジタルハリウッド大学メディアライブラリー館長、橋本大也教授が本イベント開催の経緯を説明。

橋本氏がサンフランシスコで人気の書店に立ち寄りITコーナーでThe Inevitableを見つけ、帰りの飛行機でこれは面白いと一気に読んだところ、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏がこれは良書だとFacebook投稿され、その投稿をちょうど翻訳されていた朝日新聞の服部桂氏が見て、では出版記念イベントをデジタルハリウッドでと、とんとん拍子に決まったとのこと。

つながりが加速している今を象徴する動きでした。

■Who is Kevin Kelly ~ケヴィン・ケリーとはなにものか

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続いて、前作となるケヴィン・ケリー氏著What Technology Wants日本語版、テクニウムに続き再び和訳タッグを組んだ服部桂氏が登壇。

翻訳を含め、1950年代生まれの同年代の友人として長く氏と親交をもつ立場から、「Who is Kevin Kelly」と人物紹介しました。

ケリー氏は1960年代、ヒッピー文化を体験し、アジア各地の去りゆく模様などを写真撮影しながら放浪した後に、アメリカ帰国。そしてカウンターカルチャーを代表する雑誌、故Steve Jobsをインスパイアしたことでも知られるWhole Earth Catalogを創刊。その後1984年にはテクノロジー好きが集結する初の試みHackers Conferenceを開き、1993年にはテクノロジーがもたらす社会への影響を捉える雑誌WIREDを創刊。

未来を見続ける先達として、今回The Inevitableを上梓し、これから不可避なものは何かを伝えています。

■不可避な事実から未来へ

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続く1時間、ケヴィン・ケリー氏が登壇し、不可避な事実をひも解きました。まず、不可避かつ予測可能なこととして、テクノロジーが世界中どこにでもいつでも存在するということ、ものは物理的性質から大きなシステムや中心に集まり方向性を決め反復するパターンを作ること、などを挙げました。

そして、それらは予測できるが、個々のものは予測できない。例えば不可避なものとして電話やインターネットは予測できたものだが、そこからTwitterやiPhoneが出てくるというのは予測できなかった。つまり予測可能性にはレベルがある、と説明しました。

そしてケリー氏は、これから避けられないことを、同書のなかから3つ選んで述べました。

1つは、認知(Cognify)人工知能(AI)はSiri、Cortana、Echoなどの形ですでに存在し、機械学習やエキスパートシステムは人間よりも高い能力を持ちます。ソフトウェアにあたるニューラルネットワーク、ハードウェアにあたるGPU、それにビッグデータの3つが組み合わさり、新しいAIが登場していきます。

IQ(知能指数)は動物、人間、機械など個々にある複雑かつ多面的なもので、それぞれにAIを掛け合わせれば新しいものが生まれるのです。ロボットは生産性や効率が重要視される分野で活躍し、人間は人間関係、芸術、試作などの探究を必要とする科学やイノベーションの分野で活躍するでしょう。

ロボットは新しい仕事を創出し、人間がAIと協業するは半人半獣のようなケンタウロス(写真)が将来の働き方となるでしょう。

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2つめは仮想(Virtuality)。すでにポケモンGOが示しているように、人間が全身でコンピューターとインタラクティブに動く時代になっています。Oculus Riftのような仮想体験(VR)を可能にする機器はスマートフォンの登場で圧倒的に低価格化しました。

VRには没入(イマージョン)型と存在(プレゼンス)型がありますが、後者は前者が発展したもので、実現の難度は上がります。プレゼンス型は異なる感覚や知覚が混在するミックスト・リアリティを可能にし、脳のさまざまな部分に働きかけ、製品デザイン、教育、バーチャルスクリーンなどに活用されます。

さらにVRを使う際の動き方は、ぐるぐる回る(Swivel)タイプと、歩きまわる(Roam)タイプに別れます。後者は機器、配線など環境整備が必要なため実装が難しく、5年後の実用化が予想されます。こうして、経験(Experience)が次世代の通貨となり、すべての経験がつながるInternet of Experienceの時代になるでしょう。

ひとの存在、声、接触などを感じる仮想技術により、VRはソーシャルメディアのなかの最もソーシャル(社会的)なものになるでしょう。

3つめは追跡(Tracking)。スマートフォンが普及し、既に自分のあらゆる行動、生態が計測、記録されています。これは処方薬の個人最適化、リアルタイム処方などに役立てることができます。

プライバシーを渡さなければ一般的なものしか手にはいらず、個人情報を透明化することは個人最適化(Personalize)につながります。そこで、個人情報を渡すものと受取るものがそれぞれを見張る、相互監督(Co-veillance)が重要となります。

ケリー氏は、これから30年先に起こることは現在の人にはわからない、20年先のすばらしい製品はまだ発明されていない、つまりは誰もが将来を創る可能性がある、とメッセージを送りました。

それから質疑応答に応える形で、編集の未来について触れ、本書は本という形での自分の最後の作品になる、これからは動画、ビデオの時代になると述べました。

■バカにされよう。世界を変えよう。

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最後に、イベントの締めくくりとして、デジタルハリウッド大学学長、杉山知之氏が「バカにされよう。世界を変えよう。」のメッセージを背景に未来へのエールを送りました。

■誰もが創れる未来

日頃、AIであれば「人工知能は人間の仕事を奪うのか」、VRであれば「ポケモンGOの安全性やセキュリティは大丈夫か」など、恐怖心を覚えるニュースの瞬間風速に目を奪われがちです。が、ケリー氏が指摘するとおり、現存し発展するテクノロジーを使い未来を創るためには、長期的な視点と取り組みが必要です。

今回のイベントは、これからの30年間われわれの生活に変化をもたらすテクノロジーを展望し、それをどう受け止め、どう活用するかを示唆し、未来への挑戦を鼓舞するものでした。プライバシーと利便性のトレードオフについては、日本でもパーソナルデータストア(PDS)が形成されてきている早期段階にあり、今後の議論の盛り上がりが予期されます。

閉会後、外の雨空も忘れて議論を続ける参加者たちが、それぞれ手にする買ったばかりの書籍カバーのあざやかな黄色が、「未来は誰もが創れる。テクノロジーを恐れずに、ともに成長しよう。」と、訴えかけているように見えました。