PRESENTED BY 川崎重工業

「水素なくしてカーボンニュートラルなし! 」川崎重工のSDGsへの答えとは

サステナブル・ブランド国際会議で川崎重工の執行役員・西村元彦氏が語った水素の可能性
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「私たちは今、『脱炭素化』と『エネルギーの安定的確保』という2つの相反する課題に直面している。その解決において、切り札となるのが水素だ」。

2月15日、サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内(以下、SB国際会議)で、川崎重工業の執行役員 エネルギーソリューション&マリンカンパニー バイスプレジデント兼水素戦略本部の西村元彦氏は、そう来場者に語りかけた。

次世代エネルギーとして注目され、世界の国々が確保に乗り出しているという水素。なぜ水素が日本、および世界の脱炭素化を進める鍵となるのか。多くの企業、人々の暮らしに変化をもたらすという水素の可能性と、水素社会づくりのために必要な取り組みについて、西村氏の言葉を軸にひも解いていきたい。

SB国際会議2日目のプレナリーセッションに登壇した西村氏は「水素なくしてカーボンニュートラルなし! ―Kawasakiの挑戦―」をテーマに講演を行った。迫り来る気候変動の波、それを解決するために現在世界が「脱炭素化」を進めている。一方でウクライナ情勢に端を発するエネルギー危機が世界に広がり、「脱炭素化」と「エネルギー確保」を共に実現する必要が出てきた。これを解決する鍵こそが「水素」だと西村氏は語る。

そもそも日本は2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。その中で、グリーン成長戦略を実現するために、民間企業の挑戦を全力で応援すると明記。また「水素発電」は、戦略における電力部門の脱炭素化の重点項目となり、「供給量・需要量の拡大・インフラ整備、コスト低減により、水素産業を創出する」と掲げている。もちろん再生エネルギー(以下、再エネ)についても最大限導入するが、全ての電力需要を再エネでまかなうことは非常に困難だ。少しずつ再エネの発電量を上げていく努力をしつつ、足りない部分は他でまかなうことが必要になる。そこで、注目すべきが水素なのだ。

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2月15日SB国際会議にて(基調講演)

水素は脱炭素化・エネルギーの安定的確保の切り札になりえる

 

この水素について、私たちはどれだけのことを知っているだろうか。水素のどのような点が次世代エネルギーとして注目されているポイントなのか。西村氏は講演の中で「水素は究極のクリーンエネルギー」だと語り、その性質について説明した。

 

「水素は地球上で最も軽く、豊富で、無色・無臭・無害な気体だ。水や化石燃料、廃プラなどから取り出してつくることができ、さらに使用する際にCO2を一切出さない。また電気と違い長期間タンクなどに貯槽できるので、資源が豊富で安く大量に作れる生産地から需要地へと長距離輸送することもできる。これらの理由から、水素は脱炭素化・エネルギーの安定的確保の切り札になりえるのだ」

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(SB国際会議 登壇資料より)
 

実は水素には幅広い使い道がある。かねてからロケット燃料や、石油・鉄鋼・半導体など産業分野で原料として利用され、近年では家庭用燃料電池(エネファーム)、燃料電池自動車などが実用化済みだ。また、現在開発中の「水素エンジン」が実現すれば、長距離バス、船、飛行機などでのCO2排出量ゼロが可能になる。さらに水素発電においては、現存する火力発電設備を生かして水素を燃やして発電することで、CO2を出さず、安定的に電気を作ることができるのだ。

西村氏は、これら水素の特徴を挙げたうえで、「水素なしでは、日本のカーボンニュートラルは進まない」と続け、長年、水素に向き合ってきた川崎重工の取り組みを紹介。水素活用に向けてクリアしなくてはならない問題について明かした。

 

課題は安定供給の確保とコストの低減、「水素の海外輸送」で解決

 

活用が期待される水素だが、活用に向けて「コスト」と「安定的な需要と供給」などの課題がある。西村氏は、「水素のコストを現在の化石燃料と同程度にまで下げるには、大量導入が必要だ」と述べた。

 

