「表現の不自由展・その後」が”炎上”してしまった、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」。展示が一時中止されたり、文化庁が7800万円の補助金の不交付を決めたりした。
さらにその後、オーストリアの首都ウィーンで開かれていた別の展覧会について、在オーストリア日本大使館が公認を10月30日付で取り消した。
相次ぐアートと社会の衝突。いずれの展示会が問題になったのも、慰安婦をモチーフとした少女像や総理大臣を模したとみられた映像作品など、「過激な作品」が出展されていたため、とみられる。
立憲民主党の憲法調査会は12月6日、芸術監督をつとめた津田大介さんやアーティストらを招き、この問題について話し合う「ヒアリング」を開いた。
参加した美術家の会田誠さんは「日本は文化的な二流国家に落ちちゃったな、と外国にみられる…」と嘆いた。
「あるTwitterユーザーが…」
ヒアリングは東京・永田町の衆議院第二議員会館で開かれた。国会議員、美術家、報道関係者らが集まった。
マイクを握った会田誠さん。
9月に始まった、ウィーンの展覧会「Japan Unlimited」に作品を出していた。自身が総理大臣を名乗る男性に扮して演説を行う映像作品だが、SNSで「反日的」「首相を侮辱している」と批判が寄せられた。
「(SNSの抗議もきっかけとなって混乱した)あいちトリエンナーレの『成功体験』があったからでしょうか。同じような人か分かりませんが、アルファベットSから始まる匿名のTwitterをやっている方が、国会議員さんに『こんなひどいものがウィーンで行われている」と僕の作品について伝えた」
「一般の方だと思う。僕の作品の内容もほとんど誤解しているし、まず見ていない。僕の作品は、日本の首相と名乗っている人が演説する作品。20-30分のほんの一言を切り抜いて、『こんな発言をしている』と議員に伝えられた」
会田さんによると、そうした話が外務省側に伝わったためか、その後、日本大使館が10月末に「公認取消」をおこなった。
「表現の不自由展」と同じような構図の問題。ただ、その現場が「外国だったことが大きい」と会田さんは強調する。
「今回のウィーンの展示会のキュレーターはなぜかイタリア人なんですね。イタリアの人が、オーストリアで、日本の政治問題などを扱う傾向が強い日本人アーティストの作品を集めていた。ちょっとややっこしいのですが、これが現代美術の特徴なんですね」
「たとえば演歌みたいな文化は日本国内で閉じてますよね。けれど、現代美術は国際的なネットワークで出来ていて、国内で完結していない。日本政府が安心して外国に見せるなら、芸術院会員のおじいさんやおばあさんの作品でしょうけど、海外のアートファンがそういう方が描く富士山の作品を喜ぶのか。答えはNOです」
「海外のアートファンは、いま日本の社会の問題に真剣に取り組んでいる作家の表現が見たい。それが国際交流なんですよね。きれいごとの富士山ではなく、もっと『おまえたちは何に悩んで生活しているのか、見せてくれ』と言われる。それが国際交流、現代美術でして…」
「(今回の展覧会の公認取消しがSNSなどをきっかけに)あっさり起きてしまうということは、『あぁ、日本は文化的な二流国家に落ちちゃったな』と外国にみられる。リアルに国益を損なうことだと思うんですよね。小さな穴ですが、何とかした方がいいと思います」
Twitterユーザーという個人の力によって、国が動いたと思われるできごと。SNSによる「超・直接民主主義」が世界にあらわれてしまったようだ。
それについて、会田さんは「僕はTwitterもやってるし『誰もが芸術家』という言葉もありますし。いまぐちゃぐちゃな泥仕合になっているけど人類の必然だと思って積極的にやってます」とも表現するが、いずれにしても世界に日本の「文化的な未熟さ」が明らかになってしまったようだ。
「丁寧に設計するべきだとおもったけど」
合田さんのほかには、あいちトリエンナーレに参加していた彫刻家の小田原のどかさんも話をした。
小田原さんは「表現の不自由展」に関してはある程度批判的で、キュレーション(展示の設計など)をもっと丁寧にするべきだったという考えだと述べた。
「私は2016年から韓国に行って、平和の少女像の調査もしているので、どういう運動の流れで韓国の公共空間に出てきたのか、関心を持っていました。日本と韓国の国民感情が悪化したことに憂慮していたんです。(表現の不自由展に少女像が出ることを)知ったとき、また対立感情をあおるのではないか、と正直に言って思いました」
「だからといって、文化庁の不交付は許してはいけないと思う。一作家として感じるところを素直に伝えると、『見せしめ』だったと思うからです」
「私のように、長崎の原爆、敗戦、占領をテーマにした、(社会や政治を問うような)作品を作っていくことが…。できなくなるとは言いません。私は魂の自由のためにやってるので、表現が萎縮することはないですが、私の作品を見る機会が失われていく、と強く思います」
小田原さんは、長崎の原爆などをテーマにした作品で知られる。調査研究や文章の発表も行い、彫刻を通して日本の戦争や占領の歴史を問い続けてきた、「研究者」と「芸術家」の2つの顔を持つ人だ。
また、全国各地の公園などの公共空間に乱立する女性の裸体像に問題意識を持ち、「女性の裸体が利用されている」社会を批評してきた。
そんな小田原さんに対して、美術大学での教え子の若い学生たちが「タブーに触れて、怖くないのですか」と問いかけるという。
「私自身はタブーという言葉が分かってなくて。何をもって『タブーと思うの?』と逆に質問をしてみたんですね。美術を学んでいる若い学生たちにとっては、私が作品で扱っている『長崎の原爆』などのテーマがタブーだという空気ができあがっていて…」
「そういう萎縮が始まると、本来だったらもっと光があたるべき事実が見えなくなっていく。若い人たちからそういう空気ができていることを大変憂慮しています」