本田圭佑にパスが回らない理由と、セードルフ監督がトップ下に置かない事情(神尾光臣)

サンプドリア戦で先発フル出場を果たした本田圭佑。守備で奮闘し、チームの勝利に貢献したが、まだ連携面では改善の余地があり、何よりカカー欠場でなぜトップ下で出場しなかったのか、疑問は残る。それを解き明かすべく、戦術面より迫ってみたい。
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サンプドリア戦で先発フル出場を果たした本田圭佑。守備で奮闘し、チームの勝利に貢献したが、まだ連携面では改善の余地があり、何よりカカー欠場でなぜトップ下で出場しなかったのか、疑問は残る。それを解き明かすべく、戦術面より迫ってみたい。

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■サンプドリアの交代が意味するもの

サンプドリア戦の後半1分、ミハイロビッチ監督は「ミランに上回られ、ミスが多くひどかった」という前半の闘いを修正するため、最初の交代カードを左MFに費やした。ウイングタイプのヴショウェクを下げ、本来はセントラルMFでカバーリングにも長けるソリアーノを投入した。

実はこれは、本田が右サイドでうまく動いてボールに触り、展開を動かしていたことの現れでもあった。12分、本田はここから前方のスペースに流れてきたサポナーラにパスを出し、1点目の展開の起点となっている。ただこの場合、肝心なのはその少し前からの流れだ。

10分、縦のスペースに深く侵入し、そこから展開を作る。11分、今度は逆にスペースを閉じられたら少し引き気味にポジションを取り、逆サイドに走りこむターラブへサイドチェンジを狙っている。

その1分後に起点となるプレー自体は、単にサポナーラへ繋いだということだけなのかもしれない。ただそれは本田が右サイドで巧みにスペースを使い、揺さぶった流れから生まれたものだった。

「サイドで組み立て、逆に揺さぶって刺す」というプランは、練習から準備されていたのかもしれない。本田はこの後も何度かサイドでボールを触り、逆サイドへ展開するということを試みていた。もちろん前が向ける時には、前線のパッツィーニへパスを出したり、絞ってシュートを狙ったりしている。

このスペースを閉めなければならなかったのが、ヴショウェクだったのだ。彼は守備において常に本田の後手に回った。攻撃では脅威をもたらすことが出来ず、それどころか本田がしっかり引いて守備をするものだから、左SBコスタの連係も切られっぱなしだった。

■本田にパスが回らない理由

ミハイロビッチは、10人のフィールドプレイヤーに厳しく守備のタスクを割り振る監督である。ミランの右に自由を与えすぎたと彼は見たのだ。そしてこれは戦術的に、本田の小さな手柄でもあったわけだ。

後半にもショートコーナーから、得点のアクションにも絡んでいる。本田のパフォーマンスは、同じ右サイドで出場しながら仕掛けや前へのパス出しも出来なかった、前節のボローニャ戦よりもはるかにポジティブなものとなった。

ただ、釈然としないものは残る。本人はスペースに良く動き、守備も懸命にやっていたのだが、まだまだパスを付けられていない。中盤でフリーとなった彼を見て、必ずパスを出してくれるのは最後尾のザッカルドぐらいしかいなかった。

まだまだ本田はチームに溶け込んでいない、全員意地悪だ――などという陰謀論をここで働かせるのはやめておく。だが、周囲の選手から動きをまだ見てもらえていないという現実はあるわけで、ここに途中から入ってきた選手が機能する難しさがある。

効率の良いパス回しやビルドアップのためには、出し手と受け手に動きの共通理解が必要となる。このようなものは本来、プレシーズンの段階から練り上げて行くべきもので、例えばインテルのマッツァーリ監督などは少々マニアックなまでにパターンを叩き込む。

その一方で本田の場合は、彼自身も新天地に慣れる必要があるところに加え、チーム自体もセードルフ新監督のもと、ほぼ手探りに近い形で連係を構築し直している最中だ。

サンプドリア戦ではカカーの温存とバロテッリの故障欠場、それに伴うパッツィーニとサポナーラの起用で、足元にボールをつなごうとする固執が『結果的』に減り、ようやくスペースへの展開が可能になったという段階である。

そういう状況下では、フリーの本田に安定してパスを出してくれるのが、最後尾で広い視野が取れるCBのザッカルドぐらいであったことにも不思議はない。

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■本田をトップ下に置かない理由

ならば何故、本田をサイドに押し込めるのではなく、本来のトップ下として起用しボールを触らせないのか、カカーというならともかくなぜサポナーラやポーリがトップ下なのだ、という疑問も湧いてくる。

試合後の会見で「なぜ本田は右なのか」と質問を振られたセードルフ監督は「それがいいと思ったから本田を右で使った」と語った。肝心なその真意までは話さずにかわされたが、サンプドリア戦やCLのアトレティコ・マドリー戦を見るに、本人のプレーの特性だけではなくチーム戦術上の事情も関係しているようだ。

守備のコンパクトネスを向上させるため、セードルフ監督はこの2戦で、システムを守備の際に4-4-2へと整えるようにしている。そしてその中で、サポナーラもポーリも司令塔的なトップ下して機能を求められていなかった。

サンプ戦でサポナーラはセカンドトップとして左右のスペースへと頻繁に流れ、またA.マドリー戦でのポーリは一列下がり、第3のボランチとしての仕事を求められていた。

たしかに、こういったタスクを要求するならば本田よりも彼らだ。そして監督がサンプ戦でサイドからの組み立てを求めていたとすれば、本田をそちらへ流そうという考えも理解は出来る。

もっとも、右足でボールが持てず、右サイドだと縦を切られる本田が本当に右でいいのか、などという別の疑問も出てくる。だが現状、指揮官がチーム編成上それを求めるのならば従って結果を出さなければならないし、本田自身もそれを自覚してかサンプ戦では積極的に動こうとしていた。

「彼自身はサイドでも中でもどこでもこなせるし、何よりそれをこなそうという気持ちがあるからそれで十分。これはもう2度も3度も言っているでしょう」

セードルフは、ややうんざりした様子で語っていた。それで良しとするならば、指揮官の方向性と本田自身の頑張りを信じて活躍を追う他はない。早いうちにゴールなどの結果に結びつくよう願いたい。

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