「色んなかぞくがいて、それでいい」
結婚せずに子どもを出産する「非婚出産」をした櫨畑敦子(はじはたあつこ)さんは、そう語る。
ハフポスト日本版のネットニュース番組「NewsX」。9月27日の放送では、櫨畑さんとハフポストのエディターが「かぞく再入門」をテーマにディスカッションした。
現代の多様な「家族のかたち」とは? 「家族にかたちはない」と語る櫨畑さんに思いを聞いた。
「"産みたい"気持ちが何よりも先に来た」
「恋愛の末に結婚をして子どもを産む」という考え方もある中、櫨畑さんはなぜ、結婚せずに子どもを産む選択をしたのだろうか。
高校2年生のときに生理不順で婦人科にかかったときに、医師から「妊娠するのはすごく難しい」と告げられた櫨畑さん。それ以降、「産む」という選択肢が自分の中になかったという。
印刷会社や服飾小物メーカーのデザイナーを経て、子どもと関わることへの興味を持ち始めた櫨畑さんは、30歳を目前にして保育士として働き始める。そこで、子どものお迎えの場面に立ち会うようになり、とても感動し、「私も子どもをお迎えに行きたい」と思うようになった。
そのときの気持ちについて、櫨畑さんは「『この人の子どもがほしい』とか『この人と結婚したい』とかではなく『産みたい』というのが何よりも先にきました」と話した。結婚の延長線上にある、"この人"ありきの出産とは真逆の発想だ。
その当時、同棲していた男性がいたものの、アルコール依存症で働くのもあまり得意ではない人だった。「この人は違うな」と感じた櫨畑さんは「では、どんな人ならばいいのか」「どんな方法なら実現できるか」を一から模索していった。
その結果、協力してくれる男性が現れ、無事に妊娠・出産を経て、現在は1歳のひかりさんと一緒に暮らしている。
「私に批判をしてくる人自身も"家族の問題"に苦しんでいる」
現在、櫨畑さんは大阪の長屋で暮らし、近隣に住む「子育てに関わりたい」と名乗りをあげた友人たちと一緒にひかりさんを育てている。
しかし、櫨畑さんの子育ての仕方に対して、ネット上には「他人に手伝ってもらうやつに産む資格はない」、「一人で子育てできないなら産むべきでない」といった批判も多いという。
こうした批判に対し、櫨畑さんは「もちろん悲しいなと思うこともありますが、わたしのしていることに怒りを感じる人がいるとしたら、その人も家族の問題で悩んでいる人なのかもしれないなと思います」と話した。
そのうえで、結婚を携帯の料金プランになぞらえて、「ケータイのスタンダードプランしか知らない人がいたとして、私がシンプルプランを使っていたら怒りたくもなるのかもしれませんよね」とも話し、場を和ませた。
子育てにまつわる批判は、「長屋暮らし」だけにとどまらない。渋谷のスクランブル交差点で撮影した「授乳フォト」にも批判が殺到したという。
しかし、中には肯定的なコメントもあった。「授乳しにくいと思っていたので発信してくれてよかった」といった声や「今は海外に住んでいるが、授乳がしにくい日本に帰るのが憂鬱でたまりません」といった感想が寄せられた。表に出てきていない、授乳経験のある人たちの想いが櫨畑さんのもとに寄せられた。
櫨畑さん自身も、「授乳室は増えてきてはいるものの、まだまだ少ない」と授乳をめぐる日本の状況について指摘。「やむを得ずトイレで授乳することもあったが、子どもにとって授乳はご飯を食べることと一緒なので、トイレでご飯を食べさせるようなことはしたくないし、自分もトイレに長居したくない」と考えを語った。
また、こうした子育てにまつわる批判が起きやすい背景について、櫨畑さんは「子育てに携わる人が少なくなってきていることで分断や二項対立が起きているのかもしれませんね。
いずれにしても、こうして批判を浴びたからこそ、私は呪う立場になりたくない。相手が誰であっても祝福できるようになりたいと」とコメント。
これに対して、ハフポストの竹下編集長も「Instagramにご飯の写真をあげるのと同じくらい、授乳の風景も普通になってほしいですね」と話した。
出産してから家族をつくってもいい