川崎重工は比較的早い段階からこの問題を捉え、水素活用に向けて挑戦を始めていた。「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」というグループミッションのもと、2010年から「水素」に着目し、中期経営計画において「水素エネルギーを利用できる仕組み作り」を宣言。当時は「夢物語と言われていた」と西村氏は振り返るが、1980年代からLNG(液体天然ガス:マイナス162℃)の運搬船、貯槽、受け入れ基地などの開発で培った極低温技術を生かして、官民一体の事業を強力に推進した。そして現在では、海外から安価に大量の水素を輸入する世界初の海外輸送プロジェクトを進めている。

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(SB国際会議 登壇資料より)

「2022年春には、当社含め7社で、オーストラリアで作られた、褐炭(※1)由来の水素を液化して日本へ海上輸送する実証を実施した(※2)。当社は海上輸送の要となる世界初の液化水素運搬船『すいそ ふろんてぃあ』、そして陸上の貯蔵タンクを有する液化水素荷役基地『HyTouch神戸』の開発・建造・建設を担った。この液化水素の国際間輸送は世界初の試みであり、『すいそ ふろんてぃあ』は国内外から高い関心を集めた。機器の大型化を進めることで、一度に運べる量を増やす。これによりコスト低減を叶え、日本における水素活用を広げていきたい」

※1 植物の化石で生成1億年未満の若い石炭。乾燥すると発火しやすいなどの理由で輸送ができず、多くが未利用資源となっている。
※2 川崎重工を含む7社で構成される「技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が、NEDO助成事業として実施。

 水素は、マイナス253℃に冷却し液体にすることで体積が気体の1/800となる。マイナス253℃の液化水素を運び貯める船と貯蔵タンクには「100℃のお湯が1ヵ月たっても1℃しか下がらない」川崎重工の高性能な真空断熱技術がフルに生かされたという。

日本政府も2030年には300万トン、2050年には2000万トンという意欲的な水素の導入目標を掲げているが、これを見据え、川崎重工は現在、『すいそ ふろんてぃあ』の128倍の積載量を有する大型液化水素運搬船を開発中だ。これが実現すれば一般家庭の年間消費電力約40万世帯分をまかなえる約22.5万トンの水素を日本に供給し、160万トンのCO2削減を実現させることができる。

サプライチェーンの確立で水素社会の早期実現を

さらに西村氏は、水素を「つくる、はこぶ、ためる」だけではなく、「どんなに環境負荷が低いエネルギーであっても、あまりに高額で、欲しい時に手に入れられないのであれば、誰も使おうとしない。活用の道筋をつくり、需要をつくり出さなくては、社会で機能することができない。だらこそ、供給とともに、水素の利活用を促進することが必要だ」と話し、「つかう」道筋も整え、「水素のサプライチェーン」をつくっていきたい、と続けた。

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(SB国際会議 登壇資料より)

大規模利活用の鍵は水素発電だ。水素の大量需要によってコストをさらに押し下げることができるのは、天然ガス導入の歴史から実証済みといえる。この事例を参考に川崎重工は、産業向けの発電用天然ガス焚きガスタービンで水素対応できる開発を行い、世界初となる市街地での水素燃料100%による発電実証を実施。水素由来の熱と電気を近隣の公共施設に供給した(※3)。

※3 神戸市や関西電力からの協力を得ながら、大林組と共同でNEDO助成事業として実施

このように川崎重工は、長年培った技術を生かし、水素社会実現に向けて先進的な試みを続けている。さらに「今後は水素発電で培った燃焼ノウハウを生かして、水素エンジン分野にも積極的な挑戦を続けたい」との意向も西村氏は示した。すでにパートナー企業とともに、船や飛行機、二輪車などでの水素エンジン実用化を目指し歩みを進めている。これと同時に、自社でも率先して「水素発電」などの水素利用を進め、2030年を目標に国内事業のカーボンニュートラル達成を目指すという。

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(SB国際会議 登壇資料より)
「2030年には大量の水素が海外から日本にやってくる。カーボンニュートラル達成を目指す2050年もすぐ先の未来。ぜひ『水素』を活用し、今の便利な生活そのままに、クリーンな毎日への転換を実現したい。また、企業の脱炭素経営には『水素』という選択肢があると多くの人に知ってほしい。水素社会の早期実現、これが川崎重工のSDGsへの答えだ」と西村氏は力強く語り、講演を締めくくった。