番組の中には興味深いトピックがいくつもあったが、一児の父親でもあるハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長から「家族にはお父さんがいたほうが良いってこともありますか?」とやや不安そうに質問が投げかけられたのは、特に印象的な場面だった。
これに対して、櫨畑さんは「今は特に困ったことがあるわけではないので、わかりません。ただ、子どもが大きくなってきたときにその重要性を感じることもあるかもしれないなとは思います。ただ、日常生活にはいないというだけで遺伝子ではつながっていますし、関係が悪いわけでもないので、『いない』という認識は薄いですね」と答えた。
一方で、夫婦ふたりで子育てするメリットについて、現在1歳の子どもを育てているハフポストの笹川かおりさんは「ひとりでやるよりもふたりでしたほうが子育ての負担感が減る。だから、大勢の人で育てるとなると、負担はもっと減るのかなという気もする」と話した。
確かに、子育てをする人数が多いほうが合理的なように思える。しかし、先の話にもあったように、同調圧力の強い日本において、長屋で友人たちと子育てするという選択をするのは、勇気のいることなのではないか。
しかし、櫨畑さんにとって、それは"決意"のようなものではなかったという。
櫨畑さんは「決意というよりは、出産は早めにしておきたかった。結婚は後でもできるかなって思った」とコメント。
また、今後の結婚の可能性についても言及し、「身近に住んでいて手伝ってくれる人がいると助かるので、今は結婚の必要性を感じてはいません。でも、これだけ非婚と言っていますけど、好きな人ができたら結婚するかもこともあるかもしれません。ただ、今は子どもがいるので、子どもへの接し方など、子どもが生まれる前とは違うフィルターを通して、物事を見るようになりましたね」と話した。
竹下さんも「冷静になってじっくり家族がつくれそうですね」と穏やかな表情でコメントをしていた。
家族にはかたちがないということがわかった「かぞくってなんだろう展」
たくさんの批判を浴びながらも、自分に合う家族のかたちを模索してきた櫨畑さん。そんな櫨畑さんが考える「家族のかたち」とは一体どんなものなのだろうか。
この質問を投げかけられた櫨畑さんは「家族のかたちはないと思います」とコメント。その想いをより強いものにしたのは、2018年7月に行った「かぞくってなんだろう?展」だった。
「里親家庭」や「部落で育った人」、「宗教から見る家族観」など、あらゆる角度から「かぞくってなんだろう?」に向き合ったイベントでは、1週間で20回以上のトークショーを開催。来場者数は1週間でのべ1000人を超えた。
参加者の中には、テレビやweb記事を見て櫨畑さんへの"モヤモヤ"を抱えた人もいた。しかし、対面で話すことによって誤解が解け、「話せてよかった」と話し、「家族のようなものが増えたような気がした」と言って帰っていったいう。
櫨畑さんは「家族にかたちはない」としながらも、家族をパン生地に喩えながら「パン生地みたいに発酵して、食パンにもクロワッサンにもなれるけど、なかなか完成しないもの」と表現した。
自身の著書については「結婚して産むということがスタンダードになっている中で、『今度は非婚出産だ』というように新しいラベルを貼られたくはないと思っている。だからこそ、『この本を読んで希望を持てた』と、シンプルな感想を抱いてくれる人がいてうれしい」と話した。
笹川さんも「櫨畑さんのストーリーが濃縮された本。誰もが自分のストーリーを生きていいと言ってもらえているようで励まされた」とコメントした。
自身の半生をつづった著書で「家族」という漢字を使わず「かぞく」と平仮名で表現した櫨畑さん。
最後に「色んなかぞくがいて、それでいい。少なくとも私は、自分なりのかぞくを持って生きてる人たちに対して、"呪い"をかける側ではなく、祝福したり祈ったりする人でありたい」と語ってくれた。
(文:佐々木ののか、編集:笹川かおり)
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