水素社会実現における、官民一体の取り組み

同日のランチセッションに登壇した西村氏は、「官民で挑む水素社会の実現」をテーマに、東京大学客員准教授の松本真由美氏、山梨県企業局新エネルギーシステム推進室 室長補佐の坂本正樹氏、テクノバ研究部統括主査の丸田昭輝氏とトークを繰り広げた。
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2月15日SB国際会議にて(ランチセッション)

ここで丸田氏から語られたのは、現在、世界各国が水素の取得に乗り出しており、水素がこれからは国際的な貿易品となる可能性があること、日本も国内での水素製造を推進するともに、水素輸入のための国際連携を推進していかなければならないことが示唆された。さらに坂本氏からは、山梨県企業局の水力発電を中核とした再生可能エネルギー発電事業が紹介され、山梨県が「国内の再エネを吸収する分散型のPEM型水電解を用いたP2Gシステムによる」世界最先端のGX(グリーントランスフォーメーション)モデルの構築に向けて積極的に動いていることが語られた。

セッションでは、水素におけるさまざまな議論も展開。国産のグリーン水素(※4)と海外輸入のブルー水素(※5)はどう共存していくのかについては、「対立構造にせず、両者をミックスするなどして、よりよい形で国内循環させることがカーボンニュートラル達成への最適解ではないか」という意見があがった。というのも国産のグリーン水素だけでは、国内需要をまかなうことは難しく、コストも高いからだ。西村氏はこの中で、「海外輸入のブルー水素は二酸化炭素を回収することで、グリーン水素と同等程度まで温室効果ガス排出量を抑えられる。それを上手く活用しつつ、国内のグリーン水素の製造、普及に努めていく。両輪で日本の水素社会化を進めていければ」と語った。

※4 グリーン水素:再エネ由来の電力を使って水からつくる水素で、製造時CO2を排出しないもの
※5 ブルー水素:化石燃料由来の水素で、製造時に出るCO2を回収するなどして排出量をおさえたもの

全員が一体となって、水素社会実現への道を進みたい

ランチセッションでさまざまな取り組みが紹介されたように、今、日本各地で水素活用への動きが活発化している。そしてその背景には、持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションを創出する国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の存在があることを忘れてはならない。

政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の策定にともない、企業の挑戦を後押しすべく、2兆円の「グリーンイノベーション基金(以下、GI基金)」をNEDOに創設した。川崎重工、山梨企業局におけるいくつかの取組みは、このGI基金事業に採択され、NEDO助成事業として実施されているものだ。こうした国のバックアップを受けることについて西村氏は、「水素社会の実現を加速するために必要不可欠だ」と述べる。

「一企業で実現できることには限りがある。次世代エネルギーへの取り組みが進んでいる欧州諸国を見ても、主要企業の取組みには必ず国のバックアップがある。社会構造を変えようとする大きな取り組みだからこそ、官民一体となって強力に進めていかなくてはならない」。

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また、水素普及については業界を問わず、多数の企業との連携も必要になるとも語った。「水素をつくる、はこぶ」ことを担う企業は限られているが、その他の企業も「水素をつかうこと」はできる。自社の電力を水素由来ものに変える、何等かの施設と水素ステーションを複合し、電源および水素供給施設として活用するなど、水素社会を推し進める連携は多種多様にあるのだ。

「産業界全体で、水素活用の輪を広げることができれば、持続可能な未来はもっと早く訪れるはずだ。川崎重工はこれまで水素社会の実現を技術領域でリードしてきた。しかしこれからは企業を含め、一般市民のへの啓発活動にも力を入れて行きたい。水素は危険というイメージを持っている人もいるかもしれないが、実は長く産業界で利用されてきた安全なエネルギー源。そのことも踏まえ、技術の確立、安全性の確保とともに、皆さんが使うエネルギーの選択肢に水素を入れてもらえるよう、多角的な努力をしていきたい。そして多くの人とともに、水素社会を実現していきたい」。

SB国際会議での講演を終えた西村氏は、穏やかにかつ力強くそう語った。西村氏は工学博士でもあり、同社の技術研究所で長年研究に従事してきた経験がある。2008年頃から水素の可能性を見出し、同社の水素プロジェクトおよび水素サプライチェーンの構築をけん引してきた彼の目は、確かに水素社会の実現を見据えていた。そしてその明るい風景を「共に見たい」と思い行動する仲間を今後、さらに増やしていくという。

(取材&文:笠井美春)

※「サステナブル・ブランド ジャパン」より転載